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碧い炎  作者: 蒼際
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1話 碧眼の少女

 どこかの病院内の室内で、私は仰向けで寝ている。

 視線を横にすこし逸らせば、輸血パックが鉄の細長い棒に固定されて、パックからは細長い管が、私の片腕の血管に伸びている。

 紺のブレザーは横に掛けられていて、服装は白いシャツの襟をネクタイで締めていて、下はブレザーと同じ色のスカート。

 私の名前は伏見咲ふしみさきといって、現在は17歳。

 乱雑に切られた黒い艶のある髪は背中半分まで伸びていて、綺麗な碧い瞳、顔は幼い感じは一切なく、大人びた綺麗な顔立ちである。

 飾り気があまりない式だが、片耳に銀色の短剣を象ったピアスを刺し通している。

 記憶がどこかで途切れていているが、私がここに居る理由と経緯は大体見当がつく。

 大方、また学校で吐血して、貧血になりそのまま病院に搬送されて、現在に至っているのだろう。5年前から、体はこんな調子だ。

 待つ事20分……輸血パックの血液は空になり、私は勝手に輸血用の注射針を無造作に血管から抜いて、その場に置いて、ブレザーを制服の上から羽織る。

 すこし、過去の話になるが、私は5年前のあの日、殺された。

 そして、おかしな眼と、このピアスを手に入れて、その性なのか、何かあるとすぐに口から血を吐血する有様だ。

 おかしな眼というのは、信じられない話だけど、人と自分の未来と死ぬ時の映像が見えてしまうのだ。もちろん、私自身に見えるのは、すこし先の未来だけで、私はこのおかしな眼を『未来死の魔眼』と呼んでいる。

 仕切られていた白いカーテンを片手で捲くったら、医者らしき男性と正面衝突して、咲はその場の床に尻餅をつく。

「いきなりだったから、すまない。その様子だと、もう大丈夫そうだな」

 医者らしき男性はそう言いながら、咲に片手を差し伸べる。

 が、

 咲は医者の手を無視するように、自分で立ち上がり、

「知らない人とは関わるなって、小学校で教えられた」

 線の細い声で、短く言葉を吐き捨てる。

 これには、医者らしき男性も苦笑しながら、

「それもそうだ。金はアンタの連れが支払ったから、毎度どうも」

 軽い口振りでそう言いながら、奥の部屋に歩いていく。

(連れ?)

 咲は医者らしき男性の言葉に疑問を感じながら、出口の方に歩いていく。

(誰だろう?)

 その疑問はすぐに解けた。出口の前に学生服姿の黒い短髪の少年が立っている。

「やっと起きた。本当に不自然な体だね」

 肩まで挙げた片手を軽く振りながら、少年は笑いながら言う。

 咲はその言葉に自分でも納得したのか、ため息に似た息をすこし吐くと、

「……それで、輸血代はいくらだった?勇」

 早速、お金の清算の話を持ち出す。

「病人からお金を受け取る趣味は僕にはないよ。それより、午後の授業はどうする?」

「今日はそのまま家に帰る事にする。勇は?」

 病院の出口を並んで通過しながら、咲は勇と呼ぶ少年に質問を返す。

 勇はすこし考えながら、

「午後の授業は数学とHRだから……今日は僕もサボろうかな」

 そう答えると、何だか包容力のある笑みを薄っすらと表情に浮かべる。

 一緒にするな、と咲は言いたかったが、我慢する。後ろに建っている病院はどんどん遠ざかり、最後には見えなくなる。

 勇の学生服も上着は紺色のブレザーなので、微妙に咲とペアルックである。

 季節は春の4月で、すこし前に高校2年に上がった。

 歩道と車道はすこし錆びたガードレールで仕切られていて、間違って車道を歩く事はない。

 歩く毎に移動する見慣れた風景を眺めながら、

「あのさ、前々から言おうと思っていたんだけど、一度だけ大きな病院で精密検査受けた方がいいんじゃないの?」

 唐突に勇は式に訊ねる。咲は考えもせずに即答する。

「精密検査するだけ無駄だと思う。これは、後遺症みたいなモノだから」

 実際は精密検査を受けるのが面倒なだけだが、そこは言わないでおこう。

 勇は、ふ〜ん、と喉を鳴らしながら、周りの風景に視線を逸らして、咲も勇とは反対の風景に視線を逸らして、真っ直ぐ歩いていく。

 蒼い空には、真っ白な雲が幾つか浮かんでいる。しばらく歩いていくと、左右に分岐する歩道と車道が合併する場所に到着する。

 咲は左、勇は右で、ここで別れる。お別れの挨拶はないが、軽く片手を振る程度の事はする。

 数歩、咲は歩いていくと、突然勇の未来が一瞬だけ見えた。『車に轢かれる勇』の映像。

 咲は踵を返すと全速力ですこし離れた勇の後ろ姿を追いかけて、勇の片腕を強く握ると勇の顔を自分の胸に衝突させる。

 歩いていた先の小型車一台分の小さな路地から、小型車がすこし速い速度で通り過ぎていく。

 咲はひとまず安心した。そして、勇を胸に押し付けていたのを不意に思い出す。

 胸に押し付けられた勇の顔は赤くなっていて、自分で押し付けた咲も顔を真っ赤にして、勇を軽く突き飛ばす。

 よろけながら数歩後退する勇を無視するように、全速力で咲は逃げるようにその場から走り去る。


(何だか、大胆だったな……それにしても咲の胸……柔らかかったな……)

 変な妄想をしながら、ゆっくりと歩き出す勇であった。


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