5話 勇と咲
この美術館は第1展示回廊には絵画を、第2展示回廊には骨董品を、第3展示回廊には石像、銅像、人形を展示している。
朝倉達は第1展示回廊を回り、咲と勇は第2展示回廊を回っている。
骨董品は様々な種類があって、咲は小汚いハニワをボーと眺めている。
僕は何となく気まずい空気を察知して、話題を頭の中に静かに振り絞り、言葉を絞り出した。
「そのハニワはどう思う?」
咲はそう僕に訊かれると、ハニワから視線を天井に逸らして、
「別に、ただ……」
中途半端なところで言葉を濁す。
勇はしつこくない程度に、
「ただ?」
と短く訊いた。咲は唇をすこしかみ締めると短く言った。
「何でもない」
質問と話の流れを打ち切る一言だった。さすがに、これ以上はこの話題を続けるのには無理があると感じた勇は、次の話題を脳内で模索する。
咲から半歩引いた後ろを歩く勇は、素直に芸術鑑賞に勤しむ事にした。相変わらず訳のわからない骨董品の数々だが、妙に見続けてしまうのはなぜだろう。
「ねぇ」
唐突に、咲は立ち止まると短く言う。
「なに?」
僕は咲と同じ短い言葉で訊いた。咲は勇の方を振り返る。
「もしも、未来が視えたら、勇はどうする?」
咲の質問は、勇には理解出来なかった。予想外の質問だった。
いきなり、『未来が視えたらどうする?』なんて訊かれて即答出来る程、僕の頭は出来ていない。勇はとりあえず、
「よくわからないな」
そんな曖昧な言葉を返した。この場合は多分、もっとも妥当な言葉だと僕は思った。
咲は綺麗な碧眼の瞳をすこし悲しそうに細めて、
「変な事訊いて、ごめん」
線の細い声で謝る。けど、悲しそうに細めたのは一瞬だけで、今度はクスッと笑みを浮かべながら、
「忘れて」
とすこし声を弾ませて言うと踵を返して歩き出す。
忘れてと言われて、忘れる事など出来るはずもない。だが、言葉を言い返せばこの話は終わりだと告げているので、勇は何も言わずに咲の後ろを歩いた。
この話だけ咲視点から勇視点に移ってます。