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~君との会話~

『ヴァンプ!!』という作品がすでにありましたので

『ノスフェラトゥとヴェアヴォルフ』に変更しました。

2012/06/08 一部設定を変更しました。

『その赤子はこの世に産まれ落ちるのと同時に息を引きとろうとしていて、いまだに産声を上げていない。父親は悲しみのあまり呆然としていた。母親はまだ名前のない赤子を呼んだ。


(ねぇ! 返事をして……!)


 母親は必死に呼び続けた。汗のせいで髪は肌にぺったりとくっついている。母親は息もきれぎれになっていてついさっきまでの凄絶な頑張りを物語っている。しかし、赤子は泣かない。

 その場にいた全ての人間は、深く、悲しんだ。

 ふと、寒気を感じた。冷気なのか霊気なのかは分からない。ただの気のせいかもしれない。


 どんっ!


 それは、突然のことだった。扉は無理矢理こじ開けられるようにいきなりふきとんだ。黒服を着た長身が乱入してきた。そいつは滑らかに流れるように動き母親のそばに近づいた。そして赤子を乱暴に抱き上げ、小さな身体に刃物を押し当てた。ゆっくりと、だが確実に体内へと進行していくそのやいば。通り抜けるように刃は肉の間を縫う。

 溢れ出るな粘性のある液体は真っ白の肌に不気味な模様をつくる。レイピアのようなその短剣は、やがて、赤子の心臓に辿り着いた。


どぐっ、どぐぐっ。


 母親のモノであった朱と、赤子の体内から溢れ出る紅。ふたつは決して混ざり合うことはなく、ただ、落ちて、床をぬらりと照らしていた。

 その場にいる誰もが動けなかった。なにが起きているのか理解出来なかった。思考が停止していた。その中でただひとり、へとへとに疲弊しきっている母親だけが強く、長身のことを睨んでいた。



 なぁに、心配することは・ない。この私がいただいてやるのだから。



 そう言うと長身は赤子にかぶりついた。鋭い犬歯が肉を裂き骨を砕く。立ち会っていた看護士のひとりが絶叫した。つんざくような叫び声。耳に響く。耳障りな音だ。

 長身の口元は赤子の紅色に染まっていた。一度、にひぃーっと背筋が凍りつきそうな不敵な笑みを浮かべ、母親の手許に赤子を戻した。

 母親はいまだに睨んでいたが、赤子の泣き声を感じとると長身の存在を忘れてしまった。そう、赤子は泣きだしたのである。息をし始めたのである! 母親は赤子についた傷を確かめようとしたが、そこにはきれいな肌だけが健在していた。傷の『き』の字も見当たらない。あるのは母親の赤だけ。

 ふと誰かが真っ黒な姿の長身を確認しようとしたが、そこにはなにもなかった』





「っていう夢をみたんだ」


「へぇー、白ちゃんはいつも面白い話しをしてくれるね。で、今回のは一体なんのアレンジなんだい? 推測するに吸血鬼モノだね?」


「う~ん、いやだから今回のは俺のアレンジじゃなくて、オリジナルなんだよ。夢でみた内容をそのまま言葉にしてみたんだ。……俺も吸血鬼の話だと思うんだけど、この夢は小さい頃から何度もみているんだ」


「いつもの神話や昔話、伝承のアレンジとは違うのかい? ふ~ん、なんだろうね。……夢っていうのはさ、記憶の整理とも言われているじゃん? もしかしたら白ちゃんはさ、吸血鬼に襲われたことがあるんじゃないの~?」


 そう言いながら彼女は目をいやらしく細め、口を歪めた。ニヤーッ、ていう効果音がこれほどなまでに似合う表情はなかなかないだろう。


「おいおい、それはないぜ? だって赤子の話だぞ。いくらなんでも赤ちゃんの頃なんて憶えちゃいないぞ」


「まぁそうなんだけど……白ちゃんはなんだか吸血鬼っぽいしょ? キラキラと金粉のような粒子を周囲に振り撒いているその金髪。日焼けなんて言葉を知らないようなその白く美しい真っ白な肌、日焼け対策の賜物たまものだねぇ。そして、いつもグラサン+《プラス》眼帯しているから分からないけど、隠している方の眼は『紅色』でしょ? なんだっけ、その病気? みたいのおかげで日中はあまり活発に活動していない辺りもさらに」


 目を閉じながら解決編の名探偵さながらの勢いで言葉を紡ぎ、そして一度、区切りをつける。息をスーッ、と吸い込み、


「白ちゃん、キャラ詰め込み過ぎでしょ!」


 いきなりキレた。

 いきなりキレられた。


「そんなこと言われましても……。だけどさ俺が吸血鬼の訳ないじゃん。前にも話しただろう? 俺はただの先祖返りだって。ちょっとばかし見た目が人と違うだけで中身はなんら変わらないんだぜって。それにこっちの眼も金色だぜ?」


 俺は眼帯のつけている右眼をとんとんと、つつく。風呂の時は流石に外すけれど、普段はこいつのお世話になっている。


「ちょいとばかし右眼の出来が悪くてね、直射日光とか車のライトとか、そういった強い光は眼に良くない。ひどい時は吐き気を催してしまうよ」


「それにしても、やっぱり白ちゃんはキレイだよね~」


 彼女はゆっくりと腕を伸ばして俺の頬を撫でる。真直まっすぐに見詰められて身動きがとれない。


「や、やめろよ! 恥ずかしぃ」


 声がだんだんと小さくなってしまう自分がなさけない。


「いいのいいの~。白ちゃんは良い子ぉ~」


 そしてそのまま俺の頭を撫で始める彼女。


「あ~ぁ、良~いなぁ~。白ちゃんは~」

「い、いや! 君だってすごくきれいだよ! 真っ黒な髪や瞳だって俺からすればすごくうらやましいんだぜ!? うん! 君はとてもきれいなのだよ!!」

「……なに言ってやがりますかこいつは……!」


 顔を赤くしてうつむく二人。そして気付く。周囲からは『またやってるよコイツら』みたいに見られている。


 二人してあわあわと慌てて話題を変える。


「そ! そろそろ休み時間も終わるね!」

「う、うん! そうだね! じゃあちょっとトイレにでも行ってくるよ!」

「行ってらっしゃい!」


 俺は素早く音を立てないように席から立ち上がり、廊下へ出た。

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