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三階(暗黙の了解)

三階(暗黙の了解)


竜は叫び声をあげると、長い身体を地面に預け、動かなくなった。

次の瞬間、このフロアの壁に、数多くの扉が出現した。


「友気!」


愛華が友気に走り寄る。顔には笑顔がこぼれていた。それに対して、友気も震える足で立ち上がり、苦笑いを返す。


「ドキドキしたー。怖かったよ。」


「次だ!急ぐぞ!」


誰かが叫ぶと同時に、人々が次々と壁の扉に向かって走っていく。


「見直したぞ!若き戦士よ。礼を言う。」


良男が友気に言うと、友気はとても嬉しそうな表情を浮かべた。


「しかし、休んでいる暇はないぞ。我々も次に向かおう。」


「そうね。早くお姫様を助けないと。」


「でも、扉が沢山あって、どれが正解かわかんないよ。」


友気の意見は、最もなものだ。軽々しく進んで、罠にでも掛かったらたまった物ではない。


「取り敢えず、一番近い扉に向かいましょう。」


愛華が歩き始めると、それに二人が続く。


扉に近づいた所で、誰かが叫んだ。


「起きた!竜が起きたぞ!」


「グゴォー!」


竜は身体を起こし、手始めに、一番身近にいた者を噛み砕く。


「考えている暇は無いな。」


良男の言葉を合図に、愛華が走り出した。


「友気も!早く!」


扉の脇で愛華が叫ぶと、友気は驚いた様に走り出し、扉に飛び込む。


続いて愛華が扉に入ろうとするが、そこにそれはない。


「え?なんで?」


愛華の驚きの声に、良男は冷静に応える。


「一人しか入れないのか。我々も他の扉に急ごう。」


二人は二手に別れて、壁に沿って走り始めた。


「愛華?良男さん?…嘘。」


友気の振り返った先には扉は無く、ただ、冷たいコンクリートの壁が佇んでいた。


「…進むしかない。頑張らなくちゃ。」


友気は自分に言い聞かせる様に言い、歩き始めた。細い通路の先には、上に登る階段があった。友気は重い足取りで、それを一段ずつ登っていく。登った先には、少し開けた、薄暗い二十畳程の空間があった。そこには既に、二人の甲冑を着た者がいる。


「あらまぁ、まだ子供じゃない。」


「ふぉっふぉっふぉ。可愛い戦士じゃ。」


声を聞く限り、一人は若い女性で、もう一人は老人であろう。このフロアの壁には、友気が入って来た扉を除いて、三つの扉がある。その内、二つは開き放しであり、それは二人が入って来た事を示していた。残りの一つは重そうな鉄の扉で、何やら紙が一枚張ってある。友気の位置からは、そこに何が書いてあるのかを見る事は出来ない。


「あ〜あ。私もまだ若いんだけどな〜。」


「残念じゃが、仕方ないの。」


友気は二人の会話に困惑している。


「あの〜。何の話ですか?その扉、開かないんですか?」


甲冑の二人は顔を見合わせ、笑い声をあげた。


「僕?好きな子いる?」


若い女性が友気に問い掛ける。急な問い掛けに、友気は少し戸惑ったが、愛華の顔を思い浮かべた。


「え?…はい。それがなんですか?」


友気の困惑は深まる。


「それだけ聞けば十分だわ。私はいないのよ。友達もいない。自分だけの寂しい人間よ。」


悲しそうに呟く女性に、友気は真っ直ぐな瞳で応える。


「でも、命懸けでお姫様を助けに来たんですよね?それって凄い事ですよ。だから…えーと、もし良かったら、僕と友達になろうよ。」


友気の提案に、女性はまたしても笑い声をあげる。


「はっはっ。ありがとう。宜しくね。」


友気は笑い声をあげた女性を見て安心した。


「はい。宜しくお願いします。僕は友気。お姉さんは?」


そこで女性の動きが止まった。兜の下の表情が分からない事が、妙に不気味に感じられる。


「爺さん。私、もう行くね。僕?本当にありがとう。その真っ直ぐな気持ち、忘れないでね。」


そう言い残し、女性は自分が入ってきた扉に消えていった。心なしか、声が震えている気がした。


「坊やは優しい子だね。儂みたいな爺さんには、その優しさが堪えるわい。」


老人の優しい声に、友気は疑問をぶつける。


「女の人は何処に行ったんですか?」


しかし、老人はその質問に応えない。


「儂が坊やにしてあげられる事は何かの〜。坊や。何か困っている事は無いかい?」


友気は少し考えると、自分で思う短所を告げた。


「僕…。男の癖に勇気が無いんです。泣き虫だし。」


それに対し、老人は優しい声で堪える。


「ふぉっふぉっふぉ。勇気は持っているじゃないか。竜に文句を言った姿はかっこよかったぞい。その辺の戦士よりよっぽど勇気があるわい。」


友気は俯く。


「…でも。なんかあの時は必死で。」


「仲間の為に、じゃろ?坊やは一番大切な物をしっかり持っておるよ。それでも、もし、圧倒的な恐怖に、勇気が出なくなった時は…。」


「…時は?」


老人は少し間を置いて、静かに応えた。


「先程、出来た友達を思い出しておくれ。」


「…どうしてですか?思い出さなくても、すぐに会えますよ?そこの階段を降りればいるんですよね?」


老人は、わざとらしく話を変えた。


「坊や。この薬を大切にとっておきなさい。」


老人は懐から小さな小瓶を取り出し、友気に渡した。


「それは、どんな傷でも治してくれる、回復薬じゃ。ピンチの時までとっておくんじゃよ。」


「はい。ありがとうございます。でも、いいんですか?」


「ふぉっふぉっふぉ。子供が大人に気を使うもんじゃないぞ。さて、」


老人は優しい口調を変え、真剣に言った。


「最後に一つだけ約束しておくれ。」


「はい。なんですか?」


友気は老人の口調から妙な緊張を感じ取り、身を引き締めた。


「儂はこれから元来た道を引き返すが、坊やはこのまま、ここで待っていておくれ。暫くすれば鉄の扉が開く筈じゃから、それまでじっとしておるんじゃよ。」


一人になると分かった瞬間、友気は大きな不安にかられた。


「で、でも「坊やは勇気のある子じゃ。自分に自信を持ちなさい。」


(そうだ。僕は勇気があるんだ。頑張らなくちゃ。)


友気が無言で強く頷くと、老人は兜を脱ぎ、柔和な、優しい笑顔を見せて立ち去って行った。


友気は一人になると、不安と恐怖に押し潰されそうになったが、老人の言葉を思い出し、必死に堪えた。


五分ぐらい経っただろうか。


「ガタン。ゴゴゴ…。」


重い音を立てながら、鉄の扉がゆっくりと開いた。友気はその音に驚き、軽く飛び跳ねる


しかし、友気は扉に近付こうとはしない。


(二人共遅いなー。扉開いたのに。)


それから十分程待ったが、状況の変化は無かった。友気は痺れを切らし、扉に歩みよると、扉に貼ってあった紙を手に取った。


それを見て絶句する。紙にはこう書いてあった。


[この扉を開ける方法は一つ。三人で殺し合い、一人が生き残った時点でこの扉は開く。]



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