39.
「モヒートだけズルいです。私も複合魔法を習いたいのに……!」
「モヒート先輩と同じく、俺も」
「え!?皆行っちゃうの!??仲間外れは嫌かなー」
モヒート先輩を連れていこうとすると、3人に呼び止められる。
釣られて……という形だが、3人ともが習いたいという意思はあるようなので、一緒に連れていくことにした。それに一緒に修練して分かったが、全員魔法に私と同じくらいの熱量を持って向き合っている。
そうじゃないと、ここまで綺麗な魔法は出せないと思う。
廊下を歩きながら、これから行く場所の説明をする。
もう明日には魔導祭だが、どうせ向こうに行ったら魔法の練習をすることになるのだから、そんなに変わらないだろう。
「これから行くのは、クレイヴ=ハットランナー先生の研究室です。先生がこの学院で一番複合魔法について詳しいので。私も先生から全て教わりました」
「え……クレイヴ先生って、あの近寄りがたい雰囲気の?アタシ、課題期限破ったら、めっちゃ怒られた」
「それは貴方の自業自得ですよ。ミレイア」
「多分、そのクレイヴ先生です。同姓同名の先生がこの学院にいないのであれば」
ミレイア曰く、クレイヴ先生は美形な上に授業でも物凄く厳しいらしく、あまり話しかけたことがないそうだ。
でも確かに、あの先生は完璧主義で厳しいところがあるかもしれないと言われてみればと思い出す。
「俺は、ほぼ初対面だな。2,3年の授業は一部しか持っていないからな、あの先生」
話を聞いてみると、私とミレイアの学年は授業の担当が多いようだが、2年、3年の先輩方はそんな先生がいるという名前を知っている程度の関係性らしい。
けれど、みんながみんな、クレイヴ先生に対して近寄りがたい雰囲気と答えていたので、先生のツンとした態度も問題だなと思った――。
******
「失礼します」
一応今回はノックしてから、研究室に入る。
いつもはする時もあれば……いや、大体勝手に入っているが、今回は客人がいるということもあり、ノックをして入った。
「リーシャ?ノックなんてして、どう――」
「彼らも複合魔法を教わりたいそうです」
そう言って、私の後ろにいたメンバーにも研究室に入ってもらう。
「モヒート=ウーヴ。3学年、専攻は魔法美術学です。リーシャさんにはお世話になっています!」
「セレナ=ヴァイスリート。モヒートと同じく3学年。私も専攻は魔法美術学です」
3学年の生徒の自己紹介を聞いて、思いだしたが、2学年の終盤で私達学院性は『専攻』というものを選ぶ。
魔法美術、実戦魔法、魔導工、召喚・契約、治癒・生命魔法、結界・防護術式、魔法理論、魔物生物、魔法薬学、錬金術の10個の学問のうちのどれかを選択して、進路を決める。
その中でも魔法美術学というのは、魔法を「攻撃」「防御」「生活」ではなく、表現・芸術・演出として成立させるための学問である。将来はスタチュエットの演者や演出家、魔法美術家、魔法彫刻家や魔法音楽家など様々な芸術方面への進路へ進んでいく者が属しているらしい。
他、実戦魔法専攻の人間は対魔物、対人戦を学び、軍や騎士団、討伐隊、ギルドなどに進路を進める。魔導工学は魔道具作成、治癒・生命魔法学は治癒士などなど、それぞれの分野のスペシャリストを作り出していく。
他の3年であるオーランドの専攻は確か――実戦魔法だった気がする。
とにかく、専攻によって将来は大きく変化していく。
「ガイゼル=リューネン。2年生です。専攻は、もちろんモヒート先輩と同じ魔法美術学を選択する予定です」
「ミレイア=ノクティス。リーシャと同じ1年生。専攻は――まだ決まってないかな」
ちなみに、私も専攻はまだ何も考えていない。
少し前までは、魔法理論や実践魔法で研究のためにずっと時間を使いたいと考えていたが、今は魔法美術学にも少し興味が湧き始めている。だから、未定である。
「……そうか。ここまでくるほどに、やる気があるのは良いことだ。これからよろしく頼む」
驚きと照れ。その感情がクレイヴ先生の表情から垣間見えた気がする。
受け入れたことからも分かるが、なんだかんだやる気のある人間に対しては面倒見が非常に良い先生なのだ。
こうして、複合魔法の基礎から皆、教わり始めた。クレイヴ先生が言っていたが、きっとすぐにそう簡単には使うことが出来ないが、続ければきっと芽が出るだろう。魔導祭の前日なのに、全力で複合魔法の勉強に取り組んでいる皆に少し笑みが漏れる。先生も、皆も楽しそうだ。
途中でマーカスが研究室に入ってきて、『なんか、増えてる……』と嫌な顔をしていたが、きっとそのうち私に対する対応と同じような感じになるだろう。ここは学院、学ぶための場所だ。マーカスも最近は私と喧嘩することは殆どなくなってきていて、現在は魔法についての議論の時間が過ごす時間の大半を占めている。
切磋琢磨して、自分の技術を上げ続ける。これこそが学院で学ぶ醍醐味なのかもしれない。
私は今、この現状にとても満足していると同時に、楽しいと感じていた。この時間がずっと続けばいいと思うほどに。これが『青春』と呼ばれるものなのだろう。
いつからか――この学院に来てよかったと、私は思えるようになっていた。




