0.プロローグ
アルファポリスで連載している作品です。アルファポリス先行公開ですが、完結予定なのでこちらでも連載していきます。
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?ここは学院という場所だ」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
言葉を理解した直後に、急激に襲ってきた頭痛と三半規管がひっくり返ったかのような不快感に思わず吐きそうになるのをぐっと抑える。
目の前にいる私の婚約者――オーランド=レッドグルール。彼がチラリと見るのは周囲の人間たち。きっと周りの目とはこのことだろう。
2学年上の彼の教室の前で話していたというのが間違いだったのかもしれない。気まずい雰囲気を察し、立ち止まる人たちがちらほらと出始めていた。そんな光景にも不快感が押し寄せてくる。
でもこんなことになるだなんだ思っていないのだから、仕方がないだろう。だって今は定期的に誘っている、私たちが通うこの学院の外へデートに行くという恒例のような誘いをした直後に言われたこの言葉だったから。
いつだったら彼は頷いて、すぐに解散するのだ。それが今回は断られた上でのあの言葉。
言葉を全て飲み込み、何かを言わないとと思った瞬間に、脳ミソの思考が異様なほどに鮮明になる。
そして気が付く。妙に女子生徒の方に視線が向くなと思った。ああ、彼は私という存在が邪魔なのかもしれない。
だって、目の前にいる私よりも周囲を警戒するように見ているのだ。まるで誰かにこの私の好意を断るという今の状況を見せつけたいように。もしかしたら彼には既に親しい間柄の女性がいるのかもしれない。
彼も育ち盛りの一人の男性だ。取り決め事によって手を出せない婚約者に拘束されずに、学生時代くらいは遊びたいのだろう。
だって私達の婚約は所謂《《好き同士》》ではない。親が決めた婚約である。きっと私以上に彼はこの関係性に辟易としている。
一見そんなに重い言葉ではないだろう。しかし、婚約者という立場であるという前提条件を入れた上で、彼の視線や態度も相まって私に発されたと考えると、その意味は変わる。
それに彼からは私に対する『熱』を感じたことがない。興味がない人間だが、婚約者という義務感から付き合っているということも痛いほどに分かっている。だって日頃の彼の態度は、話している時も興味がなさげで上の空だから。彼から歩み寄ろうなんて心を一度も感じたことがないから。
これは、今までの私の努力を全て否定されたような言葉だった。私は学院の廊下に居るにも関わらず、心を乱されて倒れそうになってしまったのを、ダンと足を強くついて堪える。
「俺は生徒会長も務めて、公爵家嫡男として討伐部隊にも組み込まれている。ほら、君ほど俺は暇じゃない。だから――って大丈夫か?」
「少しふらっときただけなので、大丈夫です」
全く上品ではない行動。
貴族の女性としてのルール?侯爵令嬢としての外聞や評判?普段であれば気にするが、そんなものは知らない。
私はすぐにでも彼に対して怒りをぶつけてやりたかった。他人など知らない。ただこの激情に身を任せて楽になってしまいたい。いつもの私であればするはずのない思考。
それほどまでにこの出来事は私を『変化』させる事象だったのだ。




