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4/28 一話目
お母さんがニマニマしている。なんでそんな風に、顔を緩ませているのか分からない。
……お母さん、私達のことを凄く可愛がっているからたまにこういうちょっとだけ変な表情向けてくるんだよね。
「お母さん、なんで、そんな表情を私に向けてるの?」
「私の娘は凄く可愛いなぁって思って」
「何が?」
どこでお母さんが私のことを可愛いなどと判断したのか分からず、私はそう問いかける。だって何言っているのかよく分からないんだもん。
「だって、ヤージュってユギくんのこと好きでしょー?」
「え? そりゃあ、ユギのことは大切な友達だと思っているけれど」
「んー? 違うと思うよ? ヤージュがこんな風に誰かに執着したり、誰かの傍に居たいって思うの初めてでしょう? 私はヤージュが恋愛的な意味でユギ君のことを好きなんじゃないかなと思っているのだけど」
お母さんに軽くそんなことを言われて私は固まってしまう。
お母さんは固まった私をにこにこしながら見ている。
「……私が、ユギを?」
「うん。だってヤージュって、私と性格が似てるでしょ? 新しいものも好きだし、楽しいことが好きでしょ?」
「うん。それはそう」
「そんなヤージュが自分探しで色んなことをしようって決めている中で、たった一か所に……それもただ一人の傍に居るだけでもそういうことだと思っていたんだけどなぁ。ヤージュはユギが誰かと一緒に居たりしたらもやもやしたりしない?」
お母さんはずっとにこにこしている。
きっと私と恋話が出来ることが面白くて仕方がないのではないかと、それがよく分かる。
こうやって面白がられると……私はちょっと恥ずかしい気持ちになる。
けれど、お母さんの言った言葉について私は考えてみる。
――私はユギのことをそういう意味で好きなのだろうか?
私は恋というものを知らない。誰かに対してそう言った特別な感情を抱いたことはなかった。それは私がお母さん似で戦う力を持っていたからともいえる。だってね、私が魔物を簡単に倒せたり、人のことを簡単に殺せるぐらいの力を持っていることは正直言って恋愛対象から外れることではあるの。
お母さんもそうだったって聞いたことがある。
それだけ強い力を持っているということは、怖れられ、自分達とは違う存在だと思われてしまうということ。
私も何気なく話していた子が、私がお母さんとお父さんの娘で、それでいて強い力を持っていることを知ったら態度が変わってしまったことだってあった。
男性が自分より強いのならば、女性側はかっこいいと受け入れるけれど。
女性が自分より強いなんてことだったら、男性側は受け入れにくかったりするのだろうというのも理解は出来る。
小さくて、可愛くて、戦う力もない女の子。
私の長兄であるラト兄の結婚相手はそういう子だったけれど、本当にびっくりするぐらいか弱いのだ。それこそ私達姉弟からしてみれば何気ない、すぐに解決できるような場でも彼女はすぐに命を落としてしまうだろう。
そういう女の子の方を好む人も当然沢山いるのだもの。それもあって私は自分が恋をするとかあんまり考えてなかった。
私にとって関係がないものだって、そんな風に思い込んでいたと言えるのかもしれない。
それでもそうか。
私も……恋をしてもいいというか、お母さんからしてみれば恋をするのはきっと当たり前のことなんだよね。
私はユギのことをどう思っているんだろう。
でも確かに私はユギが他の人達と仲良くしていたら嫌かもしれない。ユギがお母さんのことを尊敬している様子でキラキラした目で見ているのもちょっと面白くなかった。
……それもお母さんにユギを取られたくないって思っていたからなのかもしれない。私と一緒にいるよりもお母さんと一緒にいる方が嬉しいと思われたら悲しいなと、そんな気持ちでいっぱいになってしまったからなのかも。
私はユギが私よりも誰かを優先したり、私のことを放置するのは嫌だなって思っている。
ユギのことを独占したいなみたいな、そんな気持ちさえも私は芽生えているんだと思う。
「……お母さん、私、ユギのことが好きかも」
私がそう口にすると、お母さんは益々顔をにやけさせる。
もう……お母さんは本当に仕方がないなぁとそんな気持ちになる。
「そうなのね!! ふふ、とても良いことだわ! ねぇ、告白はいつするの? 結婚するって言うなら私がお祝いをして認めるよー。私が認めておけば誰も文句は言わないはずだからね!!」
「お母さん、気が早いよ。えっと、告白はするよ。だって私、躊躇している間にユギが誰かに取られちゃうなんて嫌だもん」
「うんうん。そうだよね。むふふー」
「お母さん、変な笑い声上げないで。……告白はするけれど、ユギが断るかもでしょ」
「ヤージュは可愛いから、大丈夫だよ」
「お母さん、楽観的すぎ」
私は思わずそう言って文句を言ってしまう。だってね、私が告白したところでユギが受け入れてくれるか分からないじゃん。
それで不安なのに、全くもう……。どうして本人じゃないお母さんが大丈夫なんていうのよ。
そんな風に思うけれど、まぁ、一旦告白はするよ!




