表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相方は座敷ワラシ!  作者: 沙φ亜竜
第5章 清らかな歌声響く昼下がり
26/36

-2-

 美野ちゃんが歌っていた。

 ギターと琴の演奏に合わせて。


 伴奏としてはやっぱり、ミスマッチ。

 ともあれ、そんなミスマッチな音が、美野ちゃんの美しい声の響きと絡み合って、なんだかとっても心地よい旋律へと昇華していた。


 うわ~、美野ちゃん素敵!


 ちょっと大柄な体格だから、全身で声が反響しているのかもしれない。

 さすが、みのただわ。……なんて言ったら、殴られるだろうな。


 美野ちゃんの歌に引っ張られるかのように、ギターと琴の演奏も心に響いてくる。

 委員長のほうは習っていたことがあると言っていたとおり、さすがに上手く琴を弾いていた。

 一方の友親くんは、おそらく趣味で少々たしなんだ程度なのだろう。頑張ってはいるけど、たまに音やタイミングがずれてしまう。

 だけど必死になって弾いている様子も相まって、思わず応援したくなるような雰囲気を漂わせていた。


 お客さんたちにもおおむね好評のようで、目をつぶって旋律に酔いしれながら飲み物や軽食類を喉に流し込んでいる姿が、そこかしこで見受けられる。


 と――。


 こほっ、こほっ。


 不意に美野ちゃんが咳き込んだ。数瞬のあいだ、歌が途切れる。

 委員長と友親くんは演奏を止めたりはしなかったものの、美野ちゃんに心配そうな視線を向けていた。

 視線に気づいた美野ちゃんは黙って頷くと、


「ごめんなさい。ちょっと息継ぎに失敗してしまいました。でも、もう大丈夫です。曲はまだまだ続きますよ。みなさん、思う存分お聴きください!」


 ちょうど間奏に入ったタイミングを利用し、美野ちゃんはMCを挟んでお客さんを盛り上げる。

 それはさながら、最初から予定されていたパフォーマンスのようにすら思えた。


 ただ、あたしは少し気になっていた。

 さっきの咳の音に、なんとなくだけど、心に引っかかるような響きを感じたからだ。


「美野ちゃん、どうしたの? もしかして、風邪?」


 歌い終えた美野ちゃんが舞台を下りてくるやいなや、あたしは彼女に駆け寄って、心配の声をかけてみた。


「最近寒暖の差が激しかったもんね……。無理しちゃダメだよ?」


 あたしの言葉に、ふっと優しい笑顔を浮かべた美野ちゃんは、


「大丈夫よ。風邪なんかじゃないわ。最近は新鮮な野菜を食べてるから、健康そのものよ」


 と答えてくれた。

 それでも、なにかが引っかかる。

 新鮮な野菜って……。


「もしかして、このあいだ洗ってたやつとか?」

「ええ。たくさんあるからって、おすそ分けしてもらったのよ」


 あたしの疑問に、再び素直に答えてくれる美野ちゃんではあったのだけど……。

 どういうわけか微妙に違和感を覚え、あたしは首をかしげるのだった。



 ☆☆☆☆☆



 美野ちゃんたちに続いて、今度は小明麻さんとそのお友達によるパフォーマンスが始まった。

 この人の場合、お友達、というのがとっても不安を誘うところだけど。

 今舞台に上がっているのは、小明麻さんとサクラさんのふたりだけだった。


 舞台には教卓が乗せられ、ふたりはその奥に立つ。

 そして教卓の上にはなにやらシルクハットが逆さまの状態で置かれていた。


 これって、もしや……。


「さて、取り出しましたるこのスカーフ。これをこちらのシルクハットにかぶせまして、ワンツースリー! はいっ!」


 小明麻さんのかけ声とともに、サクラさんが両手を広げると、無数の桜の花びらが舞い踊る。


「なんと中から、ウサギが……」


 やっぱり、手品かい!


「と思ったら、ウナギでした~!」


 ぎゅっと器用に握ったウナギを、サクラさんにパスする小明麻さん。

 サクラさんは笑顔でウナギを握ろうとするけど、上手くつかめない。

 慌てて手を上下交互に握り直して、滑るウナギと格闘するサクラさんは、額に汗を浮かべながらも、いつものたおやかな笑顔のままだった。


 大人っぽい雰囲気で微笑みを絶やさない女性と、ビチビチ全身をくねらせる活きのいいウナギのコラボレーション。

 なかなかシュールな絵面なのかもしれない。


「うふふ、わたくしは舞台に立つたびに、毎回違ったパフォーマンスを予定しております。みなさま、何度も足を運んでいただけると嬉しいですわ」


 ひとしきりコメディータッチな手品を披露したあと、小明麻さんはそう言って締めくくった。


「毎回違うパフォーマンスをするなんて、すごいね~」


 舞台から戻ってきた小明麻さんに、あたしはすかさず話しかける。

 最初は微妙な手品、なんて思っていたけど、いつの間にやらその一風変わった雰囲気に引き込まれていた。

 お客さんと一緒になって拍手していたのは舞台上の小明麻さんにも見られていただろうから、なんとなく恥ずかしくなってしまい、自分から話しかけて話題の主導権を握る作戦に出たのだ。


「うふふ、ありがとうございます。でも、荒井さんが見当たらないんですよね。どこに行ってしまったのかしら」


 荒井さん? クラスメイトにはいないし、手伝いをお願いした他のクラスの生徒なのかな?

 そう思って詳しく尋ねたかったのだけど、次はまた、あたしと笑ちゃんの『のりわら』の出番だ。


 舞台のほうから、あたしたちを呼ぶ司会進行役の三橋くんの声が聞こえてくる。

 後ろ髪が引かれる思いを感じながら、あたしは本日二度目の舞台へと赴くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ