何度目かの義父襲来……です。
お祭り騒ぎから一夜明けて、翌日の早朝ですよ。
突如現れたのはお義父さんだった。
お得意の空間転移で、私達の部屋に直接いらっしゃったようですわ……。
「ガッハッハ!二人共!ご無沙汰じゃなぁ!!」
豪快な笑い声に、思わず飛び起きると、そこにはその人。
驚き顔を見合わせる私達を余所に、悪びれもなく笑っていましたわ。
どうやらお祝いに来てくれたみたいで、普段よりも顔を綻ばせながらやってきたよ。
お土産にって何かの大きな塊肉と育てているって言ってた野菜を持ってきてくれたみたいだった。
採りたて捌きたてホヤホヤらしくて、若干の鉄臭さを感じたけど……新鮮なのは嬉しいですよ、ええ。絵面が少々スプラッターで朝から見るのはなかなか辛いけどもね!
えっと……お祝いして下さるのは嬉しいのですが……何の知らせもなかったし私達はまだベッドの中で就寝中だったので、かなり面食らってしまったのよ。獏くんなんか、敵襲か!?って身構えてたぐらいだもの。あれかな……ご高齢の方の朝は早い的な……??
とりあえず毎回恒例の客間スペースに移動して、お茶でも飲みながら少し話をする事に。
「親父さ……来るなら時間を考えろよな……ったく……!!」
「ガハハ!悪いのぅ、昨日のお前の公示を聞いて居ても立っても居られなくなっての!当日は訳合って来られんでな、翌日になってしまったが早ければ早いほどいいと思ったんじゃ、ガハハハハ!!」
物凄く不機嫌な獏くんを他所に、相変わらずの豪快な笑いっぷりで返すお義父さん。
お祝いの気持ちはとてもありがたいんですけども、獏くんの周りに黒いオーラ的な何かが漂い始めてるんです……二人の温度差が怖い怖い……!!!
「いやぁ〜儂にも遂に孫が出来るとはなぁ……。お前さん達は随分と奥手同士だったもんじゃからのぅ、出来るのはまだまだ先かと思っとったから驚いたわい、ガハハ!!」
そう言いながら私の大きくなりつつあるお腹をそそっと触ろうとしていたお義父さんはしっかり獏くんに止められてたけど。
な、何もそこまで警戒しなくても……顔が怖いよ、獏くん……!?
……確かに以前の私達の事を考えると、今こうしているのは奇跡に近いかもって思った。
好き同士だったのは間違いないけど、お互いに一歩踏み出す勇気がなかったからね。
「くっ……親父に心配される筋合いはねぇし……俺達はお互いに愛し合ってるんだ。当然の結果だろう?」
「ほほぅ??なかなか言うようになったじゃないかぇ??手を繋ぐだけで精一杯だったお前がねぇ??」
お、お義父さん……起き抜けの煽りは止めて……!!獏くんの、獏くんの繊細な部分をこれ以上刺激しないでぇぇぇ……!!
急遽起こされた事も相まって、獏くんは終始苦虫を噛み潰したような険しい顔だったけど、お祝いされたのは嬉しかったみたいで、そこには素直にお礼も言ってた。以前よりも関係は良くなってる傾向にあるのかもって、私としては少し安心したわ。ほんの少しだけだけど、ね。
「しかし嬉しい事だのう……家族が増えるなんて何十年ぶりじゃろうか。バクゥが子供じゃった頃もつい最近な感じがしたが、儂も年を取ったんじゃなぁ……」
私達の方を見ながら、しみじみと呟くお義父さん。顎髭をそっと撫でながら、遠い目をしてた。
「ヒカゲちゃんや……お前さんには本当に感謝せねばならんの……」
「え?私に……ですか……?」
急に話を振られて驚いていた私に穏やかに笑いかけるお義父さん。その笑顔には少し影があったように思えた。
「……そうじゃよ。儂の前妻の事で迷惑を掛けてしまったばかりか、右も左も分からん別の世界に来てもらった上、息子を公私共に支えてくれてな、更に世継まで授かってくれてな……もう感謝してもしきれんわい……」
そう言ってから、先程までの豪快さは鳴りを潜めて穏やかな様子でお義父さんは静かに頭を下げた。
そんな……感謝しているのは私の方なんですよ、お義父さん。
元の世界で天涯孤独だった私と家族になってくれて、新たな生命も授かる事が出来た、その獏くんはあなたの息子。あなたがいなければ、私は獏くんとこうして幸せになるなんて出来ていないんですから……。
ちょっぴり涙ぐんでしまった私に、そっとハンカチを差し出してくれる獏くん。いつでも紳士だわ……素敵!!