10行動目 自己採点とラーメン
約1ヶ月にも及んだ勉強会は、期末テスト終了と同時に幕を閉じた。
打ち上げ(?)ということで、俺たち生物部はまた、新舞さんの家を訪れている。
勉強会でお世話になったテーブルを3人で囲み、新舞さんが部屋に入るのを待つ。何をするかは一切聞かされてない。
ちょうどお昼時だ。何か振る舞ってくれるのだろうか。
期待もそこそこにあぐらをかいて座っていると、勢いよく部屋のドアが開いた。
「お待たせ!」
ぜえぜえと呼吸する新舞さんの左手には電気ケトルが、右手には何やら色々入っているらしいエコバッグをさげている。
俺はいまにもお湯がこぼれ出てきそうな電気ケトルを受け取り、テーブルの上に置いた。
「そのバッグ、何が入ってるの?」
新舞さんは邪悪な笑みを浮かべてこちらをジッと見てくる。
「フフフ……これを見な!」
新舞さんはテーブルの上にエコバッグの中身をぶちまける。中には、大量のカップラーメンやインスタントスープが入っていた。腹が減っていた俺は、思わず目に入った豚骨のご当地ラーメンに飛びつく。
「美味そう……どこで買ったの?」
「通販です!テスト最終日に届くようにしてたんだ」
「私はこれにしようかな。」「僕はこれだ!」
ユイは坦々麺を、カイは醤油ラーメンと春雨スープを選ぶ。
お湯を入れようと全員が一斉に電気ケトルに手を伸ばした瞬間────
「待った!」
新舞さんが電気ケトルを素早く取り上げる。な、なんだ……?
「早くいただきたいんですが」
俺はもう我慢できそうにない。
「これから皆さん、自己採点をやってもらいます。」
……自己採点?
「なんで急に」
「テストの結果気になるじゃん。」
「い、今やらなくてもいいのでは……?」
ラーメンしか頭にないんだけど。
「これ私のお金で買ったやつだからね。」
たしかにな。何も言い返せねえ……
「分かりました。」
「みんな自信がある教科を1つ選んで。私も選ぶから、私の得点とみんなの得点を個々に比べて、私より高かった人のみ、目の前のラーメンにありつけます。」
そう言うと、電気ケトルをベッドの下に入れる。なんでベッドの下なんだよ。
カイとユイも反論できないと判断したらしい。俺達はテーブルの上のご馳走を全てエコバッグに戻し、代わりに自身のテスト用紙を広げた……
───30分後。
「自己採終わりましたか?」
新舞さんは勢いよく立ち上がる。コイツ……相当自信あるな。
俺達は無言で頷く。腹が減っているせいで何か言う気力すら失っているんだ。なんでこの女はここまで元気なのか知りたい。
「ではまずは委員長から!」
トップバッターはカイのようだ。前回は学年1位。さあ、今回はどうだろうか……
「僕は数学を選んだよ。」
そう言うと、1枚の紙ををテーブルの中央に寄せる。裏には採点結果が書かれているのだろう。普段なら「僕は数学を選んだよ!」と言うはずだが、空腹のあまり元気がないらしい。早く食わせてやれよ。
「さあ!お手並み拝見です!せーの!」
新舞さんのバカでかい声とともに、カイは採点結果が書かれた用紙を表向きにする。点数は────83点!
……前回学年1位の答案にしては、少し点数が低くないか?
「AIを使って模範解答を作成してもらったんだ。文章問題は上手く読み込んでくれなかったから、それは除外してあるよ。」
なっ!文章問題は約15点分出すということだったが、それを除いて83点だと……!?
流石のユイと新舞さんも、それを聞いて驚きの表情を隠せずにいる。
何せ、カイは今週末サッカー部の大会を控えている。本所属でもないのに、テスト週間も関係なく助っ人として参戦していた。それにも関わらずこの点数……もうカイの優勝だろう。
「うお〜……すごいね。はいじゃあ次!ユイちゃんどうぞ」
「私は英語を選びました。」
そう言うと、デカデカと『98』と書かれたA4サイズの紙をテーブルに置く。
「えっ、これもしかして点数?」
「ええ。」
「ユイちゃん98点!?ユイちゃんが98点でユイちゃんの英語ってこと!?」
新舞さんが何言ってるのか全く理解できないが……
というか2人とも高くない?なんでなんで?
「教科書の本文を暗記さえすれば、ほとんどの人が90点いくと思いますよ。」
「数学もワークからの出題が多かったからね!」
2人揃ってニヤニヤしている。ラーメンは諦めて帰るから、点数出さなくてもいいですか?
新舞さんの方をチラリと見ると、既に絶望的な表情だ。うん。この2人がバケモンなだけだから気にするな。
「次、葉山さんの番です。」
ユイに促され、ついに俺の番となった。カイも期待の眼差しをこちらに向けてくる。やめてください。
「葉山くんは何を選んだんだい?」
「……社会」
「えっうそ!私も社会!」
新舞さんはテーブルに体を乗り出して食いついてくる。最終決戦を俺にしかけてきたというわけだ。
俺と新舞さんはそれぞれ自己採点の結果が詳細に書かれた紙を、裏返しにした状態でテーブルの上に広げる。
「じゃあ……せーので行こうか」
ここで負けたら、昼ごはんは「俺だけ」お預けだ。後の祭りでしかないが、全力で紙を抑える人差し指に念を送る。
「「せーの!」」
2人の点数があらわになる。
「……やった!私の勝ち〜!!!!!!!!」
新舞さんは飛んで喜ぶと、テーブルの角に足の甲をぶつけて悶絶する。やばい音したぞ今。
新舞さんの点数は……81点。俺は89点である。
……ん?何かおかしくないか?
「いや〜!頑張ってよかったねえ!みんなも約1ヶ月間応援ありがとうございました!ちゅ!ちゅ!ちゅ!」
何も知らない新舞さんは踊りながら俺たちに投げキッスをする。いや、え?
ユイとカイの様子を伺うと、顔をひきつらせて俺たちの点数を見比べている。うん。やっぱおかしいよね。
……あ!なるほどそういうことか。
「し、新舞さん?」
「んー?ふふ、言い訳なら聞こうじゃないか」
ご機嫌の新舞さんは元いた場所に座り、身体を左右に揺らして鼻歌を歌う。
「えーと、すごい申し訳ないんだけど。」
「なんだいなんだい?……ほほう、やっぱラーメン食べたい?し、仕方ないなー?ほら、好きなの選び!」
「いや、そうじゃなくて……いやそうでもあるんだけど……俺の点数さ、もしかして『68』って見えてない?」
「え?うん。」
「ごめん、これ89点なんだ。」
場に流れる沈黙。
理解できないとでも言うかのごとく、目をぱちくりさせて俺たちの点数を見比べる。
ようやく腑に落ちたのだろうか。新舞さんは肩を落としてうつむく。
「あ……なるほどね。うん、そうだよね〜……なーんかすんなり出来すぎじゃないかなーって、さっき思ったんだよね〜……」
新舞さんは痛む足を抑えながら、ベッドの下から電気ケトルを取りだす。
「騒いじゃってごめんね〜……ささ、食べよっかみんなで。」
うお、だいぶ落ち込んでるぞ。わざわざ言わなくてもよかったかもな……
流石にこの空気で飯は食えまいと思った……が、ユイとカイはそんなのお構い無しかのごとく、既にカップ麺の蓋を開けてスタンバッてる。いつ取ったんだよ。
ユイなんてフタの裏についた粉末スープを指で擦りとって舐めてるし。やめとけ。
俺だけ食べない、というのも逆におかしいものだと、勝手に自分を納得させ、先程気になっていた豚骨ラーメンをエコバッグから取り出し、お湯を迎える準備を整えた。
新舞さんにお湯を注いでもらい、3分待つ。携帯のタイマーが鳴った頃、全員がフタを剥がし捨ててラーメンに食いついた。マジでお腹すいてんだよ。
しばらく食べ進めた後、周りの様子を伺う。1人、何も食べずに俺たちの様子をニコニコしながら見守っている。
「……新舞さん、なんも食べないの?」
「うーん……負けちゃったしなあ。約束は守るよ。」
堅実なヤツだ。さっきからお腹がグーグー鳴っているみたいだが……
「みんなの様子見てると頑張ってきてよかったなって。あんまいいモノは出せないけど、この1ヶ月間のお礼も兼ねてるんだ。ほら!麺伸びるよ!」
新舞さんに急かされた俺は、スープが絡んだ麺を勢いよく啜った。




