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「ねぇ、ユギ。領主が子供達の剣を見てくれるんだって。そういうのやってるんだねー、このあたり」
私がそういう話を振ったのは、ただ領主に関する話を聞いたからだった。
領主とは一度だけ挨拶を行った。厳格そうな雰囲気の男性だった。それでいてこんな辺境の地を治めているだけあって屈強な見た目をしている。
領民達から慕われている様子で、そういうのいいなぁと思った。
だって貴族によっては領民達から反感を持たれている場合もある。基本的にきちんと領地経営を行っていればそこまでのことはない。
だけど何かがきかっけで反乱など起こる可能性もある。そういうのよりも、平和な方がいいよなぁと思っている。
そういう大きな争いごとが起こると大変だと、そう思うから。
「……」
私の言葉を聞いて、ユギは顔をしかめていた。
領主に対して良い感情を抱いていないとかなのかな? なんだろう、私に対してもこういう表情をすることはあるけど、それ以上に重い感情を領主に抱いているように感じられた。
どうしてだろうと思って、じーっとユギを見る。
ユギって、何を考えているかあんまりわからない。
人を寄せ付けない雰囲気は常に醸し出していて、何かを抱えている様子は見受けられる。
私が知っているのはそれだけだ。
「……ユギって、貴族が嫌い?」
「貴族に対してはそこまで良い感情はない」
「そっかぁ。私が貴族だって言ったら?」
私がそう言えば、ユギは何を言っているんだ? とでもいうような表情を浮かべる。
「お前が貴族のわけがないだろう」
「なんで? 本当のことだよ?」
「貴族の娘は一人でこんなところで魔物討伐なんてしない。それに異性と一緒に居るのは間違いが起こる可能性があるだろう」
私はユギの言葉を聞きながら、何だか不思議な気持ちになっていた。
だってユギって、貴族を気に食わないと言った様子なのに……貴族のことをなんだかんだ理解しているように思えたから。
ユギってもしかして貴族に関わりあったりするのかなぁ。
それにしても私は本当に貴族の娘なのに、全然信じてもらえないのは逆に笑ってしまう。
私は紛れもない伯爵令嬢ではあるのだけど、フロネア伯爵家は貴族の中でも本当に例外なのだ。だからこそ、貴族令嬢には見えないのかも。
「間違いねぇ……。私のお母さんとお父さんは、私が無理やりそういう目に遭うとかは考えない気がする。私は本当にそういう風な意味で襲われたら全力で抵抗するし。もし私が同意の上でそういう関係になったのなら多分祝福はしてくれると思うしねー」
「……やっぱり貴族じゃないだろう。貴族はそう簡単ではないだろう」
そんな風に呆れた目で見られる。
でも確かに普通の貴族だとそうなんだよなぁ。婚前交渉に関しては結構厳しめだし、男女で二人きりになるとそういうことを勘繰られたりもする。だから結構皆気を付けているはず。
確かにそういう点を考えると、普通の貴族令嬢ならこうやってユギと二人きりにもまずならないもんなぁ。それに自分探しとかいって護衛も連れずにぶらぶらするなんてありえないだろうし。
……ユギって私が本当に貴族の娘だって知ったらひっくり返るほど驚きそう。それはそれで面白いなと思うけれど。
こんな私だけど、ちゃんと貴族教育は最低限は受けてるんだけどなぁ。
うん、一回、思いっきり着飾った私でもユギに見せてみたいな。なんかそう考えると悪戯を試せるみたいでワクワクしない?
「本当に私が貴族だったらどうする?」
「どうするも何も……。そんなわけないだろう。平民が貴族を騙ると大変なことになるぞ? 不敬罪で罰せられたらどうするつもりだ?」
「んー、大丈夫だよ? 私は本当に貴族だし」
第一、フロネア伯爵家の娘である私を罰するとか周りはしたがらないと思う。
お母さんもお父さんも、国にとっては敵に回したくない存在なのだ。大体片方だけでも一国ぐらいどうにでも出来るぐらいに凄い人たちだ。
私に何かあれば、まず二人とも黙ってない。
うん、そういう点考えると私が自由に出来るのって両親の娘だからというのもあるんだよなぁ。
国の外に出ているソル兄はそういう庇護下から離れて、自由気ままに生きていてその点も凄いなとは思う。
ただ国外に出ているからソル兄とかはあんまり帰ってこないからその点は寂しいなって思うけれど。
「ユギが信じるかどうかはともかくとして、私は結構色々出来る立場になると思うよー。だからね、ユギが何かしらやりたいなってことがあったら相談してくれたら考えるよ?」
私が笑ってそう告げた言葉をユギはやっぱり信じてなさそうだった。
ユギが何か望むなら、その点は色々考えた上で手伝えるなら手伝いたいなと思うぐらいには私はユギのことを気に入っているのだ。
だから私自身の戦う力や伯爵令嬢という立場を使うことはやろうと思えばできる。ユギが貴族に対して何か思うことがある事情とか、知れたらいいなって私は思う。