第四話 俺が誰の事好きか分かってんの?
彼女は家でもジャージだった。そのくせ細い手首ののぞく袖口はがぼがぼで、華奢な体をより繊細にみせていて、どうしようもなく女らしいから憎いと思う。それから指を俺の首の後ろにそっと回し、乱れていた襟を直してくれて。その緩慢な仕草に俺の脈が一気に上昇する。
俺が戸惑うから、彼女がからかうように微笑んでほんの少し体を引いた。つまり、あがって来い、という仕草。
俺は彼女のベットを拝借し、その前で彼女が横座りで見上げている。
俺は阿部氏に劣らず、落ち着かなくなる。
ってか、やっぱ、それ、反則。
眼鏡の上からののぞく長いまつげがわざとらしいほどゆっくりと上下した。
「そういう事だったのか。」
といわれ、何の事かすぐ判る俺。
彼女の物言いは独特で、必要最低限しか話をしない気がする。でもそれは彼女が俺の事を良く知っていて、俺の思考を読んで放つ言葉だから、すべてのつじつまが合う訳で。
「いや、あれは・・・・」
言いよどむ俺の膝に、彼女はころんと頭を寄せた。
「ほら。」
それは彼女らしからぬ言葉。その吐息が俺の指先をかすめた。
「抱きたいだけなのかと聞いているのに。」
そんな事は無い、という言い訳よりも、ごまかす心が先走ってしまって・・・・
「ってお前がさぁ・・・・。」
俺は彼女の肩を掴みむりやり引き上げ、
「お前が俺とつき合ってる事、言うなって言うからだろ?」
って、不満をぶつけていた。しかも言い出すと止まらないし。
「なんで俺ばっか、我慢してる訳?今時中坊でもカレカノ言ってるじゃん。お前の事見るのも駄目って?どうしてこそこそするんだよ。そんなの意味ねぇし。無理だって、そんなの。」
だって俺、お前の事になると、めちゃくちゃになっちまうし。
俺たちがつき合ってるって宣言して、お前の事教室まで迎えにいったり、一緒に昼飯食ったり、手をつないで帰ったり、図書館の隅でいちゃこいたり、見せびらかしたり、おおっぴらに他の奴ら牽制したりしたいし・・・・。
その時、彼女が猫の様にしなやかに俺の膝の上に乗った。
「だから、馬鹿だって。」
いらだつ俺の声と対局の、優しく甘くささやく声。
「言い訳を聞きたいだけなんだけどな。」
その言葉に俺は少し冷静になる。
「・・・・俺がお前の事抱くのは、別にそう言うタイミングで盛りがつくからじゃなくて、単純に、本当、お前の事好きだからで・・・・。・・・・愛してるから、つながりたいって思うからで。他の誰でもいいってもんじゃねぇし、やっぱ、お前じゃなきゃ・・・・」
最後、自分で言ってて恥ずかしくなって、声薄れて。ごまかされているって自覚は有っても、抗うなんてできやしねぇ。チキンな俺。でも、それでも良い事はある。
「その言葉が欲しかった。」
そう言うと彼女は俺の首に両腕を絡め、とびっきり甘いキスをした。
彼女の足の指をかむ。
「うんっ・・・」
声を抑えて身悶える姿が可愛くて、ぞわりと舐め上げる。
「ぁっ!」
ジャージの裾を噛み、とろけそうな彼女を剥き出しにした。ほんの少し、隠すように、誘うように腰をくねらせ、
「すけべ。」
と囁く。そんな彼女に俺は溺れてる。
「そうだよ、すけべだよ。ってか、お前がそうさせるんじゃん。」
すると彼女は満足そうに小さく笑った。
「本当、陽介って馬鹿だ。」
その目が言っていた。きて、と。
つづく
次回最終話です。