36.
「スプライント、君は暫くこれを付けて生活するんだ」
学院に帰ってきた後。
モヒート先輩に談話室で待っているように言われて、部屋が近いからとミレイアと一緒にそこで暫く待っていた。
そして再会した彼は、月桂樹の装飾が施された銀色の一対の腕輪を差し出してきた。
「これは……なんでしょうか。もしかして……プロポーズですか!?そんな!私、決められた婚約者が――っ!」
「ヒューヒュー!禁断の愛だ!」
「馬鹿者どもが!!違う!!これは、魔力出力を最小まで抑えるための魔道具だ!!」
ミレイアも乗ってきて大げさに揶揄いはしたが、とてもありがたいと思った。
きっとあの時オーランドに邪魔をされて聞けなかった『特殊な道具』というものがこれなのだろう。装着してみると、私の腕よりも一回り以上大きいが、なんだか自身の魔力に対する違和感のようなものを感じる。
「そのまま炎魔法を撃ってみろ」
モヒート先輩に言われるままにいつもの調子で魔法を使おうとした――のだが。
「え……」
シュウゥンという間抜けな音と共に一瞬だけ火が灯ったと認識した瞬間に掻き消えた。
もう一度、今度は全力で魔法を出すが、先程よりも少しだけ大きな炎が出てから暫く浮いて、すぐに消える。いつもであれば、数時間は延焼しているのに。
「今、全力で撃ったのか??危ないだろう。そういうところだぞ」
「ごめんなさい」
そういうところが、陰で『破壊魔』と呼ばれる所以なのだろう。ちなみに私も最近、その渾名で呼ばれてるのが自分だということに気付いた。あまりにも失礼だと思う。
けれど、本当に自分ではなにも意識していないのに魔法の威力が制御されている。それなのに魔法を使うと、いつもよりも疲労感がどっと襲ってくる。
「これから君は、これを付けて生活するんだ。幸い、暫くまともに授業はない。魔導祭は学院を挙げての一大行事だからな。いろんな魔法を使って、その少ない出力で自分から魔法を出す感覚を覚えるんだ。今は魔力を100分の1程に制御しているが、少しずつその出力を上げていく。次の日には最初に出した出力と同じ出力で出せるように、練習するんだ」
なるほど、と思った。
今は無理矢理制御されている違和感のある状態だが、明日にはこの出力上限を少し上げられる。その時に、今と同じ出力にできるように、少しずつ身体に覚えさせて練習させていくのだろう。
しかし、こんな方法があるのならば、最初から使ってくれればよかったのにと不満にも思う。それが顔に出ていたのだろう。モヒート先輩は溜息を吐いて、言葉を続けた。
「面倒なことをせずに最初から使えと言った顔だな。この魔道具は身体に大きな負荷がかかるから、あまり推奨されているものではないんだ。現に今も、少し魔法を使っただけなのに、大きな疲労感を感じているだろう」
「……はい」
認めたくはなかったが、もう魔法を使うのが数時間は辛いと思うほどには披露していた。簡単な、あんな出力の小さな魔法を撃っただけなのに。とんでもない魔力を腕輪に吸われていた。
「試行錯誤して、どうしてもという時の最終手段だ。俺たちのように元々持っている魔力が膨大でかつ制御が苦手な人間の最後の希望なんだ。体調が悪くなったら、すぐに俺を呼ぶように」
そう、モヒート先輩は言い残して去っていく。
「魔力が強いのも大変だねー」
「でも、これであんな綺麗な魔法を制御して出せるようになるなら――」
私は複合魔法以外で、初めて少しだけワクワクしていた。明日が楽しみだという幸福感に包まれながら、ミレイアに就寝の挨拶をしてから部屋に戻った。




