~キャー、ストーカーよ!~
…………○
俺は、逃げていた。
いつから?
気付いた時には既に。
どこへ?
分からない。とりあえず、足が動き続ける限り。
なにから?
全身を駆け巡る不吉な感覚から。
誰から?
当然、あの女からだ。
なぜ?
どういう訳か、勘付かれたみたいだったから。
どんな風に?
俺が吸血鬼モドキである、ということを探りあてられたようだった。
…………○
一体、どれくらいの距離を走ってたのだろうか。陽は既に傾き、地平線は燃えるように赤く染まっている。息は上がっていて、少し苦しい。太腿はパンパンになっていて早めの筋肉痛が到来。着ていた制服はどこかに引っ掛けたのか、所々破けてしまっている。
あ~まじかよ。制服、地味に高いんだぞ。
なんて、思っていると前方からついさっきまで話していた人の声が聞こえる。
「いきなり逃げ出すことないじゃん」
何故、お前がここにいる。自分で言うのもなんだが、俺はそれなりに身体能力に自信がある方なんだぞ。それを女の人にいとも簡単に追い付かれてしまうだと……男と女には越えられない壁があるのは事実であるはず、それは身体能力とかであったりするのだが、と、この考え方は性差だよな。
俺は全力疾走後、肩で息をしているのに対してむこうは軽い準備運動の後のようにうっすらと頬を上気させているだけ。そんな、馬鹿な。おかしい。俺は吸血鬼モドキのはずだろ? 今現在は全ステータスが向上しているはずだ。多分、アスリート並みに。
「ふむ、君は『お、お前は一体何者なんだ!?』とか、思っているのかな?」
「…………」
相変わらずうざいな。なんなのこの人。
「そんな遠回しなこと言ってないで、とっとと教えてくれませんか、先生」
「ん? んー? 先生って響き、なんかイイネ。もっと言ってみてよ」
「先生先生先生先生先生、満足ですか」
「な~んか棒読みっぽいなー。センセーヤル気出ないー」
話が進展しない。禅問答でもあるまいし。
「先生はなんなのですか」
「私はわたぁし。先生は先生さんですよ」
「わけが分かりません。先生は人外の類ですよね、そして何者なんですか、と訊いています」
「おやおやおや、えらく直球だねぇ。もっと遠回りしようよ。ほら、急がば回れって言うじゃん?」
「善は急げ、思い立ったが吉日、今日の一針・明日の十針、という言葉もありますよ」
「ん、そだね。私はね、んー……」
顎に人差指を添えながら、思案しているご様子。視線は左上の方に逸らしている。
「……モドキ」
モドキ、あぁモドキね。なるほど分からん。
「モドキ……?」一体、なんの。
「擬くの名詞形。偽物、似非とか紛い物って意味だよ」
「俺は別に辞書的な意味を問うてる訳ではありません。……言葉が悪かったみたいですね。なんのレプリカなんですか」
「んー、私は……私は人間モドキだよ」
「人間……モドキですか」
どうしたことか。少し、頭が残念なお方のようだ。
「うん、人間モドキ。人あらざる人。人非人。ちょっと意味違うか。まぁそういうニュアンスが伝わればいいや。こんなナリだけど人間じゃない。私は完全な生物になるために造られたホムンクルスって呼ばれる存在だよ」
「は」
究極完全生命体にでもなるつもりですか。
「全ての生物の遺伝情報を入手して死ヌことのない存在になること、それが私の使命。ある時、気付いた。既存の生物を何万何億と取り込むより、未知の、それこそ化け物と呼ばれる類のモノを喰べた方が手っ取り早いってことに」
RPG風に言うなれば序盤の敵キャラを永遠と殺し続けるのではなく、エンカウト率が万分の一とか億分の一のレア敵を殺した方が経験値をがっぽりもらえる感じかな。でも、レア敵の存在は噂でしかなく、いるのか、そうではないのか定かではない、みたいな。
ある意味賭けだよな。普通に考えたら、そんなの存在しないって分かりそうな気もするけれど。
「それで、化け物は見つかったんですか。よりにもよって辺鄙な、極東の、日本の、片田舎で。お……僕はこんなとこで探すよりかヨーロッパの方で探索すべきだと思いますけど」
ただ単に化け物ってカテゴリよりも不死身、不死者のヤツの方が実験目的を達成しやすそうな気がするな。
吸血鬼。ヨーロッパのヴァンパイア。アラビアのグール。中国のキョンシーとかか。日本の妖怪にそんなのいたかな、と少し思うけれど、生憎、俺はそういいった物の怪とかに詳しくないので分からない。
「おきあがり」は、べっこか? よく分かんねぇや。
「うん、確かにこんな辺境な地で見つかるのかよって思っていたけど。化け物、見つかったよ。探し当てたよ。やっとのことで邂逅したんだよ」
「そうなんですか。それは良かったですね、脳内お花畑で」
「なんといいますかね……」無視かよ。
「……先生の先生からの指令で『ここら辺にいるんじゃない(笑』とのことでこの町に流れてきて、予想外だけど、こうもすんなりと目標に出逢えたよ」
「…………」
「先生のね、レーダーに反応があるのですよ、ほら」
と、ピコピコと揺れるアホ毛を指差す。髪の毛がレーダーとか、あんたはどこぞのゲx3ですか。背筋に冷やかなモノを感じる。
「さいですか」
「さようでございますよ。さて、それでは私からも質問させてもらうとしますか。よろしいですかな?」
「…………」
「イエスととるよ。君は吸血鬼、これは正しいかな?」
「……いいえ」
曖昧に視線を彷徨わせる。なんて応えれば切り抜けられる。
「ふむ、じゃあ……君は人間じゃないね?」
「いいえ。正真正銘、純粋な混じり気のない日本人です」
「本当に~? 髪の毛の色は日本人よりか宇宙人って感じがするよ?」「この髪は先天的なものですよ。多分、隔世遺伝の類だと思いますけど……」
「お父さんとお母さんは普通の人?」
「お……僕のように外見が人と異なっているのか、という点でしたら普通の人ですね」
「おじいちゃんおばあちゃんは?」
「漆黒の眼で未だに黒髪を有していますよ」
「……あっそ。じゃあいいや」
そう、告げた。
明らかに興味が失せたようだ。踵を返す。背中が見える。遠心力に引っ張られた髪がふわりとなびく。
瞬間、急速に身体中へ熱い血液が流れた気がする。
安堵の溜め息が漏れる。
握り締めていた掌からはじっとりとした汗を感じとれる。女の子と絶対に手を繋げられない状態だよ。
「やっぱり……」
ぐるんと反転する女。
「……あなたを……」
俺の頭へと伸びる指。
「……頂戴!」
境目が消える俺と女。
また、更新しなくなります。
今までありがとうございました。
このあとは女との境目が消えた(つまりは取り込まれた)主人公はなんと異世界に飛ばされていた! を書こうと思っています。




