~そろそろ帰りたいのですが~
一日が長すぎますね(汗
びっくりした。なんか普通に攻撃技を発動することが出来た。試しに横《右》・下・斜め《右下》+弱Pをしてみると、
『デーモンクレイドル』
と、思い浮かぶと同時にマントが蝙蝠のツバサに変わり空へと舞い上がった。最初は回転しながらだったけれど、何回も発動させていると思い通りに、俺の意思でツバサを出現させられるようになった。
ツバサが出来たのだ。当然空を飛びたい衝動にかられた。
俺は残念ながら一度も空を飛んだことがないので(当たり前か)すぐさま実行に移すことにした。
軽く走ってから軽く地面を蹴った。イメージとしては蟻の行列を踏まないよう飛び越える感じ。すると、跳躍とは絶対に違う浮遊感が身体を支配した。慌ててツバサをはためかせようとしたけれど、ツバサはマントが変化した訳であって身体から生えている訳ではない。お・ち・る、そう思ったので眼を閉じた。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~……あ?」
自由落下の果てに地面への激突を確信していたので歯を食い縛った。それなのに、いっこうに衝撃はやってこない。
「飛んでいる……?」
片目を開けて視認するとどうやら飛行しているみたいだ。それも滑空のような形で。下を見降ろしたけれど、上も横も下も全てが白一色なのでよく分からない。足元はなにもないし地面と接触した憶えはない。
「飛んでる」
もう一度声を出す。先程のは疑問形だったけれど、今回は確認の為。身体の奥底からアツイなにかがふつふつと湧き上がる。今までにない優越感や幸福感、充足感に満足感。今の俺にならなんでも出来てしまいそうな気がしてくる。
…………+
更に実験を繰返した結果、
技名を口に出しても、
技名を思い浮かべても、
コマンドを思い浮かべても発動出来ることが分かった。
ただし『声に出す』ことと『思い浮かべる』ことでは少なからず術の発動にまでタイムラグが発生する。もし近接戦闘でほんの零コンマ数秒のうちに勝負がつきそうな場合、『思考』の方が断然有利だと思った。詠唱中に攻撃を受けて中断せざるをえないことになっても大変だ。
途中で気付いたのだけれど、『声に出』した方は技の威力が伍割増だということも分かった。速さをうまく利用して連発をとるか、少し遅いけれど一撃に力を注ぐか。状況に合わせる必要があるな。
空を飛ぶ時の注意としてはちゃんと明確なイメージを持つことが重要だと分かった。曖昧に思うのではなく、しっかりと。
俺はふと携帯電話を確認すると、学校が終わってから三時間近く過ぎていた。
「ぉぃぉぃぉいおいおい!!」
まさか、ホントのホントに帰れないとかじゃないよな? お決まりのご都合主義はどうした! なんだかんだ色々しておいて結局ハッピーエンドへと繋がるのが普通じゃないのか?!
あのロリ吸血鬼(仮)に問いただしてやる。さっと周囲に眼をやると、五時の方向になにかがいたので注意深く見る。ロリ吸血鬼だった。
なにをすべきかをはっきりと認識した。
直後、手に入れた力を試してみたくなる。
「本気で走るとどれくらい速いんだろう?」
最近、体育の授業で百Mのタイムを測った時には十二秒三六だったな。俺は小学生の頃はムチムチとした感じのポッチャリ君だったんだけど、中学に入学するのと同時に身長がグンと伸びてスタイルも良くなった。そのおかげかどうかは分からないけれど、足も速くなった。
百Mを中一で一五秒、中二で一四秒、中三で一三秒、高一で一二秒と毎年一秒ずつ縮めている。特別、運動とかをしている訳でもないのだが……もし関係あるとすれば、小中高と登下校を全力で走っていることだ。小中の頃は毎日、約三kmの道程を二セット。高校に入学してからは五kmの道程を二セット。意外と疲れるのである。
きちんと毎朝日焼け止めのクリームをぬりたくってはいるのだが、一応、念のため、万が一に備えて真夏日だろうと関係なしにウィンドブレーカーを着ている。現在進行形でね。たまにカッコつけてるとか言われるけどムシムシ。
それがまた暑いのなんのってね。家に帰るまでに汗でびっしょりになるし、ムレルし、くさいし、服が肌に張り付くから気持悪いしですぐにシャワーを浴びたくなる、っとなんの話だっけ?
そうそう、それでプチ吸血鬼になったのだから身体能力も向上しているよね? っていう話題だ。
俺は準備運動とストレッチを軽く済ませた。さっき軽く走ったりしたのですぐに済んだ。
「位置について」
と言いながら、クラウチングスタートの構えをとる。こう見えて中学では陸上競技大会というけったいな名前をしているけれど、ただの運動会のある種目、クラス対抗リレーに出場していたのだ。クラスから四人を選抜して一人あたり二百M、合計八百Mとどちらかと言うと少ない気も物足りない気も距離を全校生徒の前で頑張って走る。
俺は三年間そのリレーのスターターを努めていた。培っていたものを全力で発揮出来る場。そこが最高に気持良かった。
「よ~い」 深く息を吸い込む。
「ど……!」 全力で地面を踏みしめる。
「……ん!」 全力で地面を蹴り飛ばす。
すると足をつけていた所が爆ぜた気がした。急に推進力を得る俺。一歩いっぽ足をつける度に地面が愉快な音をたてる(後に分かることなのだが、俺が高速に動きすぎていて周囲の景色が線のように見える。例えるならば、『俺』という登場人物がいる。そして背景がものっそい速さで後ろへ流れて行くのである。でも変なことに俺自体は動かないんだ。感覚としては『景色』『背景』が意思を持ったかのように俺から離れていく、そんな感じ。今は辺りが白一色オンリーなので気付かない)。
ロリ吸血鬼とは数kmくらいの距離があったと思っていたのだが、ほんの数秒もしないうちに再会した。それも俺の制御失敗による激突という形で。
きゃっ…………………………!
ロリ~は、それはそれは可愛いらしい声を出しながら吹っ飛んで行った。思わず頬擦りしたくなるような、そんな声。俺は慌てて近寄ると、白眼をむいているロリ~が。じ、地味に恐いじゃないか……!
『我輩は吸血鬼である』と、真顔で言いながら近付いてくる下半身全裸男並みに……いや、それよりも恐い。あの男の、コート一枚と肉体が織り成す絶対不可侵的な代物、あれはJKのスカート並みに中身が気になるのだが見えないからこそ(ここ重要)良いんだ。それ《・・》を直視してしまった瞬間から意味なんてものは容易く崩れ去るものだ。微妙に方向性が違うか。
って、返事がないただの屍……吸血鬼って生物のカテゴリに分類されるの?
あぁ! それよりもロリ~の救出をせねばいけない!! ここは現在失われかけている分岐、人工呼吸フラグの回収を……っは、まず心臓の動きを確認しないと。どらどら、おじさんに小さなお胸をさらけ出して下さい。げへへへへ。
俺は倒れている吸血鬼(仮)の傍へ近寄り、手をワキワキと動かす。もちろん触る気なんて毛ほどもない。なぜならロリは管轄外だから。
こういうふざけるのって一度試してみたかったんだよね(笑
吸血鬼キ~~~~~ック!!!!!!
そう、言い放つ吸血鬼(仮)は……面倒だ。これからは(仮)で。(仮)は透き通るほどの白い顔を真赤に染めながら--それこそ青森県産の最高級品の熟れたリンゴみたいに--白いワンピースから伸びている華奢な足を振り上げた。そのまま両手で地面を突き放してジャンプ。俺の顎目がけて一直線に進んでくる足を見下ろすと……
あ、ぱんつ見……「ぐえ」 なんだか車に轢かれたようなつぶされたような蛙の呻き声と同時に俺は華麗に後方宙返り《バク転》を決めていた。そこは流石のプチ吸血鬼・身体能力向上☆ の恩恵で見事に音もなく爪先から地面に降り立つ。
「痛いじゃないか?」
あんたが変なことを考えるのがいけないのだろう!?
「よしてくれよ、俺はお医者さんゴッコなんて妄想していないぜ?」 俺の太い注射は……そんなやましいことは考えていない……はず。
今、完全に妄想って書いていたよね!?
なに勝手にルビを『そうぞう』に変換しているの!!
「そんなことより、『吸血鬼キック』っていう名前はどうよ? なんか色々と問題がありそうだな……。ほら、もっと良い名前とかあるだろう? そういうの使おうぜ。そうだな……『デビルズペイン』とかはどうだ?」
厨二っぽい!!
あっ、話を流した方にはツッコまないのね。
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