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番外編 妹の苦難

 ……久々に聞こえる、両親の怒鳴り声。

 元はと言えば、兄さんの進路についての2人の意見が、全く合わなかったことから始まった。

 当時はどうしてこの2人が言い争っているのか分からなかった。正直、今も分からない。兄さんの進む道は兄さんが決めるんだ。親はあくまでバックアップをするだけの存在なのに。

 だから、兄さんが2人の前で、自分の希望する高校をはっきり伝えた時は思わず泣きそうになった。親でもないんだけれど。

 でもやっぱり兄さんなりに責任を感じてるらしくて、高校受験が終わってからは私に気を遣ってくれるようになった。直接ではないけど、自身が原因となって2人の仲を引き裂き、それが今もズルズル続いている現実を受け止めているらしい。

 ───そんなこと、兄さん以外誰も思ってないのにな。

 私は両親が嫌い。自分たちが受験に失敗したからって、自分たちの希望を押し付け、子供に夢の続きを見せてもらおう……そう思ってるんだ。意識だけ高いバケモン共が結婚した結果がこれ、ってわけね。

 まあ、そうは言っても、あの2人が私たちの両親であることに変わりはない。私はまだ中坊だから、2人が仲良くなってほしいと願うばかりである。

 「ーーーー!ーーーー!ーって!!」

 「〜〜〜〜〜〜〜〜の!?」

 うーん……何度聞いても、父親と母親の怒鳴り声は慣れない。ちょうど真下がリビングだから、結構聞こえやすいんだよ。母親はヒス気味、父親は若干酔いが入ってる。言葉のキャッチボールだけで地獄を表現できる2人のひび割れ具合に畏敬の念を抱かずにはいられない。

 兄さん、早く帰ってこないかな……

 さっき電話した感じ、誰かといるみたいだったし。『今帰ってこない方がいい』なんて言っちゃったけど、どこで時間潰すんだろ……

 私はイヤホンを付けて周囲の音を遮断すると、お気に入りの音楽を流して勉強への導入剤にする。

 今朝配られたテスト対策用のプリントは、授業内の内職で十分対応できた。期末試験も近いし、何かしないと。

 国語の教科書を開く。今回のテスト範囲は確かこの話だったな……

 『嘘つきと本音つき』という、よく分からない題名の作品。「嘘ばかり言うお調子者の女」と、「なんでも正直にハッキリと言う凛々しい少年」。コイツらのうち、よりどちらが周囲にとって有益なのか、考えさせられる作品だ。

 一見嘘つきがただただ害悪であるようにしか見えないが、それは単略的すぎる〜!全てをはっきり言ってしまうと、その場の空気を壊しかねないし、結果として誰かを傷つけることにも繋がるのだ。

 もちろん、嘘つきは普通に信用できないクズであるから、どちらかと言われると選びにくい。

 最後は「何が幸せだろうか」という一文で締められた。曖昧というか大雑把だなあ……。

 いずれ、私も進路のことを考える時期がやってくる。そのとき、きっと両親はそれを巡ってまた喧嘩するんだろうな。

 「嘘をついて」親の提案に従うか、兄さんみたいに「本音をはっきり言う」のか。

 ……まああと2年くらいあるし、大丈夫やろ!

 色々考えてたら疲れちゃった。兄さんが帰りにコンビニの「豚ラーメン」を買ってきてくれるみたいだから、楽しみだなあ。

 目の前に広がっている教材を全て閉じ、流していた音楽を止め、ふかふかのベッドに飛び込んで兄さんの帰りを待った。

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