~今日、俺は吸血鬼になった~
気付くと、そこは、あの献血車の見える場所だった。
俺の体感時間ではあるが六時間以上前に見た景色。
首許に軽く痛みを感じた。触れてみると穴のような傷が二箇所。血は出ていない。
「白ちゃん!? 大丈夫なの!?!?」
大慌てで俺に駆寄る彼女。
ドタドタ、と言う訳ではないけれど急いでいることがなんとなく分かる足音--イメージとしてはトタトタと。
俺の傍に落とす影--視界を覆い隠すように。
ふっと視線を上げると、そこには間近に迫る彼女の大きな瞳--今にも涙を零さんとばかりに潤んでいる。
彼女の息遣いを頬で感じとれるほどの距離--ほぼ零距離。
俺は視線を下に下げると、ぎゅっと握り締められているキーホルダー--俺が彼女に贈った。
微かに震える小さな手--力の入れ過ぎか白くなっている。
俺が白の世界へ行っている間、なにが起こったのかなんて分からないけれど、
「心配、かけたな……」 そんな気がする。
「いや! そんなことよりも……!」
俺は立上り、軽く叩くようにして汚れをほろう。そしてズボンで手を拭いてから彼女を抱き締めた。制服越しだなんて関係なしにあたたかさが伝わる。すごく、安心出来る。
身長の差があるため、彼女の吐息が肩にかかる。少しくすぐったい。
「大丈夫だから……」
「でも……!」
なにがあったのかを問い質そうとする彼女の言葉を遮る。
「大丈夫だから」 力強く、言い切る。
そう、言いながら優しく髪を撫でる。梳くように手を動かす。
「…………心配したんだから……バカ」
「いやはや、返す言葉もありませんな」
幼子をあやすように背中をぽんぽんと。鼻腔に広がる彼女の香りを楽しみながら。戻ってきたことを噛み締め。さっきまでの出来事は嘘だったかのようだ。
え、なにこれ? 物語の最終回みたいな? まさかの夢オチ!?
そんなことないぜ
…………………………どうやらそんなことはなく、まだまだ終わらせてくれないらしい。
GYAAAAAAAAAAAGYAGYAGYA!!!!
突如として、制御不能になったかのような車が俺達目がけて突っ込んでくる。中にいるはずの運転手の瞳は真赤に染まっている。Wow! 俺の眼が良くなっている。
って大型トラックかい! とツッコミを入れたくなむほどの巨大な車体。
「こりゃあかんなぁ」、と独り言を漏らしながら片手を構える。
彼女は、まだ気付いていない。
『カオス・フレアー』
胸の中で素早く詠唱する。
かざした手に集まる力。
すぐに解き放たれる。
DOWWWWWWWWWWWWWWWN!!
今日、俺は吸血鬼になった。
これから更新を一時止めます。
他のものを連載するかもしれません。