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「こんにちは!」
私はその少年――ユギエーレに話しかける。
名前を本人は教えてくれなかった。でも他の人が、名前を教えてくれた。
不思議な雰囲気のその人は、確かに言われてみれば綺麗な見た目をしている。黄緑色の髪はさらさらで、その赤い瞳は見れば見るほど綺麗だなと思う。
でも綺麗な点よりも、その誰も寄せ付けようとしない雰囲気が気になる。
私が話しかけると、一瞥して、面倒そうにすぐに視線を逸らす。
私に立強いて関心が一つもない様子。うん、それも面白いかも。
この辺境にやってきて、私がフロネア伯爵家の娘だって知らないからと今までにない態度をされてはきた。でもこれだけ冷たい目をされることはあんまりない。
なんだかんだ私の見た目はあまり人に嫌悪感を抱かせない素朴な感じだからか、結構皆優しくしてくれる。
「ねぇ、どうして無視するの? 名前、他の人に聞いたよ。ユギエーレっていうんでしょ? ユギって呼んでいい?」
私はにっこりと笑って、ユギエーレに問いかける。
愛称で呼んだ方が呼びやすいなと思ったので、そう言っておく。でもまた無視された。
「ねぇ、無視しないでよー」
「……」
「そんなに私と話したくないの? 私は君のこと、凄く気になっているよ?」
「……」
「ねぇ、どこいくの? 魔物を相手にするの?」
「……煩い」
速足で歩くユギエーレはようやく私に答える。でも煩いって言われた。煩いなんて言われたことは驚いたけれど、返事をしてくれたことは嬉しかった。
それにしても本当に、私のことに興味がなさそう。うん、面白いなぁって思う。
「やっと返事してくれた!」
私が喜ぶと、変な生き物を見るような目で見られる。
こんなことで喜んでいることが不思議なのかな? でも返事をしてくれただけで嬉しいものだよね。
「ところでまた魔物倒すの?」
「お前には関係ないだろ」
「私も一緒に行っていい? あと、私と戦おうよ」
私は続けて、そういう。
一緒に行ったら楽しそうだなと思った。それに戦ってみたいなというそんな好奇心が芽生える。私の言葉を聞いて、呆れたような目を向けられる。
「命を粗末にしようとするな。……お前、最初に会った時も危険な場所に一人でいただろう。そういうのはやめた方がいい」
「あははっ、私のことを心配してくれているの? 大丈夫だよ。私はとっても強いから!!」
おかしいなって思う。だって、私のことをこんな風に戦闘面で心配する人なんていないもん。
私はお母さんとお父さんの戦闘の才能を誰よりも引き継いでいる。
だからフロネア伯爵領で私にそういう心配をする人は居ない。それにこの辺境の地でも私は結構派手に動いているから、私のことを心配する人ってあんまりいない。
ユギエーレは人に興味がなくて、周りの噂なんかも聞いていないのだ。
だから、私のことも知らない。
うん、そういう点も凄く面白いなって思う。
私の言葉に信じてなさそうに、じっと見つめてくるユギエーレ。
「信じてないでしょ? なら、すぐに見せるよ? 私は魔法も剣も、得意だから!」
私が満面の笑みでそう言い切ると、やっぱり訝し気に見られる。なんだか信じてなさそうだなというユギエーレの腕をつかむ。
「ほら、見せるから、いこ? ユギエーレはギルドで依頼受けてるの? 私は狩ったのを売るだけなんだけどさ。依頼受けているなら、手伝うよ?」
「……ああ、もう、分かった! 行くから腕を離せ。あと依頼は自分でこなす。お前の助けは不要だ」
「そっかぁ。じゃあ、私、見てるね?」
「なんでだ?」
「ユギエーレの戦い方がいいなぁって思うから! あと、ユギって呼んでいい? いいっていうまで言うよ?」
「……はぁ、好きにしろ」
「じゃあ、ユギって呼ぶね」
ユギエーレ――ユギは私の言葉を聞いて、諦めたように頷く。
愛称で呼んでいいと言われると何だか嬉しくなった。魔物の生息地に向かうまでの間、私が「ユギ」と何度も口にしていたら、「なんでそんなに名を呼ぶ?」と怪訝そうな顔をされる。
「だって愛称で呼んだら仲良しな感じするでしょ? なんだか嬉しいなぁって」
「……そうか」
「うん!! ユギも私のこと、呼び捨てでも何でも好きな呼び名でいいよ?」
「……名前、なんだった?」
「前に言ったの覚えてない? 私はヤージュ。よろしくね、ユギ!」
「分かった。ヤージュ」
私の言葉にユギは諦めたようにそう言った。
私は益々嬉しくなって、ご機嫌になった。
それからしばらく歩いて、私達は魔物の生息地につく。それまでの間、八割ぐらい私が喋っていた。ユギはあんまり喋らないタイプみたい。仲良くなったらもっと喋ってくれるようになるかな? いっぱい話してくれるぐらいに仲良くなれたらいいなぁってそう思った。
さて、一先ず私の強さを信じていないユギに私の戦い方を見せようと!