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相方は座敷ワラシ!  作者: 沙φ亜竜
第3章 サクラの花びら舞う頃に
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-1-

 あたしたちの通う紋白中学校は、校門から一歩中に入るとロータリーになっている。


 学区の割り振りの関係上、ちょっと遠い地域の人たちも通っているため、その配慮として通学バスが用意されているのだけど。

 使用できるのは、だいたい徒歩三十分以上はかかる地域になるから、利用者はそれほど多くない。使っているのは、油菜市の北側に住んでいる一部の生徒たちだけとなっている。

 そのバスが円滑に通れるようにするためのロータリーということらしい。


 でも、単純に景観を考慮して、という理由もあるのかもしれない。

 ロータリーの中央には、芝生に囲まれた色彩豊かな花時計が設置されているからだ。


 そしてそのロータリーの周囲には、桜の木が植えられていて、春にはさらなる彩りのアートを形作る。

 もう四月も半ばを過ぎ、かなり散ってしまってはいるけど、淡いピンクに包まれた幻想的な雰囲気が漂っていた。

 あたしはなんとなく心安らぐこの景色が、とっても気に入っている。


 そんな桜の木々の並ぶ片隅に、澄んだ水をたたえた池がひっそりと存在する。

 池のほとりには、校内で一番大きな桜の木が立っている。

 そのかたわらを今、妖怪部の部員一同が通過しようとしていた。


 肩にひらひらと舞い落ちてくる桜の花びらに心を和ませながら、他愛のないお喋りに興じつつ、歩みゆくあたしたち。


「かなり散っちゃってるけど、ここの桜って、ほんとに綺麗だよね~」


 あたしは感嘆の声を上げる。

 この場所を通るたび、いつもそう思っていたから、自然と口からこぼれ落ちたといった感じだった。


「うん、そうだね」

「お花見でもしたい気分よね」


 委員長と美野ちゃんも、すかさず同意してくれる。


「ただ……もうこの時期だと、散ってくる花びらが多すぎるかもしれないね」


 友親くんが、遠慮がちな声で美野ちゃんのお花見案に反論の言葉を添えた。


 確かに、友親くんの言うとおりかもしれない。

 お弁当を広げて食べていたら、きっと数十分くらい経つ頃には花びらで山盛りになっているだろう。

 それくらいの桜吹雪が、この場所には舞い乱れていた。


「だいたい、お花見なんて、妖怪部の活動って感じじゃないわよね」


 美野ちゃんがそう言った。だけど意外にもその声に、小明麻さんが異論を唱える。


「いいえ。ここはまさに、妖怪部にうってつけの場所と言えますわ」

「え? どうして?」

「ふふふ、この一番大きな桜の木、実は嫉妬桜と呼ばれているんですよ」

『嫉妬桜~?』


 あたしの他に、美野ちゃんと委員長の声も重なる。

 こんなに綺麗な桜なのに、どうしてそんな名前がつけられたのだろう。


 不思議には思ったけど、とんでもない答えが返ってくる可能性もあるし、訊いてしまうのもなんとなく怖い気がした。

 もちろん、小明麻さんがベラベラと喋り始めてしまったら、聞いておこうと思うくらいの好奇心はあったのだけど。

 結局、名前の由来だとか、この木にまつわる噂だとか、そういった話が語られることはなかった。


 あたしたち一行は校門を通り抜け、いつもの通学路に差しかかる。

 南北に細長い学区の最南端に位置する学校だから、ほぼ全員の家が途中までは一緒の方向ということになるのだ。

 もっとも、方向こそ一緒だけど、幼馴染みである美野ちゃんや友親くんとでも、お互いの家は結構遠い。だから、朝、一緒に登校したりはしていなかった。


 それはともかく。


 ――嫉妬で怒り狂った女性の怨念なんかが、あの桜の木には宿ってたりするのかな?


 田んぼに挟まれた静かなあぜ道。

 ここまで来てもまだ、あたしはぼんやりとさっきの嫉妬桜について考え続けていた。

 自分の中で、少し恐ろしい想像を膨らませてしまい、思わず身を震わせる。


「……怖いわ……」


 無意識につぶやいていたあたし。

 そのつぶやきは聞こえなかったかもしれないけど、ぶるっと震えたことに、友親くんは気づいてくれたのだろう。


「長波、寒いの? 春とはいっても、これくらいの時間だとまだ涼しい日もあるからね。上着あるけど、貸そうか?」


 優しく、そう声をかけてくれた。あたしには、その言葉だけで周囲が暖かくなったようにすら感じられた。

 もともと怖い想像によって身震いしただけから、実際に寒かったわけでもないのだし。


「ううん、大丈夫」


 あたしはなんだか恥ずかしくて、赤くなってきていた顔を見られないようにうつむくと、素っ気ない調子で返事をする。


「でも、かのりん、末端冷え性でしょ? 手でも握ってもらったら~?」


 そんなあたしの様子を見て取ったからか、美野ちゃんがニヤニヤ笑いを浮かべながら、からかうような言葉を投げかけてきた。

 はう……。そ、そんなの、恥ずかしい……。でも、温かそう……。

 なんて考えて、あたしは余計に真っ赤になってしまう。


「そうか……。冷え性って、大変みたいだよね。ぼくは冷え性じゃないから、長波の手を温めてあげられるかな?」


 って、友親くんまで、そんな乗り気になって……。


「い……いいってば、大丈夫よ!」


 思わず語気を強めて反論してしまう。

 というか、友親くんってば、あたしを異性としては全然意識していないってことなのかな……。

 ちょっとブルーな気持ちに包まれる。


「かのりん、素直じゃないですの……」


 そんなことを言い出す笑ちゃんには、当然ながらおかっぱ頭に平手ツッコミをお見舞いしておく。


「ひうっ! 痛いですの~……」

「長波、笑ちゃんをいじめちゃダメだよ? 大切な相方なんだからさ」

「ちょっと、とも……桜之城くんまで、あたしをお笑い芸人に仕立て上げようとしないで~! 楽しんでくれるのは嬉しいけど、こっちは恥ずかしいんだから~!」


 ぽかぽかぽかと、あたしは友親くんの肩口の辺りを軽く叩く。


「あははは! でも、いいと思うんだけどな~、長波と笑ちゃんの『のりわら』。作り上げられた笑いじゃなくて、意図しない自然な笑いっていうのが、すごくほのぼの感を与えてくれるんだから」

「う~、でもあたし、目立ちたくないもん~!」


 ぽかぽかぽか。そんなじゃれ合うようなあたしと友親くんの声が、夕暮れの通学路に響き続ける。

 ふと気づけば、委員長があたしのほうにじーっと視線を向けていた。


「……委員長、どうしたの?」

「え? ううん、なんでもないよ」


 あたしが問いかけると、委員長はすっと目を逸らし、すたすたと早足で歩き始めてしまう。

 怪訝に思いながらも、わたしにはそれ以上なにも言葉をかけることはできなかった。


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