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ようかい喫茶は、思いのほか好評のうちに進み、一日目の春祭は無事終わりを告げた。
明日もこの調子で頑張りましょう! と咲先生が気合いの声を響かせる。
先生はずっと、端っこの席に座ってコーヒーを飲みながら見ていただけだったと思うのだけど。
ともかく、さすがに疲れたあたしは、家に帰って夕飯を食べると、すぐに眠ってしまった。
次の日の朝、
「今日は見学に行きますからね~!」
「カメラの準備もばっちりだよ!」
「あんたがどんな天然な失敗してくれるか、楽しみだわ!」
元気いっぱい期待いっぱいといった感じの両親とお姉ちゃんの声に頭痛を覚えつつ、あたしは笑ちゃんとふたり、学校へと向かった。
二日目となっても、大盛況の様相は変わらず。
午前中は一日目と同様の好評な雰囲気に包まれたまま、これといったトラブルもなく、予定されているパフォーマンスの演目も順調に進んでいった。
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「かのりんに用事があるときは、このポニーテールをぎゅっとつかんで引っ張ればOKですの」
そう言いながら、笑ちゃんはあたしのポニーテールにしている髪を握って、強く引っ張った。
当然ながら、あたしの頭は後ろに引き倒される格好となる。
「ぐえっ、痛いってば! えい、必殺、ポニーテールクラーッシュ!」
頭を振り回して長いポニーテールに勢いをつけると、笑ちゃんの顔面に見事ヒット!
「ひうっ! 痛いですの~! 枝毛が多くてチクチクですの~! ささくれ立ってますの~!」
「んなわけないっちゅーの! 綺麗で無敵なキューティクルでしっとりさらさらトリートメントよ!」
いまいちよくわからない言葉を叫びながらツッコミを入れるあたしだった。
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「あなたを想えば~心は揺れる~ 揺れる心は~想いをつなぐ~
いつでもあなたの~笑顔がほしい~ いつも素直で~いられるように~」
美野ちゃんが今回はしっとりしたバラードを歌っていた。
ギターと琴の音も心なしか切なさを誘う。
舞台で歌う曲はすべて、春祭のために美野ちゃんが作ったと聞いている。
バラードもあればポップな曲もロック調の曲までもありながら、それらすべての曲が、ストレートな歌詞と繊細なメロディーでとっても胸に染み込んでくる感じだった。
多彩な才能があるんだな~と感心してしまう。
といっても、一番あたしの目を引いていたのは、無心でギターを弾いている友親くんの姿だったのだけど。
必死に頑張ってるな~。それに、やっぱりギターってカッコいいわ。
なんて考えながら友親くんのことばかり見ていたからか、美野ちゃんと委員長に鋭く睨まれたような気がした。
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「今回のお相手は、こちら! 花子さんです!」
小明麻さんの隣には、小学生くらいだろうか、赤いスカートをはいたおかっぱ頭の女の子が立っていた。
……って、喫茶店でトイレの花子さんは、さすがにちょっと……。
慌てた視線を向けるあたしに、ウィンクを返す小明麻さん。
「花壇の妖精、花子さんですわ。ご安心くださいませ。うふふ」
「はいっ!」
小明麻さんの声と合わせるかのように、花子さんが両手を掲げた。その手のひらからは、色彩豊かな花束が現れる。
「絶対に、確信犯でしょ! っていうか、結局また手品かい!」
思わずツッコんでしまったあたしは、「よっ! 根っからの芸人女!」などとお客さんから茶々を入れられてしまった。
それにしても、普通にいろんな妖怪やら妖精やらを連れてくる小明麻さんって、ほんとに得体が知れないわ……。
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「困ったわね、どうしようか……」
ふと調理場のほうに顔を出してみると、クラスメイトたちがなにやら悩んでいるようだった。
「どうしたの?」
「あ……長波さん、お疲れ様。あのね、パフォーマンス、すごく好評なんだ。それ自体はいいことなんだけど、実は食材が足りなくなってきてるのよ」
調理部隊を取り仕切る浜村さんはそう言いながら、辺りに視線を巡らせる。
確かに、朝来たときにはたくさんあった食材が、もうほとんどなくなっているようだった。
昨日使った余りの他に、今朝も新たに持ってきていたはずなのに、ここまで少なくなるなんて。
日曜日を侮ってはいけないということか。
「あら、それなら、これを使えばいいわ」
不意に澄んだ声が響く。声の主は美野ちゃんだった。
美野ちゃんは重そうに両手でダンボールを抱えている。
そのダンボールの中には、たくさんの野菜が入っていた。
「とっても新鮮な野菜よ。分けてもらったものだし、遠慮しなくていいから、じゃんじゃん使っちゃって」
笑顔の美野ちゃんから、浜村さんは素直に野菜を受け取る。
「でも、野菜ばっかりだけど、大丈夫なの?」
「ふっふっふ、そこは料理部でもあるあたしの腕の見せどころってやつよ。う~ん、燃えてきた~!」
浜村さんはなんだかメラメラと熱く燃えたぎっている様子。調理場の温度がぐんぐん上がっていくように感じられた。
というか、熱っ!
……なんてね。
実際には、調理場では火も使っているから、そのせいで熱くなっているだけなのだけど。
それにしても、浜村さんってこういう人だったのかぁ。
クラスメイトの意外な一面を見ることができて、ほのぼのした気持ちに包まれる。
ともあれ、このまま調理場にいたら、汗だくになってしまう。
人前に出る身としては、ちょっと問題ありだろう。ステージ衣装も着たままだから、汚れちゃうだろうし。
「それじゃあ、頑張ってね」
浜村さんにそう声をかけて、あたしはそそくさと調理場から出ていった。




