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相方は座敷ワラシ!  作者: 沙φ亜竜
第3章 サクラの花びら舞う頃に
17/36

-5-

 部室を出て委員長を追いかけたあたしたちだったけど、すぐにその姿を見失ってしまった。

 あたしと美野ちゃんのあとには、友親くんと小明麻さんも続いて走ってきていた。


「はぁ、はぁ……。もう! 委員長、どこに行っちゃったのよ!?」


 走ったことに加え、今日のこの暑い気候もあって、あたしの額からは汗がだらだらと流れ落ちていた。

 隣に並ぶ美野ちゃんも、息苦しそうに、したたり落ちる汗を拭っている。


「嫉妬桜に取り憑かれているってことは、そっちに向かったんじゃないかな?」


 同じように走ってきたはずの友親くんは、見たところ汗なんて全然かいていないように見えた。

 う~ん、基礎体力の差なのだろうか。

 どちらにしても、汗だくの友親くんなんて、あまり想像できないな。


 と、そんなことを考えてる場合じゃないんだってば。


「そうね……。行って、みましょう」


 息を切らしながらの美野ちゃんの言葉に従い、あたしたちは一路、嫉妬桜の植えられている池のほとりへと向かった。



 ☆☆☆☆☆



 以前、美野ちゃんと委員長は、数年ごとに行方不明になる生徒がいると言っていた。

 もしかしたらそれは、サクラさんの仕業だったのかもしれない。

 そして、委員長はこのまま、いなくなってしまうのかもしれない。


 そんな恐ろしい考えに囚われながら、あたしは靴に履き替え、昇降口の外へと飛び出す。

 花びらが雪のように舞い散る嫉妬桜の木の下に、誰か立っているのが見えた。


「サクラさん!」


 美野ちゃんの呼びかけに、その人はゆったりと長い髪を揺らしながら微笑み返す。

 あたしたち四人が駆けつけるのを待っていたかのように、まっすぐこちらに視線を向けるサクラさん。

 あまりに穏やかな表情を浮かべているので少々戸惑いながらも、あたしはサクラさんをキッと睨みつけるようにしながら言葉をぶつけた。


「あの……、委員長を……鳩屋さんを解放してくださいっ!」


 ふわぁっ。

 春の香りを含んだ温かい風が、優しく吹き抜けていく。


「……わたしは……」


 サクラさんがつややかな唇を開き始めた、そのとき。

 あたしたちのすぐ背後で、カサリと地面に降り積もった花びらを踏みしめる音が響いた。


「委員長?」


 友親くんの声で、あたしも振り向く。そこには、委員長が立っていた。

 ただ、普段どおりの委員長ではない。

 なにやら異様な雰囲気をその身にまとっている、そんな印象が感じられた。


「あっ……!」


 笑ちゃんがなにかに気づいて驚きの声を上げる。

 その声に呼応するかのように、委員長はゆらりと右腕を水平に掲げる。


 委員長の手には、木洩れ日にキラリと反射する鋭い刃のついた彫刻刀が握られていた。


 バサッ!

 スカートをひるがえらせながら、委員長はその彫刻刀を勢いよく振り下ろした。


 ――あたし目がけて。


「きゃっ!?」


 とっさに身をよじって、どうにかその一撃をかわす。


「ちょ……ちょっと、委員長! どうしたの!?」

「あうあうあう、かのりん! 委員長さん、完全に取り憑かれちゃってますの~!」


 あたふたしながらも、笑ちゃんが叫んで注意を促してくれる。

 委員長の瞳は、なにかに操られているかのように、虚ろな陰りをたたえていた。


「委員長! やめなさいよ!」

「ダメだよ、委員長!」


 美野ちゃんと友親くんも声を荒げて委員長に呼びかける。

 それでも、まったく彼女の耳には届いていない様子。


 委員長は再び彫刻刀を握り直し、次の一撃を繰り出してきた。


「やだ、委員長、やめて!」


 あたしは彼女の勢いに圧され、どんどん後ずさる。

 友親くんたちは委員長を止めようと声をかけるものの、振り回される彫刻刀に、近づくことさえできない。


「委員長……!」


 ドンッ。


 彫刻刀から逃れるため下がり続けていたあたしの背中が、なにかにぶつかった。

 いつの間にやら、あたしは嫉妬桜の根もとまで追いつめられていたのだ。


 ダメ……、もう下がれない……!


 委員長の腕が振り上げられる。

 あたしは、ぐっと唇を噛みしめ、目をつぶって身をすくめる。


「ダメですの~!」


 笑ちゃんの叫び声が聞こえると同時に、あたしの耳もとに、ズシャリという鈍い音が響いた。


 だけど……。

 続いて襲いくるはずの痛みは、いつまで経ってもなかった。


 おそるおそる目を開けると、委員長の右腕には、笑ちゃんが自分の両腕を絡めるようにしてすがりついていた。

 そして委員長の握る彫刻刀は、あたしの首筋をかすめ、深々と突き刺さっていた。


 嫉妬桜の木の幹に――。


「わ……わたし、なんてことを……!」


 委員長は真っ青になりながら震えた声をしぼり出す。

 その瞳は溢れ出してきた涙でいっぱいになり、さっきまでのような虚ろな陰りはすっかり消え去っていた。


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