第二話:小太郎覚醒
僕の過去をムラマサさんから説明を受けたが、いまいちピンとこない。
今までの記憶が無いのだから当然でもある。
何よりすでに一度死んでいるらしいし、生前は一国の王だったって言われても・・・。
ただムラマサさんが嘘をついているようには一切見えなかった。
言動から本気なのが伝わっていたし、わざわざ1億Gで僕を買うのだからそれだけの理由があるはずだ。
難しい顔で小太郎がひとり考えていると、先ほど奴隷オークションでムラマサさんと競り合っていた大男のガバエルが装備の整った男5人を引き連れて僕の手をつかむ。
「この子はわしが目を付けたペットだ!殺されたくなければ大人しく渡さんか!」
そう言うと小太郎の手を思い切りつかみ連れて行こうとする。
「私の小太郎様から汚い手を離しなさい!この汚らわしい豚!」
激昂し、ムラマサはガバエルの手首に向かって扇子をピシャリと叩き付ける。
するとポトリとガバエルの手首が地面に落ちてしまった。
「ファァァァァ?!てててて、手首がぁぁぁ!」
「あぁ、小太郎様のお手が豚の汁や油で汚れてしまって・・・」
いや、それくらいで手首を飛ばしちゃうのはどうなのかな?!
扇子で叩いただけで手首って落ちるものなのかな?!
妖刀かどうかはわからないが、ムラマサさんが強いのは理解した。
「わしの手ええええええ!」
「黙りなさいこの豚!汚い唾が小太郎様に飛ぶ!首も飛ばされたいのですか!」
怖いよムラマサさん・・・。
こんな街中で首なんて飛ばしたらやばいってば!
はやく止めないと!
「もういいよムラマサさん!これ以上やったらさすがに無事じゃすまないよ!」
「もうお止めになるのですか!?見た目だけじゃなく心までお優しくなられて・・・」
そう言うとムラマサは扇子についた血を布でぬぐい、小太郎の手を引き歩いていく。
「ふざけるな!あいつらを殺せ!殺してしまえ!」
ガバエルが怒声をあげ後ろにいた男5人に命令をする。
皆顔を青くし、なかなか動けずにいる。
「わしの命令が聞けないか愚図共!高い金払ってんだ!聞けないなら全員家族共々ぶち殺すぞ!」
ガバエルは捲くし立てると、男全員がギュっと口を結び襲い掛かってくる。
「はやく逃げよう!ムラマサさん!」
「逃げる?ジオパングの王が逃げるなど言語道断です。いつものように推して参ってくださいませ」
「知らないよそんなの!」
早く逃げないと殺される!
ムラマサさんも一歩も退こうとしないし!
小太郎が手を引いて逃げようとすると、ムラマサが男5人を簡単にあしらいながら指輪に何かを言っている。
「小太郎様。戦ってくださいませ。いつものように可愛らしくも猛々しく咆え勝利してくださいませ」
小太郎の首が絞まり始める。
苦しい?いや死ぬ?
奴隷の指輪でなんか命令されたけど、どちらにしても死ぬ!
「苦しい、ムラマサさん・・・。」
「助かりたければ、いつものように仰ってくださいませ」
なにを言えばいいの?
だから何も覚えていないんだってば・・・。
小太郎の意識が徐々に遠のき、目の前が暗くなりはじめる。
なんか気持ちよくなってきたな。
このまま死ぬのも悪くないような気がする・・・。
「小太郎ちゃんよー、死ぬのも悪くないって勘弁してくれって。ほら、言ってみ?いつもみたいに・・・」
なんだろう?夢?
もう一人の僕?
いつもみたいにって、そんなこと僕言ったことないのだけど・・・。
「いいから、とりあえず言ってみって!死んでも別にいいことねーし、ムラマサ死んじまうぞ?お前のせいで」
え?僕のせい?
ああ、男の僕がどうにかしないと・・・。
守らないと・・・。
「ああ、男なら守らなねーとな。俺はできなかったけど、お前はまだまだこれからだ!たぶん!」
たぶんって。なんと無責任な。
よくわからないけど、もう一人の僕に言われたとおりやるしかない!
「よっしゃ、じゃあ行って来い!」
フッと意識が戻ると首輪の締め付けがなくなり、最初は5人だった男が20人くらいに増えていた。
どうやらムラマサさんが、僕を片手で抱えながら戦っているようだ。
「小太郎様。意識がお戻りになりましたか。もしこのままのようでしたら、このまま小太郎様と一緒に全員食ってしまうかもしれません」
「ムラマサさんが全員倒してくれるなら、それが一番いいのだけど・・・。でももう一人の僕が守れって」
「もう一人の小太郎様?いったいなにを守るのですか?」
「ムラマサさんを僕が守らなくちゃ。」
ムラマサがブルっと体を震わせ、顔を小太郎から背ける。
それじゃあ、言われたとおりにいこう!
えーと・・・。
「我が名は小太郎!推して参る!」
小太郎から優しく可愛らしい雰囲気が失せる。
「小太郎様?!」
ムラマサは小太郎の雰囲気が以前に近づいたのを感じ驚いた表情で声をかける。
「ああ、おまえムラマサ?なんとも美人な姿形になったもんだな!惚れたぞ!」
「・・・」
ムラマサは無言で声を発さず、よりいっそう体を小刻みに震わせ顔を紅潮させる。
「ほれ、こちらに来いよムラマサ」
そういうと小太郎はムラマサを抱きかかえキスをする。
「久しぶりの俺の魔力はどうよ?とりあえずこのままあいつら叩いちまうぞ」
「はい・・・。小太郎様・・・」
ムラマサは黒い霧になり、鋭く光沢の帯びた刀になり小太郎の右手に収まる。
「ほーれ、皆の衆。妖刀に食われたくなけりゃ逃げろよー。こいつは何でもかんでも食っちまうぞ。俺でさえも食うからなこの雑食は」
小太郎は笑いながらガバエルたちに切先を向ける。
「この化け物が!はやく殺せ!こいつを殺せ!」
「あー、めんどくせえな。そんじゃ久しぶりにいくぞー」
気の抜けたやる気のない口調でムラマサを構える。
「いくぞおらあああああ!」
ムラマサを振りぬくと、地面に100mはあろうかという大きな傷跡を残す。
「死にたくけりゃ、はよ逃げろー。次は全員切っちゃうぞー!」
小太郎が言うと、ヒーヒー言いながら全員逃げてしまった。