第六話
入学から1週間が過ぎた。あの日以来、毎日放課後に沢村から霊だの霊狩人だの沢村の武器だの、いろいろな話を図書室で聞く事が日課になってしまった。
今日は図書室に行かなくて済むものの、下駄箱での待機を義務付けられた。靴ヒモを結んでいたところに沢村がやってきた。コイツは毎日を楽しく過ごしていそうだな。実際、悲しむ顔が思い浮かばない。
「今日は学校で霊狩りやるから。弱い霊みたいだし、もしもの時は助けてあげる。」
「俺に拒否権は?」
「無いわよ。じゃあ行くわよ。」
沢村は周りに人が居ないことを確認してから、例の呪文みたいなものを唱えた。はじめの2音ぐらいしか聞き取れない。日本語かすら分からない。そして、相変わらずのこの感覚。
やはり霊の入口は若干寒いが、前回と明らかに違うのは既に百匹以上の霊がいることだ。
その霊全て同じ種のようで、アザラシの子供のような容姿を持ち、触ったら「ぷにょ」とかいいそうだ。女子高生には可愛がられそうだ。実際、俺を無理矢理パートナーに仕立て上げだ霊狩人は屈んで霊に触れていた。
「おい。霊狩りだろ?敵に愛着をもってどうする?」
「いやゴメン。可愛かったから、つい。
武器はまだなんだよね。じゃあ手を前に出して。」
言われた通りに右手を前に出す。
「使いたい武器をイメージして、強く思って。」
適当にブーメランを思い描いた。すると、手には2メーター程の物が現れた。
霊は害を及ぼす気は無さそうだ。目につく行動は、じゃれあったり、沢村に登ったり、俺のズボンをくわえたりしている。眠っているのも居た。ある意味、平和だ。
一気に狩ってもいいが、むしろ疲れる。帰っても暇なので、1匹ずつ狩っていく。
攻撃をくらった霊は悲鳴をあげて霧になり、俺の体へ入ってくる。
悲鳴を聞いてか、沢村は自分の背中に乗っていた霊を抱きかかえて、こう言ってきた。
「この子だけは狩らないでよ。飼うんだからね。」
「それはいいのか?」
「ちゃんと学ばせれば害はないし。それに、可愛いじゃん。」こんな沢村は始めて見た。まるでペットを親におねだりするどこかの子供だな。
「まぁ、いいか。少しでも多くの霊力が欲しいとこだが、1匹ぐらい変わらねぇよ。」
「やった、ありがと。名前は何がいいかな~。」
この子だけは特別、って雰囲気出して抱いてる。
こんな大きさ、鳴き声、行動をしている霊を狩るのは罪悪感しか残らない。仕方ない事ではある。沢村は霊狩りをする気は無いようだ。さっきの沢村のセリフが気に障る。「もしもの時は助けてあげる」って言ってたな。あの野郎。
いろいろと考えながら1匹ずつ狩っていく。時々沢村が自分の中学の話やら霊の名前の話だとかしてきたので退屈にはならなかった。
沢村が1週間前に狩った鬼型の霊と、俺が今狩っているマスコットのような霊では明らかに霊狩りのレベルが違う。必要の無い風船を割っているみたいだ。
沢村のペットとなる1体を除いて、10分もかかった。霊力もそれなりに吸えたさ。
沢村は霊を「ププ」と名付けた。鳴き声が「プー」だかららしい。名前を呼ぶ度に右のヒレを挙げていた。
沢村はププを抱いたまま呪文を唱えた。霊は霊狩人にしか見えないから、他人からは変に腕を組んでいるように見えるのだろう。
沢村は上機嫌でいるが、その霊が可愛いのも今のうちだ。いずれオタマジャクシがカエルになるごとく、尾が消えて足が生えてくるんだろうよ。そうであってほしい。
今日はこれで終わりだった。あまり疲れない霊狩りだった事に感謝してるぜ。
沢村と俺は駅まで並んで歩いて行った。新たな仲間、ププと一緒に。