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――手の付けられない少年がいる。
――声をかけたのに無視をされた。
――でも魔物討伐でとても活躍している。
私はそんな噂を聞くようになった。その噂の主である少年とは、中々会う機会はなかった。ただそういう人もいるんだなとそう思った。
私はずっと限られた世界で生きていて、誰かに話しかけられて無視をするという人にはあまりあったことがなかった。それに噂を聞いている限り、ただただ余裕がない人に見えて……、何があってそうなったのだろう? とそんな疑問が芽生えた。
何かがあってそういう風な態度になってしまう人がいるのは知っているけれど、今までそういう人と遭遇したことはなかったのだ。
それに私と同年代らしいのに、そんな風な様子なのが気になった。
その少年は最近、辺境へとやってきて……、一心不乱に魔物討伐を行っているようだった。
冒険者ギルドにも所属しているようで、他の冒険者達に絡まれたりもよくしているらしい。
私が冒険者ギルドに魔物の素材を売りにいった際に、その人の噂をしている人たちのことを見かけた。
話しかけて冷たい態度をされてしまったと文句を言っていた。その話しかけた冒険者達も、別にその少年に対して嫌な感情を抱いているからではなく、心配しているからだというのが分かる。
まだ十代で、たった一人で、周りを寄せ付けずに生きている様子に危なっかしさを感じているのだろうなと思う。
私はその噂を聞いて、気になってはいた。
だけれど見かける機会もなくて、私はその人と話すこともなかった。
――そんな私がその少年と出会ったのは、ある日、いつものように魔物討伐を行っている時だった。
剣を振るって、魔法を行使し、現れた魔物を倒す。
私は戦う時には、あまり頭を使ったりはしない。というか、魔物と戦うことに関しては、直感的に対応ばかりしているのだ。
それでうまくいくのが私がお母さんに似ている部分ではあると姉や兄に言われたことがある。
その最中に魔物が集まっている箇所を見かけた。
気になってそこに駆けつけて、そして見かけたのが一人の少年が魔物に囲まれている様子だった。
もしかしたらあの人が、噂の少年だろうかと私は気づいた。
全く持って余裕がない様子。
戦い方が荒々しくて、だけれども強いことが分かる。私は同年代の人たちが戦っている姿をそこまで見たことはなかった。でも……その人が強いことは分かった。
なんというか、戦うためのセンスがあるのが分かる。
その戦い方を見ていると、ワクワクしてくるのは私が戦うことを学び続けていたからだろうか。
じっと私はそれを見つめている。
命の危機があるのならば助けようと思ったけれど……、彼は特に危なげもない。
ただただ攻撃を繰り出し、魔物を倒しつくす。その様子が綺麗だなと思った。
センスがある人の戦い方というのは、見ていて目をひかれる。
お母さんとお父さんの戦い方も、凄いなって、見ていたら目を離せなくなる。それと同じような感じがこの少年にはあるなぁと思った。
というか、戦ったらどちらの方が勝つだろうか。
そんなことを考えて私は戦ってみたいなという気持ちが出てくる。
私に勝てる人って中々居ない。それは私が戦闘の才能を持っているからこその事実である。
だからこの少年となら、戦ったら楽しいのではないかとそんな気持ちばかり抱いている。
そうやって見つめている中で、戦闘が終わる。
そしてその少年が、私の視線に気づいていたらしい。
「誰だ?」
そう問いかける言葉は、酷く冷たかった。
こんなに冷たい言葉をかけられるとは思ってもいなかったので、私は驚く。
「――私はヤージュ。このあたりで魔物討伐を行っているの。貴方の名前は?」
私がそう問いかければ、
「……俺に近づくな」
そんな風な言葉を言われた。
名前を聞いてこんな態度をされるのも初めてだった。
「そんなこと言わないでよ。ね、名前は?」
私が再度問いかけたら、その少年はそのまま踵を返して去って行ってしまった。
……私はしばらく彼を追いかけていた。素早くて驚いた。
結局、街までついて行ったのだけど……、宿の部屋へと籠られたので一旦諦めた。
私がその少年について回ったことは驚いたことに、すぐに街中に広まっていた。それは私自身がこの街でそれなりに目立っているからかもしれない。
「どうしてあの男を追いかけていたの?」
「強そうだったから」
街の人に聞かれた言葉にそう答えれば、何とも言えない表情をされた。
こういう風に戦闘面で人を判断することは変わっているらしい。それにその少年はとても綺麗な人だから、その点で気になったのではないかとそれも疑問を言われた。
でも私は綺麗な人は家族で見られているから、そんなに気になる点じゃないのよね。




