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「ど……どうも~、の……『のりわら』です~」
「ですの~!」
ちらほらと席に座っているお客さんたちが、こちらに目を向ける。
春祭が始まった紋白中学校の校内は、人でごった返すというほどではないものの、普段と比べたら人口密度も格段に増し、祭特有の独特な雰囲気も相まって、かなりの熱気で満たされていた。
秋の文化祭と比べると規模が小さめにはなってしまうけど、それでも人はお祭騒ぎが大好きなものだ。
いろいろなクラスや部活の出し物を見て回ってきたお客さんたちは、うちのクラスで販売している軽食や飲み物ですらも、満足そうに口へと運んでいた。
笑顔と楽しい気持ちが、最高の調味料となっているのだろう。
そしてそんなお客さんたちの前に今まさに飛び出した、あたしと笑ちゃん。
クラスの演目のひとつ、『のりわら』のお笑いライブが始まるということで、興味津々の瞳で見つめられているあたしの心には、余計なプレッシャーが生まれていた。
緊張で噛み噛みになってしまったのも、笑って許していただきたいところだ。
そんなあたしの様子と相反するように、笑ちゃんはとってもノリノリ。
躊躇していたあたしに満面の笑顔を送りながら、「早く行くですの!」と急かしたほどだった。
なにをやるのかすらまったく決まっていない状態で、満席ではなくとも、それなりに入っているお客さんを相手に、お笑いライブをしなければならないなんて。
これって、どう考えても罰ゲームかなにかなんじゃ……。
「ちょっと、なにをぼーっとしてるんですの? 早くいつものアレ、やるですの!」
「……え?」
突然かけられた相方からの声に、あたしは目を丸くしていた。
いつものって、笑ちゃん……。それは、ムチャ振りってものだよ!
とはいえ、すでに期待の視線を注いでいるお客さんたちを、しらけさせるわけにはいかない。
そんなことになったら、うちのクラスの出し物全体の評価を落としちゃうもんね。
「え~っと……、ぐ……」
「ぐ?」
意を決して言葉を発し始めようとするあたしを、笑ちゃんがおかっぱ頭を傾けて見つめている。
「ぐ~、ぐ~、ぐ~、ぐ~、ぐ~、ぐ~、ぐ~……ぐぅ~……ぐぉ~……」
あたしは……東京なつみさんのギャグを、やってみました。
勢いよく決め言葉を矢継ぎ早に繰り出しながらも、最後には突然居眠りし始めてイビキをかくところまで、完璧にコピー致しました。
「古いですの! それに、人の芸をパクるなですの~!」
スパーン! スパーン!
いい音を響かせて、笑ちゃんがあたしの頭を二回連続で叩く。
笑ちゃんのツッコミの勢いによって、ポニーテールが乱れ舞う。
……って、これじゃあ、いつもと立場が逆だわ!
「あのねぇ、笑ちゃん! ノリノリで気合い入ってるのはわかるけど、あなたはボケでしょ! ちゃんとボケて、あたしにツッコミやらせなさい! そんでその叩きがいのあるおかっぱ頭を叩かせなさいよ! 笑ちゃんのほうが、中身も空洞な分、いい音がするんだから!」
「ひうっ!」
あたしのいきなりの豹変ぶりに驚いたのか、いつもどおりの悲鳴を上げる笑ちゃん。
「はう~ん、かのりん、鬼を通り越して、閻魔さまの形相ですの~! 怖いです~。お嫁の貰い手、絶対にないです~!」
「う……うるさいっ!」
スパコーン!
手馴れたツッコミが、笑ちゃんのサラサラな髪の毛を揺らす。
やっぱり空洞なのだろうか、とってもいい音を反響させる、笑ちゃんのおかっぱ頭だった。
なんというか、いつの間にか笑ちゃんのペースに乗せられて、あたしは我を忘れてしまっていた。
でもそんな『のりわら』を、苦笑まじりかもしれないけど、みんな笑顔で見てくれているようだった。
ま、頭に血が上りきった状態のあたしには、そんなお客さんたちの様子を冷静に見ていられる余裕なんてなかったのだけど。




