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相方は座敷ワラシ!  作者: 沙φ亜竜
第6章 友と妖怪とちょっぴり愛と
33/36

-3-

「ボクは……大昔のことはよく覚えていませんですの」


 あたしが思っていることを読み取ってくれたのだろう、笑ちゃんが話し始めた。


「かなり古くから存在しているみたいですからね、笑ちゃんは」


 小明麻さんが言葉を添える。


「ですが、もともと普通の人間だったというのは、間違いないと思いますわ。そうでなければ、もっと揺らいだ存在になるはずですもの」


 揺らいだ存在というのがどんなものか、あたしにはよくわからなかったけど。

 今まで見てきた限り、笑ちゃんはあたしと出会ってからのことを普通に記憶しているように思えた。


 それにしても、よく思い出せないほどの大昔から存在しているというのは、どんな気分なのだろう。

 なんとなく切ない思いを抱いていたあたしに、笑ちゃんはもう一度笑顔を送ってくれた。


「ボクは座敷童子ですの。言葉の響きにかけて、『座敷笑し』と呼ばれることもありますです」


 ダジャレかよ!


 なんて思わなくもなかったけど、古くから言霊(ことだま)というものが存在するのも事実だ。

 現に妖怪だってこうして目の前に存在しているのだから、言葉にかけられた思いが、なんらかの作用をもたらしたとしても不思議ではないのかもしれない。


「ボクは、人を笑わせるために、存在しているんですの」

「……だからこそ、わたくしは『のりわら』として香紀さんとのコンビを後押ししてきたのですわ」


 笑ちゃんの声に、小明麻さんが再び言葉を添える。


「幸せは、笑顔が運んで、くれるんですの。人を笑わせる、ためには、手段を、選ばないん、ですの……!」


 なぜか汗をだらだらと流し、息を切らしながら、力説する笑ちゃん。

 なんだか言葉も途切れ途切れになっていた。


「でも、手段を選ばないからって、くすぐって笑わせるってのは、それでいいの?」


 笑ちゃんの様子が気になりつつも、あたしは率直な疑問を口にする。

 その疑問に答えを返そうとした刹那、笑ちゃんの体はゆらりと揺れ、とさりと軽めの音を立てて床に倒れてしまった。


「ちょ……ちょっと、笑ちゃん! 大丈夫!?」


 あたしは慌ててしゃがみ込み、笑ちゃんの肩を揺する。

 笑ちゃんは、息こそ荒いものの意識は保っているようで、力ない笑顔を懸命に返してくれた。


「先ほどのくすぐりは、香紀さんもわたくしも、笑ちゃんによって妖力を与えられていました。くすぐり続けるあいだ、ずっと笑ちゃんの妖力を吸い取っていたことになります。そのため、力が弱まってしまい、苦しくなっていたのでしょう」


 小明麻さんもあたしの横にしゃがみ込んで、笑ちゃんのおかっぱ頭を優しく撫でながら、そうつぶやいた。


「大丈夫ですの……。話を続けますです」

「無理しなくてもいいよ、笑ちゃん」


 あたしは汗ばんだ笑ちゃんの手を握りながら諭す。


「ボクは、平気ですから。聞いてほしいんですの」


 笑ちゃんはそう言って、さらに語り続けた。



 ☆☆☆☆☆



 笑ちゃんは、紋白中学校が設立される前からこの場所に住み着いていた、いわゆる地縛霊だった。

 座敷童子というのは元来、そういうたぐいのものらしい。


 学校ができる前のこの場所には、古くから続く旧家のお屋敷が建っていたのだという。

 笑ちゃんは代々ずっと、そのお屋敷の子供と遊び、一族に笑顔と繁栄をもたらし続けていた。


 通常、座敷童子は子供にしか見ることができない。

 子供のような澄んだ心を持っていれば、大人でも見える人はいるらしいけど、そう多くないのも事実だった。


 そうすると、うちの両親はお子様な思考回路を持っているということか。まぁ、なんとなく頷ける気もする。

 咲先生も、妖怪部の顧問なんてやっているくらいだから、子供っぽい精神を持った大人だと言えるだろう。

 座敷童子自身の妖力の強さにもよるらしいし、笑ちゃんがすごいってだけなのかもしれないけど。


 それはともかく、繁栄は永久に続いたりはしないもの。

 笑ちゃんの存在を受け入れて、いつも笑顔が絶えなかったその一族にも、やがては終焉が訪れる。


 笑顔が減り、明るい声を響かせる子供もなかなか産まれなくなると、笑ちゃんのことは次第に忘れられていく。

 家族の人数も多かった繁栄した時代から、徐々に人も減り、笑顔も減り、幸せも減っていった。


 終焉が近づいていることは、笑ちゃんも感じていた。

 でも、笑ちゃんにはどうすることもできなかった。

 笑ちゃんの存在を感じ、笑顔を見せてくれないと、「座敷笑し」である彼女にはなにもできないのだ。


 ただ黙って見守るだけ。

 それは、どれほどつらい毎日だっただろうか。


 そんなある日、ご主人はそのお屋敷を手放すことになる。お屋敷を取り壊して、その敷地に学校が建てられることになったのだ。

 時代の波に流されたとも言えるけど、独り身のまま歳を取ったご主人にとって、それは最後の夢だった。


 この頃にはもう寝たきりとなっていたというご主人を、笑ちゃんはどんな気持ちで見守っていたのだろう。


「もうすっかりボクの存在なんて忘れてしまっているご主人ではあったのですけど、最後の夢を叶えてあげることができて、ボクとしても幸せだったかもしれないですの」


 幸せだった。


 そう言いながらも、笑ちゃんは今にも雫がこぼれ落ちそうなほど、まつげをふるふると震えさせているように見えた。


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