35.
あの後。
オーランドは軽くモヒート先輩に謝罪をして帰っていった。私に対しては最後までじっと見つめるだけで、「今回は勘違いしてすまなかった」程度で済ませたが。絶対に私に対して申し訳ないだなんてことは思っていないはずだ。むしろ、疑われるようなことをするお前が悪いといったところだろうか。
明らかに私とモヒート先輩に対する態度が違う。なんなんだろう、あの人は。
「なんなんだ!あの失礼な男は!!!スプライント、あんなのが婚約者だなんて、大丈夫なのか!?こんなにもストレスを抱えているというのに、代表になど選んで……俺はなんてことを――」
「そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。なんだかんだ今は楽しいですし」
私と同じ、なんだあの男はという感想を持つ人がいた。それに私以上にその態度に憤ってくれていた。モヒート先輩だ。それどころかなんだか代表というプレッシャーをかけてしまったことを反省すらし始めている。
暫くの付き合いで分かってきたことだが、彼は案外情に厚い。裏表もない善良な人間だ。
「それに実は、以前はもっと私に興味なさげだったのですが、最近はああいう感じなので……正直、諦めています」
「スプライント、君の将来のことだろう……何故そんなに――というか、前は興味がなさげだったというのはなんだ??喧嘩でもしているのか?」
「そっか、モヒートはあんまり色恋に興味がないから知らないのですね。リーシャさん、辛ければ言わなくても――」
セレナ先輩は庇ってくれたが、なんだかんだ今回は巻き込んでしまった上、今後は魔導祭までは最低限私と彼らは付き合っていかなければならない。そう考えると、別に辛いという感情がそこまでなかったこともあり、かつての関係性から現在に至るまでの全てを吐き出していた。何を言おうと興味を持ってもらえなかった時期、学院の廊下で掛けられたあの言葉、そしてそれ以降の態度。
私のために憤ってくれたモヒート先輩に私なりに見せられる誠意だ。
「なんでこんな男と婚約をしているんだ?脅されているのか??」
「モヒート先輩、彼女の話を聞いての第一声がそれですか??貴族には貴族の事情があるでしょう。貴方も十分に知っているでしょうに」
なんで婚約しているのか意味が分からないという様子のモヒート先輩にガイゼル先輩がツッコミをいれた。
「恋愛結婚が流行りとは言っても、未だに家同士の権力差や力関係は強いですからね。相性が悪いからと、そう簡単に解消できるものではないのですよ。モヒート。でも解消するのであれば、ヴァイスリート伯爵家はご助力しますよ」
「……ウーヴ侯爵家からの後ろ盾は必要そうか?そんな婚約はさっさと解消した方が良い」
「リューネン伯爵家からもスプライントに力を貸そう」
「アタシは――皆みたいに家の力はないけど、相談に乗ったり、一緒に戦ったりなら!」
正直、全員にこんなに同情というか肯定されるとは思っていなかった。
元々頑張ってはいたが、真の意味でオーランドに対して興味を持てなかったのは私自身だ。だから態度の変わったオーランドに怒りを感じてぶつけた上でも私はずっとモヤモヤしていた。
「その、実は――私の母が婚約解消の方向で話を進めているみたいなので、もし何か困ったことがあれば相談させてもらうかもしれません」
そう。最近は忙しくてあまり連絡は取れていないが、結局母様が動くと決めた時点で私とオーランドの婚約解消はほぼほぼ決まったようなものなのだ。スプライント家はそれなりに力がある上に、元々オーランドが私のことを好きではないというのはその普段の態度からも分かり切っていることなのだから。
こんな、誰も幸せにならない……むしろ不幸になる婚約は解消した方が良いのだ。それに、オーランドのことを好きな女性はたくさんいるのだから、私である必要性がない。
オーランドは怒りの対象がいなくなり、私は理不尽に責められるストレスから解放され、貴族の女性はオーランドの新たな婚約者になれるかもとワクワク(?)できる。
私はもしかしたらレッドグルール公爵家からキズモノにされたなどと噂されて結婚できなくなる恐れはあるが、一生独り身であればそれはそれでも良い。縁戚から跡継ぎを立てればいいし、何よりも私は魔法の研究に没頭できる。
考えれば考えるほどに、そんなにこの未来は悪くない。
「大丈夫だ。案外婚約解消しても何とでもなる」
「そういえば、モヒートも『魔法に対してやかましすぎる!』っていう理由で婚約解消されていましたね」
「え……婚約解消でも先輩ってことですか?」
「なんだ、そのニヤニヤは」
帰りはモヒート先輩の婚約解消話を話題に、笑顔で学院に帰ったのだった――。
X(旧Twitter)にモヒート視点の小話載せています。読まなくても特に物語に支障はないです。




