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四階(強き者)

愛華、視点です。

四階(強き者)


(友気、無事でいて。)


私は薄暗い、階段を登りながら強く願った。私がいた三階の広間には、甲冑を着た死体が二つ。私が部屋に入った時には、二人は既に絶命していた。そして、扉に張ってあった紙を見て、私は一人納得した。二人の戦士はお互いの首に刀を突き刺し、相打ちしたのだ。私は悲惨な状況の中、安堵の息を漏らす。もし、どちらかが生き残っていたのならば、私は確実にその者に殺されていたのだから。

そして、一つの絶望的な考えが頭をよぎった。全員が同じ仕掛けの部屋に入ったのならば、友気が生き残れる可能性はとても低い。私はその事について、出来るだけ考えない様にしていたのだが、嫌な予感は頭から離れなかった。階段を登りきると、そこはそのまま、次の階の広間になっていた。私が四階の床に足をかけると、音も無く階段になっていた部分が消え、周りと同じ、ただの床になった。四階は一つの大きな広場になっていて、壁には不気味な絵が沢山書かれていた。竜、魔女、ピエロ等の化け物が人間を食べたり、調理している絵だ。私はその悪趣味な絵から目を背けて、ここにいる人の数を確認する。


(そんな、100人もいないわ。)


それは大体、前の階にいた人数の三分の一。嫌な予感は深まる。


「愛華!無事か!」


良男さんが声をあげ、こちらに走り寄って来た。


「良男さん!友気っ。友気は!?」


私の問いに、良男さんは顔を俯ける。


「まだ、見ていないよ。無事だといいんだが。」


「きゃ!」


私は急に身体の支えを失った事に驚き、短い悲鳴をあげた。今まで、私の体重を支えていた、床だった部分が消え去り、下の階に続く階段が出現したのだ。私はその階段の一番上の段に落ちたのだ。


「えぐっ。ひっく。」


そこから、えずきながら上がって来る一人の少年。私はその顔を見て満面の笑みを浮かべた。


「友気!良かった〜。」


友気は私の声に気付き、慌てて涙を拭った。


「愛華。良男さん。無事で良かったです。また三人で頑張りましょう!」


友気の妙に明るい声に、私をまた不安が襲う。


(何かあったんだ。とても辛い何かが。)


「ねぇ、友気?下の階で…。」


「ひゃ〜ひゃっひゃ!」


甲高い声に私達は驚き、声のする方向に、部屋の中央に目を向けた。


(なっ!)


私は反射的に目を逸らし、隣の少年を確認した。部屋の中心には、友気が…。友気の姿をした化け物が立っていた。


「ギャーー!」


友気はその化け物を見て絶叫する。無理もない、その化け物は首から上が無く、本来そこに有るべき物を片手で抱えていたのだ。


首と、抱えている頭からはドクドクと血が溢れ出ている。


「みんな〜。ゲームを始めるよ〜。」


その声は姿に似合わず、明るい口調だった。


「この醜い妖怪め!!」


化け物のすぐ近くに立っていた甲冑姿の男が、勢いよく槍を突き出す。その槍はそのまま、化け物の胸に深々と突き刺さった。


「ウギャー!…なんちゃって。ひひ。」


化け物は片腕を大きく振り回し、叫び声をあげたのだが、腕の中の顔は、直ぐに笑みを浮かべ始めた。


「ゲームを邪魔する奴は、お仕置きだぁ〜。」


化け物がそう言った直後に、男はまるで吊っていた糸が切れたかの様に、床に崩れ落ちた。


「僕を攻撃したらこうなるからね〜。」


「ゴキャ!バキ!バキ」


「ひゃははぁ〜!」


化け物は、男の頭を兜ごと何度も踏み潰した。まるで、無邪気な子供が水溜まりで遊んでいるかの様に何度も、…何度も。


その恐ろしい光景を止めようとする者は誰もいなかった。

友気は私のすぐ隣で涙を流している。

その涙が男を哀れんでの物なのか、自分の姿をした者が胸に穴を開けられた事によるショックなのかは分からない。


「クソ。どうする。」


良男さんが目を背けて、弱々しく小さな声で呟いた。強く逞しい印象を持っていた良男さんの意外な態度に、私は少し驚いていた。


「このまま、全員殺しても公平なゲームとは言えないから、みんなにヒントをあげるね。」


化け物は友気と全く同じ声で、楽しそうに言った。


「みんなが無事に上の階に行く方法。それは…僕を消す事さぁ。ヒャハヒャハ。意味、分かるかなぁ?」


(消す?殺すのとは違うの?)


「じゃあ早速。…○×たいかぁ〜い!イェーイ!」


そう言って化け物が指を鳴らすと、地面に大きく○と×の記号が表れた。

みんなのざわめきが聞こえる。


「第一問!この塔は八階建てである!さぁ、○か×かどっち!?」


「取り敢えず従うしかなさそうだね。この塔は確か…。」


涙を拭いながら友気が言う。


「七階よ。答えは×。」


友気の言葉を私が途中で引き継いだ。


「よし×だな!行こう。」


「ズゴーン!!」


爆音と共に、×印の近くに黒煙が舞い上がった。


「あ〜。忘れてた。ヒャハ。この部屋には、いろんな罠があるから気を付けてね。後、制限時間は一分だから〜。あ〜楽しい!!」


(いかれてる。)


全員の動きが止まった。黒煙が晴れると、粉々になった甲冑の破片が散らばっているのが見えた。全員が罠に恐怖している。


「うわぁー!」


女性の甲高い声が聞こえた。この緊張に耐えられなくなったのであろう。あろう事か、刀を構えて化け物に突撃していった。


「ヒュン!」


何処から飛んできたのか。一本の矢が女性の兜を貫通し、中身の頭蓋に深々と突き刺さった。女性はうつ伏せに倒れ、ビクビクと痙攣している。

そんな事は気にも止めずに、化け物は自分の頭をバスケットボールの様に、人差し指の上で回しながら言った。


「どうしたの?後20秒しかないよん。一問目で全滅かなぁ〜。」


「一か八かだな。行くぞ。」


良男さんの声と同時に、私達三人は一斉に走り出した。遅れて、周りの人間も走り出す。


「ギャ!」「ぐぅ。」


誰かの声が聞こえたが、立ち止まっている暇は無い。私は生きた心地がしなかった。


「はぁはぁ。やった!」


私が最後に×印に辿り着くと、友気が呼吸を整えながら言った。


(ふぅ…。)


「はい、時間切れ〜。この塔は七階建てだよ〜ん。○を選んだ人、残念でした〜。…あれ?みんな正解かぁ〜。凄いじゃん。」


生首は、笑顔で楽しそうに言った。そして口調が変わる。


「○も×も選ばなかった奴。おまえらみたいな奴がいるから、俺は退屈するんだ。」


その言葉は、ゲーム開始から微動だにしていない者達に向けられた。その数は、10人はいるだろうか。死への恐怖から動けなかったのだろう。


「死ね。」


化け物が低い声を出したと同時に、動けなかった者達の首が地面に落ちる。それも、全員同時にだ。私には奴が何をしたのか理解出来なかった。


「気を取り直して、次のもんだぁ〜い。」


化け物が先程とは違う、明るい口調で言うと、地面の記号が消え、少し離れた位置にもう一度、出現した。


「こんな事続けてたら、みんな死んじゃうよ。」

友気が弱々しく呟いた。


「話には聞いていたが、ここまでとは!」


(…え?)


「良男さん、あの化け物の事を知っているの?」


「ああ、紛れもない、あの二本の角「第二問!」


良男さんの言葉は、嫌に明るい声で遮られた。


「この塔に来た、みんなの目的はお姫様を救う事!さぁ○か×か!?」


(二本の角?なんの話?)


私は良男さんの言葉に疑問を抱いた。何処からどう見ても、友気の姿をした化け物に角なんて物は見当たらない。


「この変態ヤロー!」


私の傍にいた女性が怒号を発する。


(変態?それも違う。何かおかしいしいわ。)


「愛華、行こう。時間が無いよ。」



友気は考えていた私の腕を掴み、強引に走り始めた。良男さんは既に先を走っている。私は一旦、考える事を辞めて、友気に従う事にした。


(後、少し。)


「カチッ」


○印まで後一メートルといった所で、足元から嫌な音が聞こえた。


「…嫌。」


私の周りに、数十本のナイフが出現した。ナイフは刃を全て私の方に向け、宙に浮いている。


「キャハハ。死ぃ〜ね。!」


「愛華!」


化け物と同じ声をした少年が、私の上に覆い被さる。


「僕が守るんだ。お姉さんを思い出すんだ!」


言葉の後半の意味は理解出来なかったが、何やら自分に言い聞かている様だった。


「ダメ!どいて!」


「嫌だ!絶対どかない!こんな物、怖くなんかないんだ!」


私の言葉に友気は耳を貸さない。


「カラン。カラカラ。カラン。」


それは、私の周りにナイフが落下した音だった。ナイフは重力に従い、微動だにしない。どうやら、助かったらしい。


(どうして?)


「友気、ありがとう。急ぎましょう。」


「…うん。」


友気は、自分が何一つ怪我を負っていない事に驚いている様子だった。そして、疑問は残るが、私達二人は無事に○印の上に立つ事が出来た。


そんな私達の様子を、首だけの友気は、鬼の様な形相で睨み付けていた。


少し分かった気がする。奴が殺すと言う言葉を使わずに、消すと言う言葉を使った意味。みんなの、奴を呼ぶ言葉が理解出来なかった意味が。


「友気…。友気はあの化け物がどんな風に見える?」


「え?…。」


私の問いに、困った顔をして、友気は黙ってしまった。


「言って。あいつを消せるかもしれないわ。」


私の発言に友気は驚き、少し考えてから応えた。


「愛華が…。愛華の首「ありがとう。」


そこまで聞けば十分だった。そして、そのお礼の言葉は心から出た言葉だった。


「そこ!おまえは無駄話禁止だ!次、喋ったら殺すぞ!」


化け物が私を指差して言った。私はその言葉を無視する。


「友気、良男さん。その場から動かないでね。…奴を消してくるわ。」


私の強い、意志の籠もった言葉に、二人は黙って頷く。私は二人に笑顔を見せてから、化け物の方に向き直り、ゆっくりと歩きだした。


「いいよ。殺してやる。もっと近づいて来い!」


(大丈夫。気持ちで圧倒されてはダメ…強い心を持つんだ。)


「ヒッヒッヒ。おまえは一番、痛い思いをさせてから殺してやる。ヒッヒッヒ。」


「…黙りなさい。」


私の言葉に、友気の顔をしたそれの笑顔が消えた。私は化け物の目の前に立ち、話を始める。


「あなたは私が最も見たくない者。私が最も恐れている者。」


「五月蝿い!もういい!あっちに行け!ダマレ!」


化け物は明らかに動揺していた。


私は構わずに話を続ける。


「あなたは私の恐怖そのもの。あなたを消すには、私が自分の恐怖を乗り越えなければならない。」


「ムリダ!オマエニハムリダ!」


化け物の声は私には届かない。


「あなたの姿を今後、私が見る事は絶対に無いわ。さっき友気に守られて確信したの。私は友気が大好き。…自分の身を犠牲にしても守りたいぐらいにね。だから、友気が死ぬ前に私は必ず死ぬ。私は友気の死体を見る事は無いの。あなたは、私の人生では有り得ない存在なのよ。」


「ヤメテヤメテヤメテヤメテヤメテ…。」


「消えなさい。」


私の言葉と同時に、その不快な生き物は姿を消した。



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