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11行動目 マフラーと夏休みの始まり

 期末テスト返却後は、LHRや集会、講演会のみの日が約1週間続き、すぐに今学期最終日となった。

 終業式を終え完全に夏休みモードが漂う教室に、予定時刻より20分ほど遅れて担任が入ってくる。

 普段ならブーイング必至だが、これを終えれば夏休みだということをクラス中が熟知しているので、特に不満の声は漏れなかった。

 「遅れてすみません……とりあえず、1学期はこれで終わりになります」

 教室に巻き起こる拍手喝采。どんだけ夏休みが楽しみなんだ……

 担任は咳払いをすると話を続ける。

 「まあその、先生には夏休みなんて無くて、部活に帯同しなきゃなんないんですよ。」

 「何部の顧問なんですか?」

 1人の生徒が質問する。

 「ペットボトルキャップ投げ野球部です」

 あの中指で弾くヤツ。面白いけど、高校の部活として活動できるんだ……

 というかそんなスケジュールギッチギチなのか。

 「合宿があるんですよ。ナンパされないかな〜」

 目を瞑って天を仰ぐ担任。教師がナンパとか言うな。

 またもや咳払いをすると、手提げ袋から一冊のファイルを静かに取り出す。

 「通知表配りまァす!」

 唐突な裏声、途端に吹き出すブーイング。遅れてきたことへの不満を急にぼやく生徒も出てきた。クラス委員長・生物部員のカイがみんなをなだめる。

 「まあまあ!通知表が返ってきたら夏休みなんだ!それにブーイングなんてしてるけど君たち全然勉強してないんだから評定が低いのは当たり前さ!」

 ド正論だがなかなか辛辣だ。

 何も言い返せなくなったクラスは静まり返る。あそこまでハッキリ言われるとは思ってなかったのだろう。

 「ありがとう。委員長の言う通りです。夏休みは異性交遊や異性交遊、異性交遊にうつつを抜かさず、学生の本分に励んでください。」

 1回の発言で「異性交遊」が3回も出てきた。しかも担任の口から。アンタさっき「ナンパされないかな」とか言ってただろ。

 今まで気にしてこなかったけど、この担任中々「モノが違う」な……

 通知表が配られ始めると、各々多彩な表情を見せる。肩を落とす者、引き笑いをする者、顔を覆う者……うん、みんな勉強してないんだな。

 カイの通知表が本人にわたると、クラスメイトはこぞって見に行く。

 「オール5!?」「学年1位!?」と言った驚きの声が口々に聞こえてくる。そうか、アイツ体育会系だから当然体育も取れるよな……

 みんながカイに夢中になっているので、俺はこっそり通知表を取りに行く。

 担任からは「よく頑張りました。」の一言。見ると、評定が4.9、順位は学年・クラス共に2位。おお。我ながらよくやったと思う。

 間違いなくちやほやされるべき出来だが、カイがイカれているせいでクラスメイトは俺に見向きもしない。

 自席に戻り、改めて通知表を眺める。 体育がB・B・A で4。1番右の観点は「主体的に学習に取り組む態度」。頑張ろうとした姿は評価されたらしいな。

 「……どうでしたか?」

 ……あれ、俺今イヤホンつけてないよな。めっちゃ至近距離で囁かれた気がするんだけど。

 「……む、無視しないでくださーい」

 俺は慌てて耳元を抑え、声の方向を振り向く。

 「……あ、やっとこっち向きました」

 手を小さく振ってはにかむ女生徒。ホワイトピンク色の髪。ゆるふわ……なんだっけこの髪型。ボブだっけか。時期にそぐわぬ白セーターに身を包み、首元には季節外れのマフラーをつけている。

 ……誰だ、コイツ。

 ツッコミどころがありすぎて思考が追いつかない。今は7月だ。それは地毛なのか?なんで教室でマフラーしてんの?マジでだれ?ウチのクラスにこんな人いたっけ。

 「あの……私の顔に何かついてますか?」

 しまった。顔をジロジロ見てたと思われる。

 「あ、ごめんなさい。考えごとしてて」

 「『誰?』とか『染めてるの?』とか『暑そう』とか思ってましたよね絶対」

 その通りでございます。

 「……一応、私このクラスなんですけど」

 「え、そうなんだ。俺友達少なくて。あと顔近いです」

 「じゃあ、手始めに私と友達になりましょうよ」

 マフラー女は俺の手を両手で握る。

 「あっ!葉山さん、手暖かいですね」

 うっわ……あざと……

 まるでおまじないでもするかのごとく、俺の右手を両手で挟んだまま、額どうしをコツンとつけて目を瞑る。や、やばい。

 「あの、ちょっと」

 「ごめんなさい!ベタベタ触られると嫌ですよね」

 「いやまあそれは別に……というか、何か用?」

 「通知表を……」

 マフラー女が何か言いかけたところで、ユイと新舞さんが割り込んでくる。

 「……オマエ、今度は葉山さんにも手を出すのか?」

 「葉山くんは生物部のエースなんだ」

 通知表を片手に持った2人は、とてつもないプレッシャーを身にまとい、マフラー女に詰め寄る。今「オマエ」とか言ってたよなユイ……

 てか、「今度は」とか「手を出す」とか、なんの話だ?

 「ほほう、葉山くんって生物部なんですね。また1つ知れました」

 そう言うと、マフラー女はどこからともなく小型のメモ帳を取りだし、熱心に何かを書き始める。

 「……それは何を書いてるんだ?」

 「葉山くんのプロフィールに、今の情報を付け足そうと思って」

 ユイが不意打ちでメモ帳を取り上げると、俺と新舞さんに見せてくる。

 「あ!本人に見せちゃいけないんですけど〜…」

 マフラー女はその場で慌てふためくポーズをとる。メモ帳は取り返しに来る気配はない。コイツ、わざと……

 メモ帳を見ると、ページ上部に「葉山 くん」と書かれており、その下には身長や体重、食べ物の好き嫌い、好きなゲーム、中間テストの結果など、俺のプロフィールについてことごとく詳細に記され、俺の似顔絵まで描かれている。

 「……こわ。」

 あ、しまった。つい口に出てしまった。「きも」と言わなかっただけ褒めて欲しい。

 「葉山さんに何の用だ?」

 ユイはメモ帳を新舞さんに渡すと、またもやマフラー女に近寄る。

 「ひゃ〜怖いです……あっ、でも近くで見ると結構顔かっこいいんですね!」

 「はあ?」

 目前に迫ったユイの顔を褒めるマフラー女。コイツ、男女関係ないな……

 新舞さんは唸り声をあげる。

 「というか、なんでこんな葉山くんのことを知ってるの?テスト結果はまだしも、身長と体重、好きなゲームまで知ってるなんて」

 好きなゲームは休み時間の様子を見れば把握できてもおかしくない。だが、身長と体重はどうやって知り得たんだ……?テスト結果も生物部の人間以外には伝えていないはずだ。

 「え、普通になんで?」

 俺の漠然としすぎた質問に対し、ユイに睨まれていたマフラー女は人差し指を口元に立ててウィンクをする。

 「ひ……み……つ……です」

 うっ!?な、なんだ、この引き込まれる感じは……

 「は、葉山くん?」

 心臓の鼓動が強くなる。呼吸が突然荒くなった。声を出そうとするも、口がパクパクするだけで、何も言えない。く、苦しい……

 「葉山さん……?」

 ユイの声が聞こえるが、うなずくのが精一杯で何も返事出来ない。制服の胸元を力強く掴んだ、その瞬間。

 「やあ!みんな揃って結果発表会かい?僕も入れてくれよ!」

 カイの爽やかな声。それと同時に、電流にも似た衝撃が背中から身体中に突き抜ける。

 「はぅっ!?」

 「おおっと!?」

 前によろめいた俺をカイがとてつもない瞬発力で支える。コイツ、俺の背中を叩いたな。

 「ごめん!少し強かったみたいだ!最近鍛えすぎててね……」

 そう言って、ボディービルダーのポーズをする。お前本当に生物部なのか……?

 「……うわ、委員長。流石の成績ですね……」

 「ああ!」

 耳元で囁かれても動じないカイは、俺たちに通知表を見せびらかす。すごい、本当にオール5だ。

 「君たちは───」

 「さあ、みんな席座って。ホームルーム、始めます。」

 担任の声が教室に響くと、ぞろぞろと動き出すクラスメイト。カイは何か言いかけていたようだが、軽く俺たちに手を振ると自席に戻り、それに続いてユイと新舞さん、そしてマフラー女も戻って行った。

 ……まじでなんだったんだ。

 謎のウィンクとカイのぶっ叩きで疲れた俺はスマホをバッグから取り出す。すると、ロック画面には「ヒナリがあなたをLINE IDで友達に追加しました」の通知が。だれ?

 担任の声と若干の話し声が聞こえる教室を見回すと、こちらを見て手を振る生徒が。

 ……さっきのマフラー女。

 彼女がスマホに視線を落とした、と思った矢先、俺の元に1件のスタンプが送られてきた。

 ───『よろしくお願いします』と書かれたウサギのスタンプ。

 また女の方に目を向けると、俺の方を向いてニコニコと笑っている。そしてまた、メッセージ通知。


 ヒナリ:『ビックリしましたか?』


 ああ、そりゃあビックリしたさ。

 『なに?』と送ると、直ぐに既読がつく。


 ヒナリ:『さっき葉山さんが委員長に支えられているあいだ、ぱぱーっと追加しちゃいましたദ്ദി>ᴗ<)』

 

 へえそうなんだ。お前やってることヤバいぞ。


 『人のスマホ勝手に触るのやめたほうがいいよ』

 ヒナリ:『ごめんなさいm(._.)m嫌いにならないで』


 マフラー女改め『ヒナリ』。Twitterのスパム垢みたいな感じのノリだ。怖いな、ブロックしようかな……

 

 ヒナリ:『ブロックしてもむだです』


 なっ……!?思わずヒナリの方を見ると、ニヤリと笑ってこちらに手を振ってくる。

 ユイとの1件、1ヵ月半にわたる勉強会、そして期末テスト……1学期は色々な困難に立ち向かってきた。

 ───猛烈に嫌な予感がする。

 コイツと関係を築くということは、何か「面倒事」にも巻き込まれそうだ。

 ああ、今日から夏休みかぁ……夏休みはせめて、平穏に過ごしたいところだ……

 「……ていうわけで、今日はここまで!みんな、バイビーね!」

 担任が黒板を叩く音と同時に鳴るチャイム。教室から飛び出すクラスメイト。いつのまにか、ヒナリの姿もない。

 困惑する俺の元に、また1件のメッセージが届く。


 YUI:『今日、ミーティングをするので。生物室に来てください。』 

 

 見ると、ユイは新舞さんと共に教室を出ていくところだった。

 「メッセージ見たかい?今日はミーティングらしい!サッカー部との兼ね合いで最近あまり顔を出せていなかったが、今日は行けるぞ!」

 そう言ってまたボディービルダーのポーズをとる。うん、わかったよもう。

 夏休みが始まる。その現実に相反して、俺は重い足取りで1Fの教室をあとにした……

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