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~下校中~

「うん、君は笑っている方が可愛いよ」


「えっ、えぇぇ!?」


 あ、やば、声に出てた。

 彼女の肩は一度ぴくりと反応し、先程のかん高い声を上げた。

 うぅ、周囲からの『またか……』+『なにごとだ?』という視線がイタイ。

 すっかりと忘れていたけれど、ここは天下の往来であって決してふたりの恋の花園ではない。

 いや、別に付き合っているわけでもないのだけれど……


「きゃ! きゃわいくなんかないですよ! 全く、これっぽっちも、全然!」


 すでに興奮しているご様子で『可愛い』が『きゃわいい』と発音していて……

 ああ! この人はホントに可愛いな!!

 だからといって心の中で彼女に可愛いコールを連発していても事態は収束しそうにない。

 早急に手をうつ必要がある。


「キモかった……?」


「もう! めちゃくちゃキモ~ですよ!」


 あぅ、彼女の一声はどんな鋭い刃物よりもぐさっときましたよ。

 キモいか。こうもはっきりと言われるとなかなかどうして辛いもんだな。

 悲しいな。寂しいな。悲劇だな。惨劇だな。

 きっと否定してくれるだろうという淡い希望的観測をフラグブレイカーのごとくグシャ☆ とつぶしてくださったのだから、その疲労ダメージも生半可なものではない。

 少しずつ青春男プラスに腰を降ろそうとしていた指数ポイント原点ゼロを通り越して過負荷マイナスにヘッドスライディングしてそのまま地面に突き刺さった感じだよ。


「あ、や、ウソウソ! キモくないですよ、よく見ると……」


 彼女は自分が発した言葉の意味を理解したらしく、すかさずフォローに入る、


「ちゃんと見ないとキモいのか俺は……」


 が、コウカはイマヒトツのようだ。

 それよりなに? 俺は普段、キモいヤツって見られているの?

 その事実は出来ることならば知りたくなかったな……

 もしかしたらクラスの大半の人からも思われているのかなぁ。


「いやいやいやいや、そういう意味で言ったのではなく……」


「どういう意味で言ったの……?」


「…………」

「…………」ふたりの視線は交錯するけれども、おもいはまじわることはない。


「ここは仕切り直しとしませんか?」


「そげですな。しきり直すとしよう」


 眼を閉じて深呼吸。負荷く息を……訂正。深く息を吐く。

 肺を満たしていた空気が無理矢理追い出されることに文句を上げるかのように喉元でひゅるひゅると音を立てた。

 まだ乾燥している外気は俺の身体にとってあまりよろしくないらしい。


「では……」


 彼女が話し始めるようなので俺は眼を開いた。と言っても片眼だけどね。

 彼女は意を決したように眼をはっきりと開け、俺を真直に捉える。


「では一緒に帰りませんか? 白ちゃん」


「そげですな」


 たったこの一言のためにグラウンド三周分くらいの遠回りしているのは青春に含まれるのだろうか? いや、なんないよね……


「それでね白ちゃん、友達から聞いた話なんだけど、この町に吸血鬼がいるらいしよ」


「は?」


 一体全体突然なんなのですか?

 まてまて、今時、吸血鬼ですか?

 スマフォが浸透したこのご時世に?

 首をかしげてみるけれど意味はない。

 彼女はポッケからスマホォを取り出す。

 文明の利器が次々に開発されている昨今?

 一体なにが『それでね』かも分からないし。


「最近、SNSソーシャル・ネットワーク・サービスの書き込みで多いみたい。

 ここら一帯の高校生によるwixiウィキシィでの書き込みが爆発的に増えているみたいだよ。

 それも、女子の間だけに」


 彼女は高速でスマホォの画面をタッチしている。

 彼女の指先は凄く速く動いている。

 ……いや、いくらなんでも速過ぎるだろ!


「見間違いなんていうオチがあるんじゃないのかい?

 ただの金髪の人だとか……

 こんな田舎だから髪を染めている人が珍しいだけとか。

 もしそうだとしたら軽くくなぁ」


 小説の主人公みたいに吸血鬼に出遭ってたまるものですか。

 『出逢う』ではなく『出遭う』という部分がミソ。

 『引く』ではなく『曳く』という部分がミソ。


「う~ん、そうだといいんだけどね。それも書き込みによると、いつも∀didasの紺色の帽子をかぶっていて。

 つばのせいで顔はよく見えないのだけど、うなじ辺りからは金色の髪の毛がはみ出ていて。

 髪の毛からは砂金のような粒子みたいなものがきらきらと神々しく輝き瞬いているらしいんだよね。

 粒子が」


 そう言いながら、彼女はゆっくりと俺に視線を戻す。


「…………」

「…………」


「えっ? なに、俺?」


 おいおい俺のことを吸血鬼呼ばわりかい……傷つくわぁ。


「や! 別に白ちゃんのことではないんだけど、粒子が舞うのは普通の人じゃ真似出来ない芸当だよね」


 そもそも普通の人の髪の毛からは粒子なんてものは出ません。

 なにそれ? フケ?


「君はどう思うんだい? やっぱり吸血鬼が存在ると思う?」


「う~ん、やっぱり勘違いだと思うんだけどねぇ」


 そう言っている間も彼女はじっと俺のことを眺めていた。そういわれてみれば、俺の帽子は∀didasで紺色だ。


「他に特徴とかって書かれているかい?」


「特……徴……。う~んとね、背は175cm以上の比較的高め」


 背の低い吸血鬼さんはちょっと想像出来ない。

 なにそれ、子どもですか?


「さっきも言ったけど、∀didasの帽子を常時着用」


 吸血鬼さんは身嗜みだしなみにもお気をつかうようで。


「昼間に多く見かける。また、夜間の場合、望遠鏡から太陽を眺めてしまったかのように眼を痛めてしまうくらいに輝いていて、無意識に無作為に無秩序に……それこそ夜空に散らばる星々のように光を放ち、視た人を魅せてしまう……みたい」


 最近の吸血鬼さんは昼夜を問わないご様子で。

 それより夜に発光するな。ご近所に迷惑だろうが。


「そして、うちらの高校の学ランを着ている」


 ちょっと待て。


「はだの色は白い、というよりは……」


「いやいやいや! 今、めちゃくちゃ目立つ情報言ったよね!」


「あ、やっぱり! はだの色のこと~?」


 そこじゃねぇよ。

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