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〜あぁ今宵の星空は綺麗だな〜

 この経験は罪による罰なのだとしても、誰かによる応援(エール)なのだとしても、俺を立ち止まらせることなく思考を続けさせることとなった。


「そう……ですか。そうですね」


 だが、今は何を思っても無駄であろう。


 空を見上げれば満天の星。こんなに星が瞬く夜なら、願い事の一つや二つ叶ってくれそうな気がする、なんて。


「先生、今宵の空は美しいですね。まるで描かれた絵のようですよ」


 俺の言葉につられてなのか、先生も空を見上げる。


満月(フルムーン)だね、満月。それに星が瞬いている。うん、確かに今日の夜空は綺麗だね」


 星空の下、女性と二人。なんだかそれは、とても魅力的でロマンチックな感じがするかもしれない。お相手が先生でさえなければ。


 そもそも、物語の方向そのものが違うだろうに。これは誰も幸せになることのない残酷な話なんだからさ。


「さて、無意味な言葉の応酬をしたところでもう飽き飽きだろうし、どうだいサッサと終わりにしないかな」


 そうだろう。俺も消えて先生も消えて、それでお終い。どちらかが生き残る……なんて救いのあるお話にならないし。


「はい、終わりにしましょう」


 俺は一歩、また一歩を踏み出す。ダンダンと高鳴る鼓動。ダンダンと狭ま る距離。


 相対対面対峙対向。そのような状況だろうな。俺は先生と肉薄して……接触する刹那。


 拳を全力で叩き込んだ。右腕に影を纏わせて。ただ堅くさながら鈍器のようにさせて。振り抜いた。同時に、殴られてもいた。俺と同様の攻撃方法で、同じ個所に狙いを定めて。


 衝撃に耐えきれず、思い切りガクンと。ごきりと鈍い音を立てて、頭が傾く。頚の肉が裂け血が噴き出す。


 同様に左腕でも殴りつける。それが終わると次は右腕で。次は左腕。右腕。左、右、……。


 どれくらい拳の応酬をしたのか分からなくなるほど、感覚が麻痺してきた。


 いきなり、頭に踵落としを喰らった。びきびきと頭蓋骨に罅が入ったかのような音。


 ここで怯んでしまえば、一方的に蹂躙されるだけでしかない。再度、攻撃を。鋭い貫きを。


 左腕に収束する闇。螺旋を描きながら纏わり憑こうとする。しゅるるると音を立てて凝縮する。


 カチリと、頭の中で音が鳴り左腕から突きが放たれる。ツキハナサレル。槍のように。弓矢のように。


 あと少し。先生の柔肌に穴を穿つ寸前、腹部に痛みが感じる。ごぽりと、口から漏れる粘土の高い液体。口元を伝い、先生の腕へと垂れるであろう。だが、それを確認することはない。


 眼を逸らさない。逃げない為に。見据える為に。


 そのまま、左腕は加速を続け、先生の色素の薄い、色白の肌へ風穴を開けた。影はぎゅるると呻りを上げる。


 視線が交錯する。先生の眼には人を馬鹿にする感じが含まれている。未だに自分が勝つことを信じ、傲っているに違いない。


 吠え面かきやがれ。


 今、俺と先生は左腕を通じ、繋がっている。物理的にも、精神的にも。こんなにも簡単に他者を理解出来るのであれば、人間関係はもっと楽なものになるだろうに。


 と思ったが、そもそも、俺達は人間ではなかったや……俺は影で先生は人造人間。ま、そのようなことは瑣末な問題か。




 右腕から手刀を繰り出し、先生の腕をぶった切る。そして、左腕から影……魂……を解き放つ。急いで左腕を引き抜き、ヤクザキックでぶっ飛ばす。


 これで準備は完了だ。あとは皆が引き継いでくれる。その時が来るまで耐え続ければいい。


 先生は土埃を起こしながら地面を転がる。




 腹に突き刺さっている腕の構造を理解し分解する。俺の身体の一部として再構築させる。


 自然と怪我が回復し始める。これは吸血鬼の能力だろうか。痣とかが消える。折れた骨が治る。完全な状態へと回帰する。


 どうせ先生も同じように怪我はなくなっているのだろう……俺と同期したことによって、俺の能力を奪って。


 だが、先生の中に俺、いや、俺達が居る。そのことによって、最早、先生の……俺のか……能力は通常通りに機能しないはずだ。


 違うか。俺の能力でもない。これは仮初めの力。偶然によって手に入れた他人の力。それを我が物顔で使っているだけなのかもな。


 今、この話は関係ないか。



 もうもうと立ち籠める土煙。その中にうっすらと浮かぶ黒いシルエット。きっと先生だろう。というよりか、それ以外考えられない。


 臨戦体制になる。全身に影を纏わせる。ライダースーツのような、肌にぴったりとフィットするように。


 突撃しようと踏み込んだ瞬間、足に激痛が走る。見下ろすと、足首より先が串刺しになっていた。


 先生の影によって。



……早く終わらないかな。

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