第九話「ホラーDVD」
それは、とある土曜日の出来事でした。
「ほら、これ見よ?」
日向は友達から借りたというそのDVDを私の眼前に掲げ、心底楽しそうにそう言った。パッケージにはそれっぽい字体で「見てはいけない」やら「映ってしまった」やら物騒な言葉が書かれていて、どんなジャンルなのかは一目瞭然である。私は眼前に迫った顔の白い女をばこんと殴り付け、ずざざざーと海老のバックステップもかくやと思われるスピードで後退した。日向は飛んで行ったそれを「あーあー」と言いながら拾いに行くと、そのままテレビの方へと歩いて行き、迷わずプレイヤーに突っ込む。そうしてリモコンを操作し、ピ、と再生ボタンが押された。
すかさず、私はテレビのリモコンを奪取しようと日向の背中に飛び付いた。
「うわあああ! 何してんだ! アホか!」
「いや、アホって。あ、こら、暴れないの。ほら、こうやって後ろから抱き締めててあげるからさ」
上手い具合に抱きすくめられながら、その場に無理矢理座らされる私。気付けば、テレビの前で強制的に観賞する形になっていた。
「わ、ちょっと、やだ! やだ!」
「珍しく慌ててるね。そんなに嫌いだったっけ? こういうの」
「大っ嫌いだよ! 小さい頃、一人でトイレ行けなかったの知ってるでしょうが!」
「ああ、そうだっけ」
そうこうしている内に、テレビからは恐怖感を煽るようなおどろおどろしいBGMが流れ始める。どうやら心霊映像特集のようで、東京都某所にある一軒家では夜になると女の子の泣き叫ぶ声が延々とああああああああ!
「そうだ! ご飯作らなきゃ!」
「さっき食べたよ」
「お洗濯!」
「さっきやってたよ」
「うー、買い物!」
「さっき二人で行ってきたよ」
「うわあ! もうやだ! あ、やばい、始まってる! 始まってるって!」
「うわ、こんなにテンションの高い文目って久しぶりだねえ。言っておくけど、観終わるまで離さないよ」
言われて、私は絶望に打ちひしがれた。てれれーてれれれてーれー。
ちくしょう、明日の夕御飯はお前の嫌いなピーマンの炒め物だかんな。覚えとけよ。ついでにトマトとブロッコリーとアスパラガあああああああ!!