プロローグ (Ⅰ)
時間軸が少し後の話になります。
多少のネタバレあり
流血表現あります。
場所は皇城、王座の間。
時は夕方、闇が支配する時間が間もなくやってくる。
私はいま…人間どもに頭を下げられている。
頭を下げる人間たちの前では、惨劇がくりだされていた。
私は王座に座りその様子を興味深く見守っていた。
人間達の後ろから美しい従僕が歩いてくる。
人間達の目にもこの従僕は美しく映るらしい。
無礼にも頭を上げ、偶然にも従僕を見た令嬢と思われる女は従僕を見てこんな状況にもかかわらずハアとため息をつき、ほほを朱に染めた。
無礼ということが分からないのか、頭を上げたまま。
人間としては、そこそこ美しい女はその命を持ってしても美しい従僕の顔が見たかったのか…
人間達の中で一人頭を上げた女は、その調和を奪っていた。
ローズは、一言
「目障りだ。」
…と、つぶやいた。
ローズは首を垂れろ程のことが言いたかったのだろうか…人間がすべて跪くさまを見たかったのか…それは、ローズにしかわからない。
だが、それを聞き女を見とがめた美しい従僕は、自らの剣でその女を物言わぬ躯に変えた。
自らの持っている短剣を赤黒く染めて、女の躯から吹き上がった赤黒いものを煩わしいものと一瞥して冷たい目を向けた。
ローズの手を声を煩わせたのが許せない…とでもいうように…。
無言のようなのに、目が詭弁に語っていた。
「ローズ様、諸々の処理が終わりました。」
美しい従僕がローズの目のまえに跪き、そのきれいな唇から血なまぐささを感じさせる言葉を吐いた。
ほめてほめてと氷のようだった瞳をとろりととろけさせ、犬のような視線を投げかけてくるがその執事服の端と、自らの後ろに隠した短剣、そしてその美しい顔には、べっとりと赤黒い液体がついている…。
だがその美しい従僕には、アクセントにしかなりえない。
おぞましくローズの瞳に映ることはないのだ。
さらに妖美に美しく映るだけだ。
ローズはうれしくなってしまった。
やはり、ローズも少し壊れてしまっていた。
だが、従僕どもは、そんなローズがいとおしいようだ。
犬のような暖かな視線の裏にドロドロとした執着がひっそりとうかがえた。
本当は、誰にも見せたくないのに…と、そんな執着が。
ローズは雪のような肌に薄っすらと桃を浮かべて従僕を見た。
人形のようだった表情が動き出した。
精巧な美しい人形が、命を持って動き出したようだ。
よほどうれしかったのであろう。
にこり。...そう微笑んだのだ。
そしてどこか人間味がない顔にすっと戻り、王座の間を見渡した。
その瞬間を見てしまった従僕はほほを染めた。
その瞬間を見た人がいたならば、絵画の世界のようだというだろう。
そのくらいには、美しかったのだ。
ローズは、笑った。
いとおしい従僕の目を見て笑ったのだ。
ローズのためであれば、最大の禁忌をも犯してしまう従僕だ。
こんな主人を見て愛おしいと思わないわけがないのだ。
耳を真っ赤に染めて少し涙目になった美しい従僕は、それでも主人を見つめ続けた。
自らを見て笑ってくれた…このことしか頭にないようだ。
はじけるような笑みを浮かべた男には、犬の尻尾が見えるようだった。
…その従僕の後ろには物言わぬ躯となった皇帝がいるというのだが…。
「よくやったな、ジン。ほめて遣わす。」
私の口から幼くとも威厳のある声がでてきた。
「もったいなきお言葉…そのねぎらいがいただけただけでジンは幸せです。」
感激したかのように従僕はその黒い手袋をはめた右手を胸に当て優雅にお辞儀をした。
退席を促したが静かに首を振り私の後ろに控えた。
この人間達の前に私を一人残すのは不安なようだ。
さっき無礼な女が一人いたから心配させてしまったようだ。
厳密には、一人では無いのだが…まあ今は関係ないだろう。
そしてローズ自身も相当強いのだが…。
従僕は、知らぬ存ぜぬと我を通すらしい。
従僕の気遣いがうれしくなった。
…まあ、本心としてはローズを見ていたいのだろう。
かわいい従僕だ。
そう思うと同時に…。
続き…気になるよねえ…
感想や、希望があったら言ってくださいお待ちしてます。