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相方は座敷ワラシ!  作者: 沙φ亜竜
第5章 清らかな歌声響く昼下がり
29/36

-5-

「ど……どうも~、『のりわら』です~……」

「ですの~!」

「よっ! 待ってました~!」

「香紀、頑張るんだよ~!」

「もごもごもご~!」


 あたしと笑ちゃんが舞台に上ると、両親とお姉ちゃんが大きな声援を送ってきた。

 というか、お姉ちゃん、口の中の食べ物はちゃんと飲み込んでよ! 恥ずかしいなぁ、もう……。

 家族が見ている前でお笑いライブなんて、めちゃくちゃやりにくいよぉ……。


 それに、さっきもお父さんに写真を撮られて嫌だったけど、この舞台衣装はスカート丈が短くて、太ももの辺りがスースーするくらい。

 お客さんたちの座る席からはある程度離れているとはいえ、舞台は客席よりも少しだけ高い位置にある。

 激しい動きが必要なわけではないけど、笑ちゃんのボケに思いっきりツッコミを入れたら、その拍子に見えてしまわないだろうかと考えると、恥ずかしくなってくる。


 そう思いながらも、他のお客さんだっているのだから、ここで尻込みしているわけにもいかない。

 あたしは気を取り直して、その場で思いついたことを喋り始めた。


「笑ちゃん、どうしてそんなにサラサラのおかっぱ頭なの?」

「え? これはカツラですの」


 あたしの問いに、さらりとそんな答えが返ってきた。


「ええええ~~~っ!?」


 思わず本気で驚きの声を上げてしまう。


「あの……冗談、ですよ?」

「あ……、そ……そうよね~。あ~びっくりしたわ」


 ほっと胸を撫で下ろすあたし。

 でも、笑ちゃんが微妙な視線で見つめている。

 カツラだったら、頭に思いっきりツッコミを入れてしまったら大変なことになっていたかもしれない。そう思ったから、ほっとしていたのだけど。


 そこまで考えて、はっとする。

 あ……。これって笑ちゃんのボケだったんだ。それなのに、あたしったらツッコミを入れ忘れて……。


「あう、ごめん! ボケにちゃんとツッコめないなんてっ! ツッコミ失格だわっ!」


 わ~~~~んと、大声を上げながら舞台に突っ伏して泣き始めるあたし。


「いいんですの。顔を上げてほしいですの~!」


 笑ちゃんがそっとあたしの肩を叩く。

 だけど、あたしは顔を上げることができなかった。


 なぜって、それは……。

 あたしの頬には、本当に涙が流れていたからだ。


「かのりん……」


 ひっくひっくと嗚咽を漏らし続けるあたしに、さすがの笑ちゃんもおろおろするばかり。


「泣き真似、上手ね~」

「ほんとだね。将来、いい女優さんになれるかもしれないね~」


 なんて両親のおちゃらけた言葉が聞こえてくる。

 自分でも、なんとかしないといけないのはわかっていた。

 どうにか涙を拭いて、あたしは立ち上がる。

 そして、


「まったく、ダメじゃないの! ボケはわかりやすくしてくれないと! 笑ちゃんこそボケ失格だよ! お笑い失格だよ! 人間失格だよ!」


 涙声をごまかすように、勢いで言葉を並べ立てた。


「……ボクは座敷童子ですの」


 なんとなく寂しそうな顔をしながら言い返してくる笑ちゃんに、あたしはまたしてもツッコミを入れられなかった。



 ☆☆☆☆☆



「……やっぱり、あたしじゃダメだよ……」


 舞台から下りて料理場のほうへと引っ込んだあたしは、悔恨の念を隠せなかった。

 笑ちゃんがそっと肩に手をかけて慰めてくれる。


「あたし、お笑いなんて向いてないんだよ……」


 そうつぶやくあたしを、笑ちゃんはなにも言わずに、優しげな瞳で見つめていた。


「ん~。失敗といえば失敗なのかもしれないけど、もともと行き当たりばったりなんだから、あれはあれでよかったんじゃない? お客さんは結構楽しんでたと思うよ?」


 調理場の陰からずっと見ていてくれたのだろう、笹峰さんがフォローの声をかけてくれた。

 それでもあたしは、自分の心を静めることができなかった。


 昨日今日と舞台に上がってきて、そのたびにお客さんの笑顔をもらい、すごく嬉しい気持ちになっていた。

 だからこそ、失敗が悔しい。

 だからこそ、涙まで溢れた。


 あたし自身驚いているのだけど、笑ちゃんとふたりだからなのか、お笑いライブなんていう恥ずかしいイベントにも、本当に心から楽しんで挑むことができていたのだ。


 だけどさっきは、失敗の連続だった。

 自分が悪いという、やり場のない怒りを抱えたあたしは、ついカッとなっていたのだろう。

 優しくあたしの頭を撫でてくれている笑ちゃんに向かって、こんなことを叫んでしまった。


「笑ちゃんがいるから、あたしまでこんなことに巻き込まれちゃってるんじゃない! あたしは、お笑いコンビなんてやりたくなかったんだから!」


 叫び声とともに再び溢れ出た涙が、あたしの両頬を伝って流れ落ちていく。


「もうイヤ! 笑ちゃんなんて、いなければよかったのよ!」


 残酷とも思える言葉は、あたしの意思に反するように、次々と口から飛び出していった。

 笑ちゃんはあたしの頭を黙って撫で続けながらも、その瞳には言いようのない寂しさを浮かべているようだった。


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