大学の後輩に『既成事実』を作られてしまった結果
「......むにゃ」
目覚めたら俺の腕を枕代わりにして後輩が寝ていた。
俺が置かれている状況を簡潔に説明するとそんな状況だった。
「......へ?」
思わず間抜けな声を出してしまったことを許して欲しい。何故ならこの状況を一番理解していないのは自分なのだから。何が一体もってこんな状況になっているんだ。訳が分からない。
必死に昨日の記憶を探ろうとすると頭痛に邪魔される。俺はこの症状を知っている。二日酔いというやつだ。
昨日はサークル仲間と飲んだ筈だ。何事もおめでたく感じる奴らの集まりなので飲み会は高頻度で開かれる。
奴らと馬鹿騒ぎをするのは楽しいのだが――――――、不思議なことに昨日の記憶が一切ない。
俺とあろうものが飲みすぎて記憶を飛ばしてしまったらしい。
そんな茶目っ気もチャームポイントですなんて言う余裕があったらどんなに良いか。
「......」
いままで目を背けていた腕に乗っかる感触に目を向ける。
やはりどうしようもなく俺の腕の上で寝顔を晒す後輩の姿がそこにある。
毛布が掛かっているせいで決定的なものは見ていないが、おそらく裸なのだろう。
「夢じゃねぇよなぁこれ......」
周囲の景色に目を向けると、そこには一人暮らしの女の子の部屋の理想がそこに広がっていた。後輩は結構良いマンションに住んでいて、なんとここはオートロック付きである。
何故俺はここに居る?
酔いがだんだんと覚めてきた気がする。
いや俺はまだ決定的な証拠を見ていない。
まだ俺が無罪と言う可能性が万分の一くらいは存在する筈――――――、
几帳面に整頓された部屋の中で明らかに異彩を放っているのは、乱雑に放り投げられた男物の服。
「俺のじゃねぇか」
間違いなく、昨日俺が着ていた服である。
汗が背中を伝うのを分かる。麻雀で言うところの数え役満と言ったところか。
「......」
酔いなんてもうとっくに覚めきっていた。
この状況を見て、昨晩何があったか予想できない奴はいないだろう。
昨日俺はめちゃくちゃ酔っていた。後輩は裸。俺も裸。現在地は後輩のマンション。
文字にして表すと俺がやっちまったことの重大性は分かるだろうか。
ちらり、と後輩の方を見やる。
「すぅ......」
気持ち良さそうな寝息を立てて後輩は寝ていた。
こちとら死ぬほど冷や汗をかいていると言うのに。
やはりそこには美少女がいる。もう今年で二十歳になる筈なのにその顔立ちの幼さは高校生と言っても通じるくらいの童顔とちんまりとした身長。艶やかな黒髪は勿論さらさらしているし、顔立ちは人形みたいに整っている。
「......Oh」
やっぱりコイツ美少女だなという感嘆。多分十分は見てても飽きない。
それにしても、だ。
「やっちまった」
三周くらい回った賢者モードが導きだした結論は、つまりそういうことだった。
◆
「すいませんでした」
俺は土下座をしていた。全力で頭を地に伏せ、体の全身で謝罪していた。
後輩が起きた瞬間、俺は即座に土下座した。勿論服は着ている。
後輩はしばらく唖然としていたが、この状況を把握するなり頬を赤く染めた。
やっちまった。俺の心境はこの六文字で表せる。
酒とは怖いものだ。だって自分がなにやったかまったく覚えてないんだもの。
しかし、状況証拠からもうある程度予想できるので。
俺はもう謝罪の意を示すしかなかった。
ちなみに後輩には無理矢理Tシャツを着せた。決定的なものはなにも見ていない。減刑を求めるわけではないが、とにかく俺はこれ以上罪を重ねたくなかった。
「ちょちょちょ、なんで先輩が謝るんです!?」
「お前も分かっているだろう。俺はやっちまったんだ」
「やっちまったってなんです!?」
「耐えきれなかった俺の理性を恨んでくれ。すまなかった」
「違いますから! 先輩、誤解です!」
誤解な訳あるか。状況証拠、物的証拠共に完璧に揃っている。
後輩のフォローがむしろ痛い。俺がやらかした事実は消えない――――――、
「そもそも、誘ったのは私ですから!」
ちょっと意味が分からない。少し顔を上げて後輩の様子を覗くと、顔を手で覆って耳まで真っ赤にした彼女の姿がそこにあった。
可愛いな、と場違いの感慨を抱きつつ、とりあえず土下座の体勢を解除する。
自分でもよく分からない方向に話が進んでいるからだ。
普通逆では?
後輩はベットのすみっこで体育座りをしながら口を開いた。
「......あの、ですね」
「うん」
「先輩って、人気じゃないですか。その、気配りできて、優しくて。頼れる雰囲気が凄くて、女の子がみんな狙ってて、ですね」
「うん?」
わりと真面目に心当たりがなかった。
人気? 女の子に狙われている? どこのラノベの主人公だ。
本当に心当たりがない。疑問に思う俺を他所に、彼女は話を続ける。
「先輩のこと、いつのまにか目で追ってて。で、ですね。付き合うにはやはり『既成事実』を作るのが手っ取り早いとサークルの先輩に教わりまして」
この後輩に悪知恵を仕込んだであろうクズどもの姿が脳裏によぎった。
そいつらが親指を立てながらにやにやと悪趣味に笑っていたのはきっと俺の妄想ではないだろう。
「飲み会まで企画してもらって、先輩をお酒に酔わせてお家に連れ込んで......」
申し訳なさそうに指先をもじもじさせる後輩。
つまるところこの状況は作為的に作られたものだったのだ。
「先輩、すいませんでしたあぁぁぁぁ!」
悶絶するように枕に顔を埋めながら、後輩は全力で謝罪した。
「......別になんの問題もない?」
「.......へ?」
後輩は美少女である。ぶっちゃけ俺も気になっていた。彼女も俺を気になっていた。つまるところ両想いなのである。別になんの問題もないのではないか。そもそも謝罪の必要なんて最初からなかったのではないか。とりあえず、俺は一つの結論に辿り着く。
「とりあえず、付き合うか?」
後輩は顔を上げ、本当に驚いたように口をぽかんと開けてこちらを見た。
潤んだ瞳は「良いんですか?」と問いかけているようだった。
「本当に、私で良いんですか? その、先輩を酔わせて無理矢理『既成事実』を作った訳なんですけど」
「ぶっちゃけて言うなら俺も前からお前のこと気になってた」
「ぴっ!?」
後輩は謎の奇声を上げて、わたわたと手を慌ただしく動かした。
「......あ、不束者ですが、よろしくお願いします?」
「よろしく頼む。その、迷惑をかけることとかあるかもしれないが。俺酒弱いし」
「その時はお持ち帰りされないように私が支えますので」
「そうか。本当に、よろしく頼むな?」
それを聞いて、後輩は本当に嬉しそうに頬を緩めて、
「はい!」
そう力強く頷いた。
くっつきそうでくっつかない二人をサークル仲間が強引に酒の力でてんやわんややった結果がバカップルの誕生です。
最近筆が動きまくる。
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