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おおわらわの舞台上へと飛び込んだはいいものの。
あたしなんかに、なにができるっていうの?
困惑を浮かべつつあたふたするだけのあたしに、お客さんから投げ入れられる食べ物や飲み物が容赦なく襲いかかってきた。
「かのりん、こっちです! もうちょっと待つんですの!」
笑ちゃんに腕を引かれる形で、あたしは舞台の片隅へと移動する。
次の瞬間には煙が漂い始め、教室を甘い香りで包み込んだ。
咲先生が、なにやらお香のようなものを焚いている。その煙と匂いだった。
さらに、サクラさんと花子さんが、花びらを舞い散らせる。
教室の中は、桜を初めとした様々な花びらが踊り、お香の煙と甘い匂いでいっぱいになっていった。
「あれは、心を落ち着かせるためのお香と視覚効果ですわ。お客さんたちは、美野さんの歌声でおかしくなっています。野菜のせいで体の中からも意識を支配されているようですけれど、外部からの刺激が変われば、その支配力を弱めることができますわ」
いつの間にかすぐ横に立っていた小明麻さんが解説を加えてくれた。
「お客さんたちは、これでとりあえず大丈夫です。とはいえ、一時的な効果しかありません」
「あとはボクたちの仕事ですの。かのりんは、ボクの言うとおりにしてくださいですの!」
笑ちゃんがあたしの両手を握りながら、真剣な表情で気合いの声をかけてくる。
「うん、わかった!」
その勢いに圧されながらではあったけど、あたしは力強く頷いた。
☆☆☆☆☆
美野ちゃんは、完全に歌に入り込んでいるのか、目をつぶって歌い続けていた。
委員長と友親くんも、周りの状況なんてまったく気にすることなく、それぞれの楽器を演奏し続けている。
お香の匂いと花吹雪に包まれ、あたしの両親やお姉ちゃんを含めたお客さんたちはみんな、ぼーっと立ち尽くしていた。
「それじゃあ、始めましょうか」
「かのりん、行くですの!」
「う……うん……!」
小明麻さんの声を合図に、笑ちゃんとあたしも、舞台の片隅からそれぞれのターゲットへと向かって飛び出す。
小明麻さんは美野ちゃんへ、
笑ちゃんは委員長へ、
そしてあたしは、友親くんのもとへ。
あたしたち三人はそれぞれのターゲットの背後に立つ。
敵意をむき出しにした影が迫っている、そんな状況にもかかわらず、美野ちゃんたちは歌を、演奏を、止めはしない。
そんな彼女たちに、あたしたちは後ろから組みついた。
つかみかかったりしたら、ものすごい力で弾き飛ばされてしまう。それはさっきの水野さんや浜村さんを見てわかっていた。
だから、一瞬で動きを封じなければならない。
あたしたちは背後に立ち、ターゲットの両側から腕を回すようにして、思いっきり抱きしめる。
続いて、ターゲットが抗う力に負けないうちに、前に回した手をターゲットの脇の下に挟み込む。
そのまま……力いっぱいくすぐり始めた。
あたしとしては、なんというか、いいのかな~という思いを抱いていた。
だって、友親くんに、後ろからとはいえ、こうして、その……抱きついちゃって、その上、脇の下をくすぐるなんて。
そうは思ったけど、今はそんなことを考えている場合ではない。
気を抜くと弾き飛ばされてしまうのだから。
あたしは必死に抱きつき、友親くんをくすぐり続けた。
「……う……、きゃっ!? ちょ……やめて、あはははははは!」
「……く……、うわわ、あはははははは、や……やめて~!」
「……ぶ……、な、なんだこれ!? うわは、ははははははは!」
美野ちゃん、委員長、友親くんは、最初こそなにも感じていないようだったけど、くすぐり続けているうちに、こうして大きな笑い声を響かせ始めた。
一瞬にして、歌と演奏が止まる。
と同時に、三人の笑い声とまざり合うかのように、なにか白い気体のようなものが、それぞれの口からすーっと抜けていくのが見えた。




