32.
「ああぁぁあああ、もうスタチュエットの本を読みたくないです」
「……僕も、もう連携連携と怒られるのはしんどいです。僕より弱い人に合わせるの、大変なんですよねえ~」
「ははっ!ガッツリしぼられてるな。お前たち二人とも」
魔導祭の練習の後。
私は以前よりは少し遅い時間にクレイヴ先生の居る場所――この研究室を訪れていた。
どうやら私と同じようにマーカスも代表選手に選ばれてしまったようで、疲労困憊して愚痴っていた。それに対してクレイヴ先生は昔を思い出しているのか、懐かしそうな回顧の瞳で私達を見つめ、温かいハーブティーを出してくれた。それのお陰で魔力が少し回復して、疲労が若干癒えた気がする。
「リーシャは、蒼氷のデュエルとスタチュエット、グリモワールの代表、マーカスは黄雷のデュエルとレギオンの代表か。すごいじゃないか!複数競技の代表だなんて。リーシャは1年生で2競技、マーカスは2年生で3競技なんて、それぞれ中々選ばれるものじゃない」
「私は正直、代表に選ばれたくなかったです。マナ・タグとかっていうのでテキトーなタイミングで捕まるようにして、さっさと魔導祭から抜け出す予定でした」
「マナ・タグか。懐かしいな。俺は課題とかをサボりまくってかつ代表も無理矢理断ったら、学院中の教師から同時に追いかけまわされる羽目になったぞ。昔」
「それは日頃の行い、自業自得だと思います。私はきちんと課題を提出していて、授業態度も悪くない……と思うので、そんなことにはなりません。マナ・タグに出たかったです、切実に」
代表以外の生徒は『マナ・タグ』という教師が鬼を務める鬼ごっこと、『マナ・レース』という魔法を使った短距離走に振り分けられる。
ちなみに、前者では各チームで捕まらずに生き残った人数で、後者は1位を取った人数でスコアがつけられる。どちらの競技も、マナ・タグは教師の給与がかかっているらしいので、教師陣が本気で追いかけてきて、マナ・レースはレースごとに1人しかスコアが付与されないという中々に厳しい条件下であるため、勝てばそれなりの多さのスコアを貰えるらしい。
……とはいっても、私達が出場させられる5つの競技の方がスコア比率が高いが。
「貴女は相変わらず志が低いですねー。ちなみに、貴方の婚約者?のあの人は紅炎に振り分けられて、5つの競技全てで代表のようですよ。優秀なんですね」
「そうですか」
正直なところ、同じ蒼氷の所属ではないことに安心して、それ以上のことは知らなかった。5つの競技全てで代表に選ばれるなんてこと、あり得るのか。
もしかすると、競技の中で争い合うことになるかもしれない。
そう、改めて考えると気が重くなった。ただでさえ、今の私は彼の厭味の対象だ。その不快な態度を公衆の面前で向けられると思うと、逃げられない分、しんどかった。
「おー。あの、オーランド=レッドグルールだな。あいつは優秀だぞ。1年の時からデュエルに於いては負けなしだ。上級生相手だろうとも、な」
「……実は去年当たりましたが、確かに彼は強かったです。あの時は今ほど複合魔法を使えなかったとはいえ、通常魔法のみであれば、あの人に敵う人はいないのではないでしょうか」
少し意外だった。
マーカスの性格からして認めたくないであろう『敗北』を認めるどころか、相手のことを褒めるだなんて。それほどまでにオーランドは強かったのか。
だが――。
「どうせ出場するからには、私は彼に負けるつもりはありません」
「じゃあ、複合魔法の鍛錬だな」
クレイヴ先生のその言葉に頷き、準備を始める。
あんな自己中心的な人には負けたくない。そう思うと、既にスタチュエットの鍛錬で疲れていたはずなのにより一層複合魔法の練習がやる気に満ち溢れた。




