糸の街
過去の作品です
至らない点は多々ありますが、どうかご容赦下さい
私の視界に糸が映るようになって、どれくらいが経つだろう。
初めは目の病気かと思った。なんせ人の小指や胸の辺りから糸が伸びているのだから。症状は高校の授業中に起きた。糸は水色、紫色、橙と様々な色をしていた。しばらくその意味を考えて逡巡する。
……………………あぁ、そっか。
同級生同士で繋がった糸を思って納得した。
腐れ縁なら若葉色。恨みを持つ相手なら群青色。尊敬を抱く人なら黄土色といった具合に、その関係性を表しているのだ。
どうして。なんで。私だけ?
最初こそ戸惑いはしたけれど、今となっては意外と面白いものだった。今や私の世界は、人の思いが糸によって可視化される。世の中では「運命の赤い糸」なんて比喩されるけど、実際には地味な臙脂色だ。初めて見たときは哀しかった覚えがある。
愛の色が臙脂色だなんて情緒も夢もない。では、肝心の赤色は何の糸なのか。それは人の生命線だ。この糸が切れたら人は死ぬ。正確には死んだら切れるのか。糸の繋がっている先は未だに確認できていない。もしかしたら死神と繋がっているのかも。なんて、
「馬鹿みたい」
そう思いながら、今日も糸の絡まる街を散歩する。見たことのない色を見つけると期待に胸が膨らむ。萌黄色は何を示すのか。人以外と繋がることもあるのか。糸は日に日に増していった。
さらに不思議なことに私が意識すると、糸に触れることができるのだ。だけど引っ張ってみても別に人が引っ張られるということはなく、ただ糸が伸びていくだけである。こうして糸で遊ぶ光景は他の人にどう見えているのだろう。
そのときだ。かん高い声が聞こえて反射的に目を向ける。
私の嫌いな同級生がいた。クラスの女子何人かと狭い路地で馬鹿騒ぎして、通行人の邪魔になって。あんな奴と関わりたくないと思った。しばらく眺めていると、同級生の小指から臙脂色の糸が伸びていることに気付く。あんなの、少し前にはなかったのに。
ヒマつぶしに彼女から伸びる臙脂色の糸を辿ってみることにした。
辿る。辿る。辿る。辿る。辿った。
「…………あ」
私の好きな男の子だ。小指を見ると確かに臙脂色の糸が繋がっている。そっか。そうなんだ。哀しくなる。私の好きな人は、私の嫌いな人が好きなんだ。糸だらけの街で絡まっては苦しくなる。心臓とは違う部分がずくずくと痛む。
もし、糸を切ってしまえば、二人の関係性も切れるのだろうか。
そんなことしても、私と彼の小指が繋がるはずもないのに。
ふと、私の小指から伸びる赤い糸が見えた。
この生命線を切ってしまえば、こんな苦しみから解放されるのだろうか。彼の小指から伸びる臙脂色の糸と、私の小指から伸びる赤い糸を見比べる。見比べて、化粧ポーチから爪切りを取り出す。
繋がった糸を、私は、少し戸惑ったあとに、切った。
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