~おいおい、堪忍してくれよ~
…………○
俺と先生の境目がなくなった時、俺は先生と繋がっていた。表面的なものなんかじゃなく、もっと根元的なところでリンクしていた。
先生は如何して造られて、如何して完全なる生物になろうとしているのかが分かった。それは、全ての生物がひとつとなる「原点回帰」という裏秘密結社……いきなり厨二病的展開になったな……の理念。
人が争うこともなく怒りや憎しみ悲しることのない未来。辛いことも嫌なことも死ぬことさえもない世界。悠久に永遠を漂い、皆が皆を愛し合える予想図。遥か遠い未来の理想郷。
だが、例えそれが世界の選択であったとしても俺は抗う。
人は死ぬ。その悲しみを以て理解するモノがある。
人は疵つく。その痛みを以て初めて人に優しくなれる。
人はそうやってマイナスの出来事をプラスへと変換出来る術を知っている。
だからこそ、生物淘汰のような、そんな補完計画じみたことはやめさせないといけない。原点回帰のことなんて知ったこっちゃない。お年寄りは大人しく若者の選択をどっしりと見守ってやれ。
人造人間なんて造ってないでさ。
もっとやるべきことがあるだろうに。
…………○
俺は影から世界を眺めていた。おそらく俺のであろう脚が先生のお腹の中へもぐり込んで逝く様を観ていた。俺は肉体と魂・精神が分離しているようだ。別段、これといって悲しいだとか悔しいだとか、そんな感情はなかった。
結局、ロリっ子が言っていた「死なせる訳にはいかないね(キリッ」はどうなったのだろうか。ある意味では俺は死んでしまったのである――肉体という縛りから解き放たれた。だがしかし、俺はこうして自我を保てているという何かよく分からないトンデモ現象が起きている。
ま、いいか。
グルリと視界を動かしてみる。燃え盛る夕陽の反対側からは全てを呑み込む闇夜が迫ってきている。その黒をバックに彼女が立っている――姿形は違えど、俺は如何してかすぐに気付けた。
彼女は狼人間になったようだ。俺が知らなぬ間にナニが起こって現状に至るのかは、甚だ疑問を浮かべざるをえないが、まあきっと、なるようにしてなったのであろう。
それが彼女の選択なのか、それとも運命的なものなのかは分からない……だが、分からないなりに解かるモノがある。
彼女はきっと、先生を倒すつもりであったのだろう。何故そのような結論に至ったのかは……俺が死んだタイミングが重なっているから、それは……なんて、自惚れてみたり。
ん? ということはつまり、彼女もストーキングしてい……このことを考えるのは止めよう。……そうやって問題の先送り、まぁいいや。
俺はふーっとひとつ溜め息をつき――実際には身体がないのでついたつもりである――今、なにをすべきなのかを考える。多分、このまま彼女が突っ込んだところで、先生に呑み込まれるだけなのであろう。
ならば、先生そのものを消してしまえばいい――あまりにも冷酷な判断を下している自分に驚く。ああ、そうか。今の俺はもう、昔の俺ではないのか。
肉体という縛りから解放され、人間という枠組から外れてしまったアウトローなんだ。
もう二度と、人間であった頃の俺には戻れない――今まで中途半端であった人間ゴッコも吸血鬼ゴッコも叶わなくなり、闇の世界へ脚をどっぷりと踏み入れてしまった。闇の住人となった俺は……俺は。
俺は彼女を護る。既になにもかも失ってしまった俺に残されたのは彼女への思いだけだ。彼女が助かるのであれば、他のことなんて知ったことではない。
だから、先生にはご退場願おう。この歪な物語から。
俺は全身――と言っても影なのだが――へ力を込める。それに呼応するかのように影は動きだす。
ウネウネと蠕動する黒はひとつの生き物になった。――龍だ。黒龍になったのだ、俺は龍になったのだ。
俺のことに気付いたのか、彼女は目を見開く。
すぐに終わらせてやるからな、そう呟いたのだけれど、彼女に届いたのかは疑問だ。
俺は大きく口を開き、狙いを定めた後、先生を、一呑みした。
影である龍の口が何処へ繋がっているのか分からない。先生が何処へ逝くのかは分からない。平面的な影が立体的な先生を呑み込む、これ如何に。
終わった――終わったのか? こんなにもあっさりと、本当に? 悪役が登場した日に即ヤラレてしまうことはあるのだろうか。あって良いのだろうか。
「やってくれやがりますね、本当に」
否。やはり、終わってはいなかった。
…………○
先生は何故か、すっ裸の情態で堂々と屹立していた。腕を組み、たわわに実ったその双丘が……彼女から確かな殺意が飛んできた。思考を停止しよう。
「次から次へと一体なんなのですか? ま、一度に沢山のサンプルを採れるなんて嬉しい限りなんですけどね」
ニヤリと先生は悪そうな笑みを浮かべ、
「ああ! 影、その影は君なのですね。そうですかそうですか」
と言いながら、お腹をさする。
「では早速、君の能力とやらを試してみましょう!」
すると、突然先生の姿が消えた。否、影はある。つまり、先生は俺と同じように影になったのだ!
ふと先程のことを思い出す。仮に、先生は触れたモノを取り込むことが出来る能力なのだとしたら。
つまり、つまりそれは。俺の想像通りのことが起こるのであれば、この町は地図上から消え去るであろう。
俺は死に物狂いで――と言っても死んでいるのか――俺の領地を拡げた。最優先で彼女を包み込む。その後、町へ向けて領土を伸ばす。
幸いなことに、陽は既に沈みかけていたので、影は伸ばし放題だった――だがそれは先生も同じだ。
充分に影を伸ばしきらないうちに地響きがなった。そのまま、大きな地震が起こる。これは立っていられない、って俺は影だった。冗談を言っていられない。
ゴッ! と一際大きな音が鳴ったと同時に、目の前の景色が消えた。
は?
…………○
ありがとうございます。
展開が早過ぎる気がしますorz
丁度良いくらいなのかな……?
よろしければご感想・ご指摘を……!
ちょっと修正。ほんとにちょっと。




