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碧い炎  作者: 蒼際
12/12

11話 幼稚園最終

 修学旅行まで後十日に差しかかろうとしていた6月の夏。

 私は午前の学校をすっぽかして、近所の『藍色幼稚園』で本日開催されている父兄参観日などという授業参観に参加させられている。

 なぜ、こうなったと言うと、昨日の晩の事。


「授業参観?」

 風呂上りでポカポカしている内に寝ようとして、部屋に入ろうとした時に母親に言われて、言葉に?マークだけつけて返した。

「近所の晶子おばさんのとこの娘さんの子供が近くの藍色幼稚園に通っててね。明日はその幼稚園の参観日なのよね。何だか急に行けなくなったらしくて、そこで、一番暇そうにしている咲ちゃんにどうかなって」

「明日、学校ある」

 ドアの前で短く言い切った。

 母親氏はどうも、私の答えに文句や苦情があるらしく、顔にそのままはっきりと何か言いたいオーラを漂わせている。

 ドアを閉めてさっさと寝たいと思いつつも、この漂うオーラがすごく気になって閉めれない。

 話を打ち切りたいと必死で願いつつも、この雰囲気からして、良いと言うまで引き下がらないみたいだったので、

「……学校は午前休むよ」

 ため息を吐きながらそう言うと、母親は満面の笑みを浮かべる。

「そっかそっか。子供は良いもんよ〜私が咲ちゃんくらいの歳にはもうすでに彼氏20人以上居たんだから――」

「――馬鹿」

 咲のドアを閉めると同時に言った言葉で、母親の含み笑いが消え失せた。

「ば、馬鹿?」

 心ここにあらずみたいなうわの空のような口振りで、母親がドアに向かって呟くように言った。


「あ、あの」

「はい?」

 入り口付近に居た幼稚園の先生らしき女性に『古林カリン』という名前の子供の名前を訊く事にした。

 名前を出すと、女性は当然の如き口振りで、

「カリンちゃんに何か用ですか?」

 怪しんでいるだろうか?とりあえず、事情を話す。

「古林さんが用事になので、その代理の伏見です」

 淡々としすぎる咲の口振りに、女性は引き攣った笑みを浮かべながら、

「そ、そうでしたか。一番奥の、部屋ですから」

「どうも」

 咲はそう短く言うと女性の横を通り過ぎるように歩き出す。

 と、

 女性が唐突に口を開いて、

「失礼ですけど、ハーフですか?」

 失礼な質問?と疑問を感じるが、そう質問させた部分はすぐにわかる。

 碧眼は外国人の瞳の色で、日本人には珍しい色である。

 咲は短く即答する。

「違います」

 顔をすこし頷かせた後、踵を返して奥の教室に歩いていく。


 

 午前9時半の高校の教室では、憂鬱そうに窓の外を眺めている勇の姿がある。

 どうして憂鬱なのかというと、後ろが淋しいモノがあるからだ。

 いつもなら、後ろを振り返れば、面倒そうな碧眼を窓の外に向けている咲の姿があるのだが、今日はない。

 窓に微かに自分の顔が映っている。何ともやる気のない顔である。

 だが、なぜ僕はこうも気分がダウンしているんだ?

 自然とため息が漏れる。と、ここで肩を軽く叩かれる。

「何を気落ちしてるんだ?今日は彼女の伏見来てないんだな」

 朝倉の冗談半分の言葉が、後ろから聞こえてきた。

 とりあえず、泳いでいる横目で朝倉を見ながら、

「彼女だったら良いんだけど……向こうにはその気ないから」

「勇はその事に関してはオクテだからな。もうすぐ修学旅行だから……夜這いでも掛ければ?」

「それ、犯罪だよ?」

「昔の夜這いは女性が受け入れれば――――(禁止言語18禁)」

 勇は朝倉の言葉に呆れて一言。

「咲が居たら、殺されてるかも」

「居ないからこそ話せるってもんだ」



 幼稚園教室内には、変に気合入れている父母父兄の中に、制服姿の咲が面倒そうな顔をして立っている。

 周りに居るのは若くても20代以上の父親と母親と5歳の園児達。

 孤立感と場違い感を感じながら、つまらなくも面白くもない授業風景……遊んでいる風景を眺める。

 楽しそうに笑いながら折り紙や粘土遊びやお遊戯をしている幼い顔をした子供の姿を、周りで見ている親達は笑顔で眺めている。

 古林カリンって名前の女の子はブラウンのかかった黒髪をツインテールしていて、黒い大きな丸い瞳の明るそうな子だった。

 何だか、私とは対照的な子だ。

 周りの親達は子供に手を振るけれど、私は振らない。ただの代理だから。

 それから、午前中眺めた後、古林カリンの母親が到着して、子供と一緒に帰って行った。

 私はそのまま、学校に向かって歩き出す。だが、今日は運が悪かったのだろうか?

 幼稚園からすこし離れた十字路で、小さな子供が泣いている。

 多分、歳は5歳くらいで、髪の色は灰色の肩まで伸びている長髪。瞳の色は咲と同じ綺麗な碧眼の女の子だった。

 白い半そでに赤のズボン。涙を一杯浮かべながら泣いているので、無視出来なかった。

 咲は女の子の前に屈んで、とりあえず涙を代わりに拭ってあげた。

 会話がない……ただ碧眼と碧眼で見つめているだけだ。

(どこの子供なんだろう?)

 最初にそう思った。横隔膜が痙攣すると、シャックリが出る。今の女の子の状態だ。

 咲は立ち上がると、泣いている女の子に向かって、何も言わずに片手を差し伸べる。勇だったら、こんな時に相応しい言葉を言うと思うけど、私には浮かんでこないから、何も言わない。

 碧眼の女の子も無言で咲の手を握る。

 同じ眼なので、性格も似ているんだろう。私は交番を考えたが、面倒な手続きなどがありそうなので、最後の手段にする事にした。

 咲は口をすこしだけ開いて、

「家はどこ?」

 短く訊くと、女の子は首を左右に振って答える。

 困った。非常に困った。交番行くのは断定で『嫌だ』判定だから……本当にどうしよう。

 悩んで、考えた末に、

「歩いて、親捜す?」

 短くまた訊くと、今度は首を頷かせた。

 女の子からの賛成をもらったため、とりあえずここら周辺の道を歩く事にした。

 学校に向かう反対側の道から、近所の周辺まで歩いたが、この子供の親が見つからない。

 咲はもう交番に行くしかないと考えると、手早く交番に連れて行く。

 交番にはすでに先着が居たようで、

「ユズ!」

 母親らしき女性が大きな声を張り上げて、子供を抱きに走ってきた。

 微笑ましい光景であるのだろうが、今の私にはどうでもよかった。学校に行かないと。

 母親らしき女性は顔を上げたが、もうそこには咲は居なかった。もの凄い勢いで走り去っていった。

 呆然とした女性は一言だけ、

「逃げたの?」

 短く言った。

 

 

 未完ぽいけど、予定より数話多かった。

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