【漫才】キョンシー女子大生が過ごす日本の正月
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にピョンピョンとね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「おやおや…良いのかな、こんな普段通りの挨拶なんかやっちゃって?我が堺県立大学がある近畿地方は松の内も他の地域より長いって事、生え抜きの堺っ子の蒲生さんが忘れちゃ困っちゃうな。」
ツッコミ「あっ!言われてみれば、まだ年始の挨拶が有効だったんだ。」
ボケ「それじゃ一丁、やってみますか?いっせ〜の〜で!」
二人「新年明けましておめでとう御座いま〜す!」
ツッコミ「いやはや、今年も無事に新年を迎える事が出来て良かったね。昔から『笑う門には福来たる』と言うけど、今年一年も笑顔の絶えない年にしていきたい所だよ。」
ボケ「今年一年とは言うけどね、蒲生さん。そんな悠長な事は言ってられないんだよ。昔から言うじゃない、『光陰矢の如し』って。『まだ時間がある』って悠長にしていたら、あっと言う間に棺桶の中だから。」
ツッコミ「正月早々、堅苦しい事言わないでよ…」
ボケ「仕方ないよ、だって私キョンシーだもの。死後硬直だってするって。」
ツッコミ「そっちの『硬い』じゃないから!それを言ったらキョンシーの貴女は、普段から『棺桶の中』じゃない!」
ボケ「だって棺桶の中だとグッスリ安眠出来るんだよ。」
ツッコミ「普通はそれを『永眠』って言うんだけどね。」
ボケ「安らかにお眠りしてま〜す!」
ツッコミ「そんな軽薄に言うような事じゃないよ!」
ボケ「そうは言っても、マゴマゴしていたら良くないのは事実だよ。早いもので、今年も残す所あと三六〇日を切っちゃったんだから。」
ツッコミ「気が早過ぎるよ、まだ残りの方が多いじゃない!」
ボケ「だけど松の内がもうすぐ終わっちゃうのは事実じゃない。この御年始ルックが出来るのも、あと僅か。そう考えると、ちょっと名残惜しいね。」
ツッコミ「えっ、御年始ルック?いつもの官服と暖帽に見えるけど…」
ボケ「そんな露骨なイメチェンは却って野暮だよ、蒲生さん。普段使いの中にさり気なく紛れ込ませるのが、真のオシャレなんだ。」
ツッコミ「さり気なく紛れ込ませるって…あっ!額の霊符に『謹賀新年』って書いてある!」
ボケ「三が日の間にやった書き初めなんだ。だけど、このサイズに半紙を切る手間がかかっちゃってね。」
ツッコミ「ちょっと貴女、これどうするのよ…黄色い霊符の代わりにこんな物を額に貼っちゃって…」
ボケ「大丈夫だよ、蒲生さん。普段の霊符は半紙の下に貼ってあるから。」
ツッコミ「えっ、重ね貼り!?」
ボケ「ほら、チアリーディング部やテニス部の子達も重ね履きしてるじゃない。」
ツッコミ「アンスコに例えるんじゃありません!そもそも貴女、チアリーディング部は体験入部だけで帰っちゃったじゃない。」
ボケ「だってチアの子達ってみんな血色が良くて健康そうだからね。私みたいに真っ青な顔色の人は一人もいなかったよ。」
ツッコミ「そりゃ貴女は死体だからね。健康とか以前の問題だもの。」
ボケ「私の顔色だとチアはチアでも、チアリーディングじゃなくてチアノーゼなのかな。」
ツッコミ「こらこら、そのボケは前にもやったじゃない。新年早々、脱線が酷いなあ。早く戻って来てよ。」
ボケ「いっけない、話を巻き戻さなきゃ!」
ツッコミ「だからって額の霊符まで巻かなくっても良いの!今年もやるのね、この流れ…」
ボケ「んっ…、あれっ?」
ツッコミ「どうしたの、『あれっ?』って…って『謹賀新年』の紙が落ちてるじゃない!」
ボケ「あ〜、剥がれちゃったか。」
ツッコミ「他人事みたいに言わないの!そもそも貴方が巻き取るなんておかしな事をするから、こんな事になるんじゃない!貴女どうするの、この始末?」
ボケ「決まってるじゃない、とんど焼きの御焚き上げに持って行くんだよ。何しろ書き初めを焚き上げた火が高く上がったら、字が上手くなるんだからね。」
ツッコミ「そこで常識人ぶっても困るよ!貴女位だと思うよ、額に貼った書き初めを焚き上げようとするのは。」
ボケ「御焚き上げも良いけど、その時の炎でお餅を焼くのも忘れちゃいけないよね。縁起物や書き初めを燃やした火で焼いた餅を食べれば、新しい一年を無病息災に過ごせるから。」
ツッコミ「無病息災って言うけど、そもそも貴女は死んでるじゃない!幾ら御焚き上げだからって、紙銭や打ち紙を燃やして金運アップを願っちゃ駄目だからね。」
ボケ「そんなの常識じゃない、蒲生さん!紙銭や打ち紙を燃やすのは春の清明節の時って決まっているんだから。」
ツッコミ「さっきから非常識な事ばかり言ってる貴女に言われたくないよ!」
ボケ「そもそも紙銭や打ち紙を燃やすのは『亡くなった人があの世でお金に困らないように』って趣旨だからね。」
ツッコミ「そっか…貴女はキョンシーとして現世にいるから、紙のお金を御焚き上げしても仕方ないんだ。」
ボケ「そういう事!だから私は別の方法で今年の金運アップを祈願したのです!」
ツッコミ「へえ、どんな方法を取ったの?」
ボケ「そんな特別な事じゃないよ。蒲生さん家に御節料理を食べに行ったんだ。」
ツッコミ「えっ!元日に私の家へ遊びに来たのってそういう理由だったの?」
ボケ「小判に見立てた栗金団に、財宝に見立てたキンカンの甘露煮。台湾だと昔のお金に見立てた水餃子を金運アップの縁起物として春節シーズンに食べてきたけど、日本にもそういうのがあるんだね。蒲生さん家の御節料理は美味しかったから、来年のお正月もよろしく頼むね。」
ツッコミ「困るなあ、人んちの御節料理を当てにしちゃ。」
ボケ「だって私、下宿に一人暮らしなんだよ。一人分の御節料理は割高だし。」
ツッコミ「キョンシーコミュニティのお知り合いの御家でご馳走して貰う手は考えなかったの?元町の御隠居様とか島之内の姐さんとか、貴女って割と顔が広いじゃない。」
ボケ「春節だったらその手が使えたんだけどね。だけど御節料理は日本のお正月の行事食だから。」
ツッコミ「そっか、御二人とも清朝末期に日本へお越しになったんだっけ。それなら太陽暦の元日に御節料理を御用意されないのも無理はないよ。」
ボケ「それに蒲生さんの御両親も私の事を歓迎してくれたじゃない。『いつも希望が御世話になってます。』ってね。」
ツッコミ「うちの両親も、よく普通に応対したよね。だって正月早々、両手を突き出したキョンシーが玄関先に立っているんだよ。」
ボケ「しかも霊符の代わりに『謹賀新年』って筆書きした半紙を額に貼ってね。」
ツッコミ「当事者の貴女が他人事みたいに言わないの!」
ボケ「だけど当事者云々で言うなら、キョンシーの私はお正月の当事者だと思うんだよね。」
ツッコミ「えっ、当事者?どういう事?」
ボケ「だって元を正せば、日本のお正月は死者や御先祖様の御魂が友人や子孫の家を訪れる日だったんだよ。蒲生さん家の玄関にあった門松は死者の魂が迷わず来れる為の目印で、床の間に置いてある鏡餅は死者の魂の依り代なんだ。」
ツッコミ「ちょっと待って、それじゃお盆と同じような物じゃない。」
ボケ「うん、そういう事。だから蒲生さんの御両親も、ああして私の事を歓待してくれたんだよ。私はこうして自前の身体があるから、鏡餅を使わなくても済んだけどね。やっぱり自前で用意出来るなら、その方が良いじゃない?」
ツッコミ「そんなマイ箸やエコバッグみたいなノリで語られても困るなぁ…」
ボケ「それで松の内が開けたら『鏡開き』と言って鏡餅を割って食べるじゃない。年神様の力が宿った鏡餅を頂く事で、その御力を身体に宿して一年を健やかに過ごせるんだ。その時にはまた遊びに来るからよろしくね。」
ツッコミ「年神様って要は我が蒲生家の御先祖様だよね?まさか御先祖様も台湾から来たキョンシーの体内に取り込まれるとは思わなかったろうな…」
ボケ「そう言えば御隠居様も、こんな事を仰っていたよ。『こうして長く過ごしておると、まさかと思うような事を見聞き出来るからのう。新しい経験というのは有り難い物じゃ。』ってね。だから蒲生さんの御先祖様も満足して喜んでくれているんじゃない?」
ツッコミ「うーん、そんな物かな?それじゃ今回の元日は、貴女にとって満足出来る物だったの?」
ボケ「そりゃ勿論、大満足だったよ!金運アップの御利益にも早々にありつけたからね。」
ツッコミ「えっ、それは良かったじゃない!どんな御利益?」
ボケ「実は蒲生さんの御両親からお年玉を貰っちゃったんだ。」
ツッコミ「御節を食べただけじゃなくてお年玉まで貰ったの?神仏からの御利益じゃなくて私の両親からの御利益じゃない!」
ボケ「これで欲しかった高級線香を買って、ラグジュアリーな時間が過ごせるね。」
ツッコミ「お年玉がお線香代になっちゃったよ!」
ボケ「流石に結び切りの不祝儀袋じゃなかったけどね。」
ツッコミ「どこの世界に不祝儀袋を正月に使う家があるのよ!」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」




