表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/59

~死にたくない~

 なんの花だったかな~と、うんうん唸りっていると首筋に鋭いふたつの痛み。はっと眼を開けると(仮)の髪の毛が見えた。


 色素が薄い、よりはない感じ--イメージとしては半透明のパン屋さんの袋。完全な透明ではなく、適度にパンが見える、そんな感じの--で遠くの景色をおがめそうな髪の毛が、徐々に色気づく。あ、別にSEXYセクスィーになるという訳ではなく、カラー搭載のプリンタって意味で。……どんな意味だ?


 髪の根元からゆっくりと変化していく。耳許から聞こえる嚥下--幼子のようにコクコクと小さな喉を鳴らす--する音ともにカラーチェンジの速度は増す。ひと口またひと口啜る音とともに色の領域が広くなる。

 そしてどんどんと色が濃くなっていく。ブロンド、というよりはきん。それも純度百パーセントの本物。金色の幼女、なんだか胸が熱くなるな!


 あ……ありのまま今起こった事を話したぜ。一体なにが起きているのか検討もつかない。なんて、本当は………………ホントは分かってんだよ。


 (仮)も贋者とはいえ吸血鬼。その肉食獣のような鋭利な牙は--決して八重歯なんて可愛らしいものではなく--皮膚に穴を穿ち、肉を裂き、骨を砕く(のか?)。


 そして彼らは彼らの食糧を彼らのために口にする。新鮮な血を欲する--血はすぐに酸化して黒ずんでしまうから、搾りたてが一番の真紅まっかなワイン--。


 俺らが喉が渇いた時にジュース--最近知ったけど、炭酸飲料ってすっごく美味しいよな!!--を飲むように、彼らは血で渇きを潤し満たすのだ。



 弱肉強食《人間と吸血鬼》。生態系のピラミッドでは(仮)が頂点付近で、俺・下位層。ただそれだけなんだ。たった、それだけなんだ。

 ご飯を食べると元気になるだろ? だから(仮)は俺という食糧を喰うことで力を補給している訳だな。


 毛先の一本いっぽんまでに色が澄み渡るまでにそんな時間はかからなかった。ほんの数秒だ。『徐々に』なんて表現をしたが、あれは間違いだ。急速かつ迅速に。それこそ真っ白な織物へ墨汁を何度も滴らすのと同じ感じだ。


 なんで最初、緩慢に感じたのかというと、多分なのであるが、俺が『死ぬ』寸前だからなのではなかろうか、と考える。『時間』がはっきりと視認できて、壱秒が何万倍にも引き延ばされる。


 今、俺には『時』と『場』の概念が狂っている。普段は時間を移動することは出来ない。そりゃそうだ。そんなことが出来るのは、時の旅人タイムトラベラーだけだ。俺たちは『場』を自由に動き回れるかわりに『時』に対して干渉出来ない。

 だけど、今現在の俺は、『場』に干渉出来ないかわりに『時』を自由に動き回れる。うん、なにを言っているのか分からないよね。


 催眠術とか超スピードの類では一切ない、これは絶対と言える。

 俺に纏わり憑くただの理不尽な現実だ。


 今の俺は動けない--身体を拘束具によって固定されるみたいに--だけど、思考だけは見たい方向へ移動出来る。それは過去であったり現在であったり……。今までに見聞きしてきたもの--体験してきたものを捉えられる。

 走馬灯に近しい現象なのかな……と、そういうことで片付けることにした。


 身体の中味が頸に穿たれたふたつの傷穴--(仮)に噛まれた--からどんどんと流れ出る錯覚。今まで積み上げてきたもの--人間関係だとか人生経験--があっさりと打ち砕かれる、失望絶望残念無念。だけどそんな中、喜びや快感エクスタシーを感じる。平穏な日常をひどく願う、渇望切望待望熱望。


 全身が性感帯になったみたいに想像を絶する快感が身体を貫いた。口を開いたけれど言葉を紡ぐことは出来ず--金魚みたいにパクパクと--ヒュ-ヒュ-と虚しく空気が押し出される。

 筋肉が弛緩して身体からなにかがこぼれ落ちるような

 空っぽになった肉の袋に無理矢理 風を送り込もうと必死になる、けれど呼吸をすることが出来ない。


 しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。しにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくないしにたくないしにたいしにたくないしにたくない。



 死にたくない……? 本当に? 本当に死にたくない?


 そうこうしているうちに俺の意識はだんだんと薄れていった。

 最後に見たものは俺の血--心臓に近いためか酸素をたっぷり含んでいる--を唇に塗る(仮)。食指につけた真紅まっかな血を薄い唇に押し当てて曳く。下唇、そして、上唇。


 最後にピッと指を離したせいで頬に紅い線が曳かさる。


 その顔は先ほど--硝子細工のようにちょっとした衝撃で砕け壊れてしまいそうなイメージ--とは違い堂々と腕を組んで立っている。そのせい(お蔭? because of ではなく thanks to?)で豊な--たわわに実った--胸が強調される。


 背は百八十くらいだろうか? 幼女だった面影など微塵も見せない。冷血のような冷徹にして冷酷に見降ろされている。

 軽く死線を越えられそうな視線。ゾクゾク……しない。生憎、俺にはMエム属性がないようだ。


 膝ほどまでに伸びている髪の毛。ブロンド、とは異なる--まさに黄金。黄土色……違う、耀く黄色……これも違う。山吹色……ヤマブキの花を何百倍にも濃く煮つめた--それでも足りない。俺は似たようなものを見たことがない。

 やはり黄金、と言った方が落ち着く。質量を持っているかのような髪の毛は全身を包み込むように発光--薄幸の美女……なんちて--。まるで後光が差しているかのような錯覚さえおぼえてしまう。

 絶えずに金粉のようなキラキラとしたものが流れ出ている。うん……(仮)が俺の姿だった時よりもすごい量--密度と言いますか濃度と言いますか--である。もう、フケですかそれ? と訊けないくらいに垂れ流し状態だ。水……とは少し、いや大いに異なる。

 最早、融解したAu(金)だと断定してもよさそうである。髪の毛から離れて地面にゆっくりと広がる。霊気のような冷気みたいに。





 起きているのか寝ているのか--浮遊感に無力感、脱力感に虚無感--分からなくなった。


 そして、俺は意識を手離した。


…………○

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ