41.
魔導祭一日目。
学院中に鳴り響く開始の鐘と同時に、悲鳴と爆笑と爆発音が混ざり合う。
今日の競技は――
「待てええぇ!!俺のボーナスども!!!」
マナ・タグ。
学院施設内すべてを使用した、全生徒参加型の鬼ごっこ。
ただし鬼は生徒ではない。
「俺は、お前たちの命を研究費に全つっぱするんだ!!」
教師陣だ。
捕縛した生徒の数によって、その年の特別手当――いわゆる『ボーナス』の金額が決まるという、あまりにも本気仕様の制度。毎年、大人げない教師たちが見られると評判らしい。
生徒側は、支給された小型魔道具『マナ・タグ』と呼ばれるものを身につけていおり、教師に触れられ、一定時間魔力を流し込まれればタグが捕縛人数にカウント。その時点で生徒は脱落となる。
そして教師毎の捕縛数と、蒼氷、紅炎、黄雷、白凛、黒狼の残り人数は即時、中央塔の巨大表示盤に反映される仕組みだ。
開始三十秒。学院の各所に設置されたモニターにはすでに数字が表示されていた。
《総参加生徒数:500》
《残存生徒数:408》
捕縛数(上位3名):
《クレイヴ教諭:58》
《ヒューゴ教諭:12》
《アルメリア教諭:9》
「は???」
まだ始まって三十秒しか経っていないのに、どこで狩った。
生徒の配置はチームごとなんてまとまっておらずに完全ランダム、教師の配置も完全ランダム。それなのにこの数?意味が分からなかった。
500人中、すでに92人が脱落。しかもそのうち58人を、クレイヴ先生一人で捕らえているらしい。
あり得ない。
生徒も教師も完全ランダム配置。事前に罠を張る時間などもなかったはずだ。
表示がチーム別画面へと切り替わる。
今日の正午まで3時間生き残った生徒の数で、組に入る得点数が変わる。1人1点。ちなみに、前年は全学年合わせて20人ほどしか残らなかったらしい。
《蒼氷 残り84/100》
《紅炎 残り83/100》
《黄雷 残り86/100》
《白凛 残り85/100》
《黒狼 残り74/100》
「黒狼が削られてる……!」
そういえば、黒狼はできるだけ同じチームで固まるなどと作戦会議が開かれていたのを耳に挟んだ気がする。集まって抵抗したところを一気に捕えられたというのだろうか。しかし、生徒が束になっても敵わないというのは、教師陣はよほどの化け物ぞろいということだろう。
数十メートル先の教室から、悲鳴が上がる。
私が配置されていたのは、3年A組の教室。この位置関係からして、B組かC組が急襲を受けたのだろう。
少し教室の外を覗いてみると、廊下の曲がり角、階段の踊り場、窓の外の回廊、あらゆる場所で教師たちが本気で狩りをしていた。
同じ教室にいた別の組の生徒たちが恐怖で顔を引きつらせていた。分かる。私もあの絵面には、かなりの恐怖心を感じた。お金がかかった大人の大人げなさと、醜さを見て恐怖を感じたとも言う。
魔法実践学担当の教師は風属性の魔法で一直線に廊下を滑空し、防御魔法担当の教師は結界で通路を一時封鎖し、召喚担当の教師は使い魔を大量に放つ。
そして。
静かに、確実に、生徒を追い詰めていく影が一つ。
「……追尾、捕縛」
低く落ち着いた声。
気づいた時には、退路が消えている。
廊下の床に淡く浮かぶ幾何学模様。
逃走経路を予測した先回りの簡易拘束術式。
クレイヴ=ハットランナー。
彼は走らない。
歩く。
しかし、確実に目に見える空間にいる生徒全てを捕縛していた。
「見ぃつけた。俺のお金ちゃんたち」
3年B組の前方、逃げ惑っていた五人が同時に足を止めた。
否、止めさせられた。
床に浮かび上がる三重の魔法陣。
減速、拘束、魔力干渉。
一つひとつは単体で発動するのであれば、冷静に対処して振り切れる程度の魔法だ。
だが重ね方が異常だった。逃走方向魔法で遮って選択肢を少なくしたうえで、動きを読んで最短距離に展開。逃げれば逃げるほど、自ら陣の中心に飛び込む形になる。
「う、動けな――」
指先がタグに触れる。
淡い光。短い電子音。
《クレイヴ教諭:63》
モニターの数字が跳ね上がる。
教室の中で、誰かが小さく悲鳴を上げた。
「……あんなのから逃げられるわけがない」
隣にいた別の組の生徒が呟く。
クレイヴ先生は視線を上げることなく、次の動線を見ている。
生徒の足音。魔力の揺れ。大人げなく、全てを読む。
「群れは、安心する。安心は隙を生む」
歩く速度は変わらない。
だが、気づけば包囲されている。
三階廊下、南棟へ抜けようとした十数人の進路が、同時に封じられた。結界ではない。
『進みたい位置』に魔法による罠が張られ、『クレイヴ先生への射程距離』に魔法を阻害するようなものが置かれる。
やりづらいことこの上ないだろう。生徒たちの考えや、魔法の射程距離は全て読まれている。
正直、あんなのと対峙はしたくない。せずに終わりたいが、残念ながら、魔導祭はまだまだ始まったばかり。




