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相方は座敷ワラシ!  作者: 沙φ亜竜
第5章 清らかな歌声響く昼下がり
30/36

-6-

 舞台の上では、続けて美野ちゃん、委員長、友親くんによるパフォーマンスが始まっていた。

 美野ちゃんの綺麗な歌声と委員長の琴、友親くんのギターの音が響く中、あたしはまだ、めそめそしたままだった。


 お客さんに見せられる姿ではないので、調理場の中に引っ込んだままのあたし。

 笑ちゃんはずっとそばに寄り添って、あたしの頭を撫でてくれていた。

 そのおかげもあって、さすがに落ち着きを取り戻しつつある。


 ちょうどそんなときだった。

 異常なほどの盛り上がりを感じさせる歓声が聞こえてきたのは。



 ☆☆☆☆☆



「みなさん、落ち着いてください!」


 調理場から飛び出して教室内を見渡してみると、司会進行役の三橋くんが慌てた声を上げていた。

 舞台の袖に控えていたはずなのに、三橋くんは今、お客さんたちの席のほうにいる。

 そして彼の目の前で、お客さんたちが席を立ち、なにやら奇声を上げながら腕を高々と掲げていた。


 お客さんたちは美野ちゃんの歌声に熱狂し、声援を送っているみたいではあった。

 ただ、食べていた軽食類などを振り上げ、それを舞台に投げ入れたりまでしている。


 美野ちゃんはそんな食べ物を華麗にキャッチすると、笑顔のまま自分の衣装に塗りたくっていく。

 真っ白な衣装が、様々な色で彩られていた。


 演奏している委員長と友親くんは、その状況に気づいているのかいないのか、なにかに取り憑かれたかのように楽器を奏で続けている。


 これは、いったいなんなのだろう?


 そりゃあ確かに、美野ちゃんの歌声はすごく美しい。

 今演奏されているのも、アップテンポでノリのいい曲ではある。

 とはいえ、いくらなんでもここまで熱狂するなんて、少なくとも今日の午前中まではなかったことだ。


 それに、熱狂して奇声を上げ、食べ物を投げ入れている人の中には、あたしの両親やお姉ちゃんもいるのだ。

 甘い物が大好きなお姉ちゃんが、自分の胃袋に流し込まずにアイスクリームを投げているなんて。

 そんなの絶対、ありえない!


 激しく狂乱した現状を目の当たりにしながらも、あたしはどうしていいかわからず、呆然と立ち尽くしていた。

 騒音を聞きつけたクラスメイトが、調理場からぞろぞろと出てきては、その異様な光景に目を丸くする。


「どうか食べ物を投げないでください! ああ、飲み物もダメですってば、きゃあっ!」


 笹峰さんが舞台に上がって、お客さんの熱を冷まそうと声をかけていたけど、次の瞬間にはクリームソーダまみれにされていた。


「ちょっと、歩境さん! あなたもノリノリで歌ってないで、この状況をどうにかしてよ!」

「とりあえず、演奏をやめて!」


 水野さんや浜村さんは、舞台で歌っている美野ちゃんや演奏する委員長を押さえようとつかみかかる。

 だけど、美野ちゃんたちが軽く腕を振るっただけで、つかみかかったふたりは弾き飛ばされてしまった。


「ちょっとみなさん、どうしたんですか? …………っ!?」


 咲先生も尋常ではない騒ぎを聞きつけたのだろう、教室に駆け込んできたものの、あまりの凄惨な光景に声を失う。


「いったい、どうなってるの? 笑ちゃん、わかる……?」


 異常な事態となっている原因について、一応妖怪の端くれである笑ちゃんなら、あるいはなにかわかるかもしれない。

 無意識のうちにそんな淡い期待にすがろうとしたのだろう、あたしは笑ちゃんに問いかけていた。

 その声に応じる彼女の声は、期待していた答えをもたらしてはくれなかった。


「わ……わからないですの。でも……」


 笑ちゃんはなにかを感じている。それだけは、あたしにもわかった。

 そんなあたしたちの横に、すっと小明麻さんが並ぶ。いつもながらの神出鬼没ぶり。


「これは、荒井さんのせいね。どうやら料理に使われた野菜が原因みたいですわ」


 こんな凄まじい光景を前にしても、いつもどおりの冷静な表情を保ったまま、彼女は淡々とした声で言いきった。


 ……荒井さん?


 昨日も言ってたよね、荒井さんが見当たらないとかって。

 その人って誰なの?

 どうしてその人のせいで、こんなことになるの?


 それに野菜って、美野ちゃんが譲ってくれたやつだよね?

 荒井さんって人が、どうして美野ちゃんの野菜につながるの?


 あたしは怒涛のように押し寄せる疑問で頭をいっぱいにしながらも、それを尋ねることはできなかった。


 小明麻さんが、すでにあたしの横にはいなかったからだ。

 気づけば笑ちゃんも、あたしのそばから消えていた。

 ふたりとも、いつの間にやら舞台の上に飛び乗っていたのだ。


 あたしにはわけがわからず、その場でおろおろすることしかできなかった。

 でも、


「かのりんも、来るですの!」


 こちらに視線を向ける笑ちゃんが、あたしをいざなう。

 躊躇する思いを振り払うと、あたしは意を決して舞台の上へと踏み込んだ。


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