第二話「一応は恋人」
大学三回生へと進級したのをきっかけに、付き合って五年の彼女と同棲を始めたわけだけれど、一週間が経過した今もこれと言って目ぼしい変化が見受けられないのはどういった了見だろう。文目も同じようなことを言っていたし、今となってはわざわざ同棲する必要もなかったのかもしれないとさえ思えてくる。とは言え、別に何か大きな変化を期待していたわけじゃないんだけれど。
というか、引っ越しに掛かった費用の八割は文目が負担したし、故に俺の出費としては本当に微々たるものだったわけだから、たとえ後悔しようとしなかろうと大して痛くも痒くもないのだった。
ちなみに家賃から食費に至るまで、殆どの生活費が文目の口座から支払われている。よく誤解されるので初めに断っておくが、それは彼女が自主的且つ自発的にしていることであって、俺が強制強要しているとか弱みを握って脅迫しているとか、そういう事実は断じてない。まあ、ヒモなのは認めるけどね。
けれど、だからと言って他人が構うことはあるまい。彼女は俺が好きだし、俺は彼女が好きなんだから、互いに負担や迷惑を掛けたり、それを補ったりしたところで何の問題があるだろう。ましてや他人の恋路に口を出すなんて言語道断。そんな不届き者は馬に蹴られて死んでしまえ。
ああ、そうそう。文目に対してよく「目を覚ませ」とか「冷静になれ」みたいなことを言う奴が時折いるらしいけれど、いやいや、彼女が好きな人といるために一生懸命頑張っているというのに何を勝手なことを言っているんだろうね。まったくもって許しがたい。
とにかく、俺と彼女は仲睦まじい幸せカップルなのである。たとえ俺が酒もタバコもギャンブルも嗜む最低男でも、呼吸するように浮気する底辺男でも、あまつさえ生活費を負担してくれている彼女に当然のように金を借りるクソ男でも、まあ、一応は恋人同士なんだよなあ。