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2/13

プロローグ(下)

 直後にひらかれた諮問会議で、帝国転覆の計画書に対するフェンダー家の関与はどうにか否定されたが、皇家の三男に暴言を吐いたことで、レフィアは即日辺境に追いやられることになった。


 やはり母の教え通り、変に目立つとろくなことがない。

 いや、目立とうと思ったこともないのだが。


 出立の時。

 寂しそうな顔で見送る父や兄妹、使用人達にレフィアは手を小さく振った。


「それでは、行ってまいります」


 レフィアの言葉とともに、馬車が静かに出発する。

 

「ああ、レフィア。どうしてこんなことに……」


 頭を抱えるレフィアの父の後ろから、初老の男が二人息せき切って走ってきた。


「おお、もう行ってしまったのか」

「なんということだ、早すぎる」

「ゼノ教授と、リンゼイ教授ではありませんか」

 

 レフィアの父が驚いて言う。

 二人の男は、帝都を代表する学術院と魔術院の教授だった。


「お二人とも、まさか娘の見送りに来て頂いたのですか」

「いや、我々は引き止めにきたのだ」

「引き止め?」

「情報を得るのが遅すぎた。レフィア嬢を辺境に送るなんて、帝都の損失ですぞ」

「一体どういうことですか?」


 レフィアの父は訳がわからないといった顔だ。

 学術院や魔術院に正式に入学できるのは士官候補の男子のみ。レフィアは生徒ですらない。

 ただ、小さな頃から、二人の研究室に密かに遊びに行っていたことは父親として知っていた。


「娘がお二人の仕事の邪魔をしていなければよいと思っていましたが」

「「邪魔だなんてとんでもない!」」


 二人の教授の声が重なった。

 お互いに顔を見合わせた男達はごほんと咳払いをする。


「レフィア嬢は素晴らしい才覚を持っている。少なくとも我々がこれまでに教えた生徒の誰よりも。ただ非公式に教えていたことになるし、彼女から強く口留めされていたので、これまでいかに彼女が優れていたか公には言えなかったのですが……彼女は紛れもなく救国の聖女の娘ですよ」


 学術院のゼノ教授は残念そうに言って、眼鏡の端を持ち上げる。


「フェンダー卿、時にあなたはこの国をどう思われますか」

「と、言いますと」

「諸地域には重税を課し、元老院は会議のための会議を日夜繰り広げるだけ。周辺諸国が着々と力をつける中、なんの手も打てないでいる。一見華やかな帝都は、もはや砂上の楼閣とも言えましょう」

「教授……」

「だからこそ残念なのです」


 魔術院のリンゼイ教授が白い髭をなでながら、丘の上に立つ宮殿を見上げた。 


「もしも、レフィア嬢が男に生まれていれば……彼女の才覚を発揮できる環境があれば、この国を変えたでしょうから」

「あの娘が……?」


 レフィアの父は驚いた様子で、娘の乗った馬車に目を向ける。


 幼い頃から少し変わった子ではあった。

 社交界やドレスには一切興味を示さずに、英雄譚にのめりこんだのは、救国の聖女と呼ばれた妻の影響か、それとも寝物語にそんな話ばかり聞かせてしまった自分の責任か。なんとか貴族の娘らしい生活をと思い、舞踏会に連れていったところ、第三皇子に求婚されることになった。

 当時は大いに喜んだが、あの娘にとってそれは幸せな選択ではなかったのかもしれないと、今は思う。 

 

「レフィアは普通の女の子がするようなことには興味を示さない変わった娘でしたから、結婚して内助の功が果たせるのか心配していたのですが……」

「いや、彼女がその気になれば、立派に内助の功を果たすと思いますよ。そう、とてつもない内助の功をね。まあ、相手がそれを受け入れられるかどうかですが」


 二人の教授は意味ありげに微笑んだ。


 ――父上には申し訳ないことをしました。でも、噂と規則でがんじがらめの宮廷より、辺境のほうが案外気楽な生活が送れるかもしれませんね。


 馬車の車窓から流れゆく景色を眺めながら、レフィアは一人呟いた。

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