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休み時間のたびに、教室のドア付近には野次馬たちが群がる。
そんなことが続いていたため、あたしは少し苛立ち始めていた。
とりあえず耳を塞いで、なにも考えず、ただ時間が過ぎるのを待つ。それが休み時間のスタイルとなりつつあった。
「なんか、大変そうだね」
ふと、すぐ横から声がかかった。
耳を塞いだ上、ドアのほうから野次馬たちの歓声がこだまする中でも、はっきりとあたしの耳に響いてくる、清々しささえ感じるような声音。
あたしの席のすぐ横に立ち、心配そうな視線を向けてくれていたのは、友親くんだった。
男性としてはちょっと高めながらも、落ち着いた雰囲気で包み込んでくれるその声に、あたしの心の荒波も穏やかさを取り戻していく。
「うん……。目立ちたくないのにな……」
両耳を塞いでいた手を下ろし、あたしは顔を上げながらつぶやく。
友親くんの優しげな表情が、カメラがズームアップしていくかのように、あたしの視界いっぱいに広がった。
言うまでもなく、それこそ吐息がかかるくらいの近距離に友親くんがいる、というわけじゃない。
普通に会話するときの間合い、といった程度の距離だ。
それでも、友親くんの言葉に安らぎを求める今のあたしには、彼以外まったく視界に入らない状態だった。
「だけど春祭のこともあるし、ぼくとしては、頑張ってほしいかな」
「え……?」
「長波、笑ちゃんと言い合ってるときとかさ、すごく自然っていうか、楽しそうに見えるんだよね」
「そ……そうなの?」
友親くんの言葉に、あたしは少し驚いて、思わず尋ね返していた。
あたしとしては、笑ちゃんがとぼけたことを言うから、それに対してついついツッコミを入れてしまっているというだけなのに。
確かに、笑ちゃんのおかっぱ頭をすぱーんと叩くと、なんだか心が安らぐような、不思議な気持ちにはなるのだけど。
「そういうのを感じたから、福原は『のりわら』なんて言って、ふたりがいつでも一緒に楽しく過ごせるようにしてくれたんじゃないかな?」
友親くんは優しい笑顔を浮かべたまま、そう言った。
さすがにそれは、買いかぶりすぎじゃないかなぁ……。
小明麻さんは絶対、面白がってやっている。彼女の「にたぁ~」って感じの笑い顔を思い浮かべると、そうとしか考えられない。
まだ訝しげな表情を解くことができないでいるあたしの様子を見て取ったのだろう、友親くんはさらに言葉を続けた。
「笑顔の長波を見てるとさ、周りのみんなも楽しい気分になれるんだよ。……もちろん、ぼくも、ね」
は……はうっ……。なんだろう、心の奥から温かさが湧き上がってくるような、この感じは……。
「そ……そうなんだ……。そ……それじゃあ、ちょっとだけ、頑張ってみよう、かな……」
なぜか熱くなり始めていた顔をうつむいて伏せながら、あたしはそう言葉を漏らす。
「……単純だね」
「ほんとね。でもそれが、かのりんのいいところなのかもしれないわ」
いつからいたのやら、突然、委員長と美野ちゃんが口を挟んできた。
「うわわわわ……! な……なによ、ふたりとも~!」
なんだかとっても恥ずかしくて、あたしは思わず裏返った声を上げてしまう。
そんな様子を、ふたりとも、温かい瞳で見つめていた。
「かのりん、真っ赤ですの。なんでそんなふうになっちゃうのですか? ぜひ詳しく解説してほしいですの」
いつの間に姿を現していたのか、笑ちゃんまでもが、そんなからかいの言葉をかけてくる。
「イヤじゃ、ボケ!」
あたしは思わず笑ちゃんのおかっぱ頭をスパコーンと引っぱたいていた。
「ひうっ! 痛いですの~……」
涙目になって抗議する笑ちゃん。
詳しく解説なんて、できるわけないじゃない。あたしにだって、よくわかってないんだから。
それに、友親くんもいる前でそんなこと、恥ずかしくて無理だよ。
……あれ? でも、どうしてそう思うんだろう?
心の中で首をかしげるあたしの耳に、大きな歓声が響いてくる。
「お~~~、やっぱり鋭いツッコミだったぞ!」
「笑ちゃんのボケも、洗練されてるわね~。ほんと、いいコンビだわ~!」
「春祭が楽しみだよな~!」
驚いて振り返ってみれば、ドアの辺りから身を乗り出し、野次馬の生徒たちが口々に歓喜の声を上げていた。
「随分期待されてるわね」
「これは是非とも、頑張ってもらわないといけないね」
美野ちゃんと委員長まで勝手なことを言う。
ちょっと、こっちの身にもなってよ~。と思わなくもなかったけど。
なんとなく、期待されるのも悪くないかもしれない、といった考えが浮かんできているのもまた事実だった。
う~ん、あたしって、流されやすいのかな。
でも、友親くんが喜んでくれるなら、あたしとしても嬉しい。
そう思って、ちょっとまだ引きつっていたかもしれないけど、微かに笑顔を浮かべてみる。
「長波、頑張ってね」
そんなあたしに、友親くんが優しく言葉を添えてくれた。
ほわわん。なんだか、胸の辺りがとっても温かくなる。
「ふふふ、ほんと、興味深いわ」
どこから湧き出てきたのやら、小明麻さんはあたしに鋭い視線を向けて、いつもと同じように「にたぁ~」と笑っていた。




