第五話 こういうのも幸せだね
家族が帰ってくるかもな〜なんて事、その時の俺の念頭からはすっぽ抜けていて、目が覚めた夜9時に慌てた。
「大丈夫。」
柔らかい唇が俺の耳を含み小さな音をたてた。
「兄貴研修で2日間留守だから。」
という事は・・・・、俺の思い過ごし?
「これから一緒にお風呂入ろう。さっぱりしたら軽くつまむ物持ってベッド戻って。朝になったらも一度シャワー浴びて。それから朝ご飯にパンを買いにいくだろう?陽介が目玉焼き作って、私がコーヒーを入れて。あさっての夜まで、陽介の妄想ライブラリーのフルコース、いかない?」
「えっえ、えっ・・・・!」
俺は慌てた。そんな、願ってもいない、朝香に限ってあり得ないようなオファー・・・・
「嫌か?」
さも意地悪そうに彼女が微笑む。んな訳内だろう!!
答えるのももどかしく、俺は彼女を抱きしめていた。
「嬉しくないはずが無いだろう、この、馬鹿!」
あとから思えば、よくこの時の俺は “馬鹿” なんて言えたもんだと思う。
とにかく、舞い上がってしまった俺は、そのままもう一度彼女に愛ってヤツを注ぎ込んだ。
くたくたに啼き疲れ、それでも健気に目を開けようとする彼女のぼんやりとした視線が俺の心をとらえて離さない。
「手ぇつないで買い出しにいこうぜ。」
「うん。」
「飯、一緒に作ろ。」
「うん。」
「エプロンお揃いの有った方が良いよな。」
「うん。」
「今晩カレーにサラダが食いたい。」
「うん。」
「デザートに、お前の体に生クリーム塗っても良い?」
「・・・・うん。」
「キスマーク付けていい?」
「うん。」
指絡め、足絡め、嬉しいでいっぱいの気持ちで俺は彼女を抱きしめた。
「愛してる。」
実のところ、人一倍独占欲が強くて了見の狭い俺。彼女の事を誰かが見ていると気づいた瞬間、ムカつく。
経験だったら断然俺のが上のはずなのに、いつも振りまわせされて、主導権握られ、イライラする。
でもこいつには敵わない。
「惚れた弱みってヤツか。」
俺は彼女の首筋、制服からぎりぎりいっぱい見えてしまう、もちろん彼女には見えない場所にキスマークを落とした。
たちの悪い俺のファンだかなんだか知らない奴らが
“ふさわしくない”
なんてちょっかい出してくる事ぐらい予想つく。そんなのソッコー蹴散らしてやるし。
知った顔の大人が
“強化選手なんだから不順異性行為は、云々”
言って来てこいつに迷惑かかる事ぐらい想定内。大丈夫、俺、お前といたら結果出せるから。
「だからいい加減、諦めろ。」
ってな。
ひみつのひ おわり
ツンデレ?
可愛らしい高校生カップルのお話でした。
この次のタイトルは“妄想ライブラリー”っていかがでしょう。