圧も熱気と思いやりも強いオネェ様……降臨です。
「ガハハ……おっと、長居もあれじゃなぁ……儂はそろそろお暇するとするかのう……」
孫が生まれたらいの一番に来るからの!!と、そう言ってお義父さんはお帰りになったのです。
空間転移する直前のお義父さんの背中は、どことなく嬉しそうに見えた。
いの一番にって言ってたけど……今度は早朝は避けて下さいね!?
お義父さんが去った後、静かになった部屋を見回してから、獏くんがため息混じりに一言。
「全く……親父は周りの迷惑を考える事を知らんのか……いい歳こいて呆れるよ……」
……なんて言っていたけど、彼ははにかんだような顔をしてた。さっきまでの苦虫を噛み潰したような表情が嘘みたいにね。
ふふふ、関係は拗れてるかもだけど、祝われたのは嬉しかったのかな?
もう、素直じゃないんだから……そんな所も好きなんだけどね、へへ。
お義父さんが帰った後だけど、時間的には朝食直前のようだった。
眠気はまだ残るものの、今から寝直すにはタイミングが悪いって事で、今日は早めに朝食を取る事になったのです。
「まあ……余計なアクシデントはあったけどさ、気を取り直して朝食にしようか!ひぃちゃん、今日は何か食べられそうなものはあるかな??」
「うーん……お粥みたいのなら……大丈夫かなぁ……多分?」
獏くんが気遣って食べたいものを聞いてくれたんだけど、今日もあんまり食欲は湧いてこなかった。
まだ起き抜け近くだってのもあるから判断に迷う所もあるけど、昨日よりは吐き気とか目眩とかが少ない気もする。でもそこで調子に乗って食べ過ぎちゃったりしたら、盛大にリバース再びな展開が頭を過ぎった。
獏くんが丹精込めて作ってくれた料理を無駄にしてしまうなんて私には出来ないっっっ……!!
という事で、ここは様子を見つつ、徐々に食事を戻していく方向で行こう、そう心に誓った私であります。
「うん、分かった!!親父の持ってきた野菜や肉もあるからね、使うのは不本意だけど……それで美味しいの作るよ!!」
獏くん曰く、お義父さんの育ててる野菜とかお肉って普通の市場に並んでいるものよりずっと品質が良いんだって。
昔から畑いじりが趣味だったらしくて、国王を引退してからはより精力的に取り組むようになったみたい。自国だけじゃなくってわざわざ他国からも取引したいって来る人もいるんだとか。
ちなみに、夫婦共々お世話になってるアサさんもお義父さんの所で育てた野菜とか使ってるんだって。へぇー。
不本意だけど、って所は本当に不本意だったんだろうね……ぐぐっと拳を握りしめて歯がゆいって感じの顔をしてたけど、獏くんはお土産を抱えてキッチンに向かい、私はそのままソファーに少し横になる事にしたのです。
本当はこんな所で寝ちゃうのはお行儀が悪いかもだけど、何だか少し眠気が戻ってきてしまってて……ふわぁ〜。
瞼が落ちきるかどうかって辺りで、バーン!!と扉が開いた。
「……ウフフ〜♪♪やってきたわよぅ、アタシが!!」
そ、その声は……おネエ様っっっ!?
ソファーから起き上がって振り返ると、そこには天を突くような特盛のヘアスタイルとギラギラにデコレーションされた立派な一本角、筋骨隆々なボディラインをこれでもかってぐらい強調したタイトなドレス……間違いなくフラロウスさんその人だった。
おおぅ……久しぶりにお会いしたけど……今日もキレッキレですね、色んな所が!!
「ああ!そう言えば声を掛けていたんだった!忙しい所、来てもらって感謝だよ、スオ……」
獏くんが笑顔で迎え入れようとしたけど、瞬時に迫ってきたおネエ様に口を塞がれてた。結構離れてたはずだったんだけど……あれが疾風のようにって事!?
「……んん〜??その名前は言わない約束でしょぅ〜??今のアタシはフ・ラ・ロ・ウ・スよ♡」
ウフフ♡と笑いつつも、おネェ様は獏くんの頬を逞しい両手でギュッギュッとプレスしてます。
顔は笑ってるんだけど、目が笑っていないいつものパターンのやつでね。
ああ……獏くんの折角のお顔が潰れちゃうっ!!た、縦に伸びちゃうからぁぁぁ……!!
そうされててもとうの獏くんはハハハとニコニコしているだけなので、まあある意味お決まりの二人の挨拶的な感じなんだろうなって、私的に納得する事にしました、まる。
しかし……あの強者の獏くんをいとも簡単に制してしまうなんて……流石おネェ様としかいえない光景だわ……。
「えっと……フラロウスさん、今日は何かご用事があったのでは……??」
私の問い掛けに、おネエ様は何か思い出したようで、ハッとした顔でこちらを振り返った。ついでに獏くんのホールドも解除になったよ、良かった……。
「……あ!ヤダァ〜、アタシったらついついバクゥ様と戯れちゃったわぁ〜♡いけないいけないっ♪」
恐らく反省の意味が入ってるんだと思うんだけど、両手を頬に身を捩ってからのテヘペロコッツンを頂きましたよ??
……可愛らしさは皆無だったのは黙っておこう……。
「そうそう!!今日はねぇ、ご懐妊の御祝いもあるんだけどぉ〜、ヒカゲ様に新しい服装を見立てに来たのよぉ〜♡」
へ?私の服??
別に今ので困った事はないんだけど……と口には出していなかったと思うけど、その思いを見透かしたようにフラロウスさんから声が掛かる。
「もうヒカゲ様ったら……アナタはとっっっても謙虚だから今のままでも良いって思ってらっしゃるかもだけど、それは大間違いなのよ!?」
な、何故に私の考えが!?心を読まれている……だと!?
大仰に驚き固まる私に更に畳み掛けるおネエ様。
「いい事ぉ??今のアナタの身体は以前のアナタとは違うの!大事な御子を優しく、強く守る為に色々と変化しているのよ!?繊細になっている今だからこそ、食事や生活を見直すだけではなくって、身体に負担のない服のデザインや生地選びにも気を配らなければならないのよ!!」
某セールスマンばりのビシッと指差しでそう言われた私は雷に打たれたような衝撃を心に受けた。
た、確かに……そうですよね……!!!
マタニティウェアとかね、多少知識として持っていたけど、今まで縁もゆかりも無い事だったから全く考えが及んでなかったなぁ……ふぇぇ……。
そこまで言い切ってから、ある程度熱も収まったのか、フラロウスさんは静かに席に着いた所でいつの間にか用意されてたお茶を一口。あ、用意したのは獏くんですよ。
「ふぅ……アタシったらついつい熱くなっちゃったわ……ごめんなさいね、ヒカゲ様」
い、いえいえ!?とんでもないデスヨ!?と首を振り振り。
「ふふ、ヒカゲ様は優しいわね。まぁ、久し振りにバクゥ様からお声が掛かったのもあったけれど、新しい御子が生まれるってなって、まさかアタシがそのお手伝いを出来るなんてって……とっても嬉しくなっちゃったのよ。本当光栄な事だわ……うふふ」
おネエ様は少し遠い目をしながらも穏やかに笑ってた。お顔の圧もその時はすっと落ち着いてて、本当穏やかな感じ。
いつも賑やかでイケイケドンドンなキャラだと思ってたから……かなり新鮮味あるわ……。