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『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました  作者: 皇 翼


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42.

ボケーっと気配と魔力を消しながら、眺めていた。正直、私だけであれば、対教師であろうとも、逃げ切れるだろう。しかし、ここ――3年A組の教室内には他の生徒もいる。


「いた!そこに魔力反応!消しきれてない、お金ちゃん」

「っひ!!殺される!!!」


流石に殺されることはないと思う、と心の中で冷静にツッコミを入れるが、それだけクレイヴ先生に鬼気迫るものがあるということだろう。

魔力を消せず、この教室から出るという判断もできないくらいに混乱しているこの教室に配置された生徒たちは囮……放置して、悠々と教室の窓から飛び出した。

風魔法を上手く使って、逃げ――ようとしたのだが。私は遠くから狙い撃ちされ、バランスを崩したせいで、第一講堂に落ちていった。


天井を突き破って第一講堂へ落下した私の視界は、一瞬、白く弾けた。

周囲を一緒にここまで落ちてきた瓦礫が舞う。立ち上った粉塵が光を反射して、何も見えない。咄嗟に防御結界を張れたお陰で助かった。


防御結界が軋み、衝撃を吸収しきったところで、私は体勢を立て直し、静かに立ち上がった。

防御は完璧だった。問題は、天井だ。


ぽっかりと開いた大穴から青空が覗いている。快晴だ~なんて現実逃避をする。

壊してしまったから、何かペナルティがあるのだろうか。だが、どう考えても学院側の耐久設計が悪い。そういうことにしておこう。学院内で、こういう競技を行うということは、壊れる恐れもあるということだ。それくらいは織り込んでおいて欲しい。


「うーん、今のは三十点かな」


こちらを値踏みする言葉が上から声が降ってきた。

穴の縁に、影。

風に外套をはためかせながら、ひらりひらりと優雅にゆっくりと降りてくる男。

ヒューゴ=ヴェインハルト。蒼氷(アズール)内で行われたブリーフィングにて、名前と顔だけでも覚えろと言われた教師のうちの一人だ。去年も大量の生徒を狩ったらしい。


「逃げる判断は正解。魔力の消し方も上手い。けどね」


ヒューゴ教諭は、片手を軽く掲げた。その指先に、微細な光が集束している。


「君、ピンポイントの攻撃に弱いでしょう」


さきほど私を撃ち抜いたのと同質の魔力。

放たれる魔力自体はそんなに大きくない。だが、か細い一点狙いで、重心を崩すには十分。防御結界の足の方にそれを放たれたが、その衝撃でこけそうになってしまう。

範囲を極一転に絞った攻撃、精密、姿勢を破壊する。

私が魔力を読むのが上手い下手ではないと思う。この人、範囲を小さくしている分、最後の最後まで分かりにくいうえ、魔法の軌道が途中で弾かれるように変化して、こちらに当たってくるのだ。さっきもそうだった。だから、変な方向にバランスを崩した。

何か仕掛けがある。


「……鏡?」

「ほう。初見で気が付くとは。君はやはり優秀だ。」


にやり、と笑う。

正解だったようだ。


「だからこそ、今潰す!僕の別れた妻と、子供の養育費のために!!見ているかい!?パパは頑張っているよ!!くらえ!浮気してごめんなさい!ビーム!!」


また、お金。

あと、離婚したっぽい原因の理由が汚い。最低だ。そして、魔法の名称(?)も、ダサくて汚い。

養育費を払っているっぽいのは偉いが、それ以前の問題だろう。教師に対して失望しそうだ。というか、こんな人たちに捕まって、お金にされたくない。

きっと見ているかというのは、この映像が魔法によって中継されているであろう先の家族に向かってだろうが、この姿は大人――人間として見せてよいものなのだろうか。

この学院の先生って、尊敬できなさそうな人が多いな。そう思い、反撃しようとしたところで、講堂の扉が勢いよく開いた。


「リーシャ!!」


飛び込んできたのは、セレナ先輩とモヒート先輩。続いて、ミレイアも転がり込んできた。勢い余って3人で扉を吹き飛ばしたようで、近くに居た私の方まで砂埃が舞った。

それのせいだろう。ヒューゴ先生の攻撃は、霧散していた。


「結界で天井ぶち抜いたの見えたよ!流石、格好いい!!破壊魔!同い年とは思えないくらいに、憧れるぅ!」

「大丈夫だ、壊した費用は全て学院が持つ。だから教師も暴れている。存分に壊せ」

「壊す前提ですか……」


集まってきたメンバーに、ヒューゴ先生が楽しそうに目を細める。


「ほらほら、固まると危ないですよ? 僕、まとめ取り派だから。お得なの、大好き」


そうニヤニヤと笑いながら、今度は複数個の魔法を放ってくる。

その全てが真っすぐ飛んでくるわけではなかった。全員が防御結界を発動させるが、セレナ先輩とミレイアはバランスを崩す。


「相手は光魔法を使っています。そしてそれを鏡で弾いて、いろんな角度から私達に――」


崩れた天井から差し込む光の中、私はすぐに状況を整理して伝え、何も分かっていない状態の3人に指示を出す。


「背中合わせに」


短く言うと、三人はすぐ動いた。短い指示だけで伝わるくらいに、私達は濃厚な日々を過ごしてきた。

四人で円を作るように立ち、互いの背を合わせ、身を預ける。

同時に防御結界を展開した。4人での防御結界。それぞれが正面から上方向にに集中して防御結界を張ることによって、より強固なものを作り出している。

直後――


「来るぞ」


空気が、歪んだ。

次の瞬間、光線が曲がるようにして四方から飛び込んできた。

直線ではない。壁をかすめ、柱を回り込み、あり得ない軌道でこちらに食い込んでくる。


結界に衝突。バチッと光が弾け、あたりに飛び散った。


「うわっ、何だこれ!?曲がってくる!」

「落ち着いて。光魔法が反射して向かってきているだけです」


鏡の魔法を置いて、色んな角度から攻撃してきているが、私達にはどこに反射するための鏡があるのかが分からない故に、次の攻撃を予想できない。厄介だ。しかし――


「このままこの競技の終わりまで耐え続けるか?」

「まさか」


私は足元に魔法陣を展開した。


「相手が光魔法を使うのであれば、視界ごと奪います」


魔法を組み上げる。

私達の防御結界の外側を覆うくらいに大量の水魔法。そこに更に包み込むように炎の魔力を重ねる。

普通なら相反する属性だが――私は強引に融合させた。


「複合魔法――」


空気中の水分を引き寄せる。そこへ炎の熱。

急激な温度差によって、次の瞬間、大量の白い霧が爆発的に広がった。講堂全体が、一瞬で白に飲まれる。

これはまさに、濃霧。数センチ先も見えないほどの濃い霧。


「なるほど、光を遮ったと。流石ですね。しかも使ったのは、複合魔法ですか。優秀だ。点数を見直さなくては」


上の方で余裕綽々と言った様子でヒューゴ先生が私に点数付けをしていた。まだ、()()には気付いていないようだ。

光魔法の攻撃はもう、通らない。それに加えて、向こうにこちらの行動も見えない。

だが――濃霧は光を散乱させる。反射の軌道も、これで狂う。鏡を使った精密な射撃は成立しない。


「見直す必要なんてありませんよ。ヒューゴ先生はこれから点数を付けられる側になるのですから」

「は?」

「右三時方向、柱の裏」


霧の中で、魔力の揺らぎが浮かび上がる。どうやら準備していた光魔法と鏡の魔法を捨てて、別の攻撃をしようとしているようだが、そんな暇は与えない。

霧粒に微量の魔力を混ぜてある。

それに触れた相手は、位置が分かる。それをこっそりとモヒート先輩、ミレイア、セレナ先輩に伝えた。

ヒューゴ先生からは見えないが――こちらには見える。


「今!」


三人が一斉に動いた。

風魔法。氷槍。雷撃。氷槍が雷撃に包まれ、それを更に上から風が包み込む。局所的な嵐。

それが叩き込まれた瞬間、苦しそうな声と共に柱の裏から人影が飛び出した。


「っぐぅ」


反応しきれなかったらしい攻撃で、体制を崩しているらしいヒューゴ先生に、更にそれぞればらばらに魔法を叩き込みまくった。私は炎、モヒート先輩は雷、ミレイアはカマイタチ、セレナ先輩は氷柱。


「やめ!!やめてくれ!!!降参だ!!もう降りる!」


案外あっさりとした降参を予想していなかったので、20秒くらいは呆然としながら魔法を叩き込み続けてしまったが、どうやらヒューゴ先生は、この勝負を降りたらしい。


「降参って言っただろ!!!死ぬかと思った!!!」

「おじさんの泣きべそ……う~~ん。きつい。これは、3点」


ミレイアが点数付けをしていて笑ってしまった。

泣きべそをかいている大人の男性は、確かにちょっと情けなかった。

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